第25話:歪んだ成長
ギ ン !
白い皮と対を成す赤の眼光が妖しく光る!
(頭が……ボーッとなって……あれ?俺なんでこいつと戦って……?)
ラーヴァの意識は混濁していく!
「ラーヴァ君!今助ける!符術解放!
「後は君だけだよフリジット君!『
カーツァラッテは皮を脱ぎ捨てフリジットの攻撃を躱そうとする。
「狙うは上だ!」
しかしフリジットもすぐに軌道を合わせる!
ビババババ! ピ シ ピ シ ……
「僕様は変温動物……寒さには弱いんだけどね……。」
(頭に当たったのに凍りきってない!?……いや何だあれは!?)
フリジットは新しいカーツァラッテの体に本来ヘビには無い分厚い毛皮が付いているのに気が付いた!
「まさか……攻撃を食らった記憶を下に攻撃に適応した新たな肉体を再構築している……!?」
「狼狽えてるね……?」ぐぐっ
パ リ ー ン !
カーツァラッテは頭部に付いた氷塊を剥がした!
「君も終わりだよフリジット君。『
「っ!」ぶんっ
フリジットは咄嗟に氷塊をカーツァラッテに投げつけ見られないようにする。
ぱきゅっ
「僕様を地面に落としたのは君でしょ。」
カーツァラッテは難なくその尾でそれを叩き落とした。
ギ ン
「ぐあっ」どさっ
「まだ君は殺さないであげるね。どうも君は……」
ジジ……ボ ヒ ュ ッ !
「へああああああ!?」
カーツァラッテの頭の中に突如として炎が現れ彼を内側から焼いていく。ラーヴァだ!
「何故!?
「お前が誰かは知らない。何でこんなところにいるかも思い出せない。だがこれだけは言える……!」
「先輩に手出す奴は例外なく俺の敵だ!ここで死ねクソヘビ!!」
「な……何い!?」
グツグツグツ……
「あっ あっ あ゙あ゙っ」
カーツァラッテの脳はグツグツと煮られる!彼は竜では無いので後数秒もすれば死に絶えてしまうだろう!
「う……うおおおお!!『
カーツァラッテは頭の中央部から第三の目を生やす!
カ ッ !
「クソ何だそれ……」ボヒュウウウ……シュウッ
ラーヴァの足の炎と遠隔で出していた炎が消える。
「あれ?何で……えいっ!」
ボ ボ ボ ッ ボ ガ ー ン !
「火が上手く……出せない!?いや……逆になんで
「今とは昔の集積体……!その過去を取っ払ってやれば誰だって赤子同然なんだ!」
ラーヴァは足の炎の勢いを強めすぎたばかりに自身でも動きが制御出来なくなってしまった!
「ああっ」ヒュウウ
ゴ ツ ン ッ !
ラーヴァは勢い良く岩に突っ込んだ!
ぴくぴく……
ラーヴァはあまりの衝撃に痙攣している!
「駄目だよ死んじゃ!?まだ君の記憶を見なくちゃ……」
カーツァラッテはラーヴァに詰め寄り安否を確認しようとした。
「ゔおお゙っ!」
ガ ブ
ラーヴァはカーツァラッテへ噛みつく!
「んん!?んっんがっ!」ブゥン!
ズザーッ……
「はあ……はあ……。」
最後の力を振り絞ったラーヴァは再び地面に叩きつけられ失神した。
「恐ろしい……まさか第三の目まで使わされるとは……。」
カーツァラッテは第三の目を閉じる。
「ああ……痛い痛い……あまり使いたくは無いんだけどな……。」
寒さに適応した体皮を得たとはいえ腹部の凍傷は完治していない。カーツァラッテはズルズルと動きメグメグのいる場所へ行った。
ずる……ずる……
ヒュウウ…… ダ ン !
這いずるカーツァラッテを上空から襲うものあり。
「ん……メグメグさんだね……?上にいたんだ。」
「吸い取り攻撃!」キュウウウウン……
「やめてよメグメグさん。もうあの二人は倒したんだ。真の力を封印されているメグメグさんじゃ勝てないよ。」
「そんなのやってみなきゃ……。」
ゴ ロ ン ゴ ロ ン !
「わわっ」
カーツァラッテは胴を横にローリングする。メグメグがふるい落とされたところで彼は反対側に回転し彼女を潰さぬよう立ち回った。
「メグメグさん、いつものお姉さんの姿になって欲しいな。話したいんだ。メグメグさんと。僕様も話しやすい姿になるからさ。」キュオオオオ……
メグメグがいつもの姿に戻るとカーツァラッテも人の姿になった。白のマッシュルームヘアに細長い手足、色白の肌は幸薄の美少年を思わせるが人に化けても変わらぬ蛇の尾と蛇眼が彼が只者ではない事を示しているようだった。
「メグメグさん……いや!メグメグ!……ふぅ、呼び捨てにしちゃった……。うぇへへ……。」
「交渉内容は何?カーツァラッテ君。」
「そ……そんないきなり!?いや……この一万年お互い色々あったでしょ?積もる話をしてこうって事で……。」
「うん……そうだね。と、取りあえず人の姿をしてる以上服は着よっか!カーツァラッテ君、寒さには弱かったでしょ?」
「覚えててくれたんだ……メグメグ優しいね!」
「はい、私の上着!」ばさっ
メグメグは自分の上着を被せると近くの石の突起に腰を下ろさせた。
「ありがとう……でも今度はそっちが寒くない?」
「私にはこの尻尾が有るから!気にしないで!」
「一万年経ってもメグメグは変わらないね……。温かいや。」
「そう?私も色々あったけどね……。」
「波乱万丈あっても心がぶれてないんだろうね!対照的に僕様は凄く変わったよ!」
「そうだね。一万年前より凄く強くなってるし、会話も淀みなく出来るようになってる。」
「うん!弱くてダサい僕様は死んだ!この一万年能力を磨いて僕様は強くなったんだ!」
「弱くてダサいって……私はそんな事思わなかったけどな……。」
「でも強くなった僕様、かっこいいでしょ?」
「かっこいいけど……私の仲間にした事はちょっといただけないかな。」
「ああ、一応皆メグメグの仲間だって分かってたから、記憶を奪って返すだけで本気で殺すつもりはなかったよ!あの
「……私達がガネーシャ様に託された使命は覚えてるよね?」
「覚えてるけど……
「そういうわけにはいかないでしょ!私達何の為に一万年生きてきたのって話になっちゃうじゃん!」
「そんなの強くなってあの方に反逆するためさ!僕様は今それについても作戦を進めてるんだよ!」
「作戦……?」
「記憶を司る僕様の術……短期的な記憶を消す
「悪夢を見せる能力?それ。」
「いや、記憶の深層を本人の意識と共に読み解いていく能力さ。あの子は中々の過去が有りそうだから結果的に悪夢になってるだけでね。人によっては寧ろ奥さんや両親、家族との幸せの日々とか、自分の人生のターニングポイントになった成功体験とかそういうのを見る事もあるよ!まあ記憶は段々本人から抜けてっちゃうんだけど。他人に介入されると上手く維持できなくなっちゃうのかな?」
「島の男の人達が最近の記憶しか無かったのは……!」
「僕様が地下で眠りについていた時に無理矢理起こされたからね!気晴らしに劇場会にでもしてやろうと思って!ほら!僕様強くなったから!」
「それは違うよカーツァラッテ君……!自分より弱い相手を傷つけるのは強さなんかじゃない!それはカーツァラッテ君が一番分かってるんじゃないの!?」
「違うよメグメグ。寧ろ僕様は……あいつに、ルゲイッソヨに分からせられたんだ!弱い奴は奪われるだけ……!強ければ何をしても良いんだ!所詮この世は弱肉強食……!」
「そんな事言っちゃ嫌だよカーツァラッテ君!」
「でも事実としてルゲイッソヨは今も君の能力を消したままじゃないか!君も僕様の言ってることが正しいと内心思ってるんじゃないか?」
「思ってるけど!だからこそ、強者はそんな事言っちゃいけないんだよ!強くて何でもできる存在だからこそ純真で弱者に向き合わないといけない!弱者を守らないといけないんだよ!」
「何さその義務感!僕様達は望んだわけでもなく生まれさせられ、その上一万年放置されて、その間得た力も誰かの為に使わなくちゃならないの!?僕様達はこの世界の奴隷でも、あの方の奴隷でも何でもないんだよ!」
「……カーツァラッテ君は違うかもしれないけど私は奴隷で良いよ。誰かに尽くさなきゃこんな能力意味が無いって私は思っちゃうから。」
「……ごめん。変わってないは嘘だったね。まさかメグメグがこんなにも卑屈になってたなんて。でも僕様はメグメグと『ヴァルシュバルト』には恩があるんだ。まだ僕様が弱くてちっぽけな存在だった時、ルゲイッソヨから庇ってくれた恩が。ああ、作戦の続きを言うね。僕様は……あの子が生まれてくる時の、根源の記憶を覗こうと思ってる。」
「根源……?ラーヴァ君には多分お母さんは……あっ!」
「そうさ。あの子を生み出したのは恐らくガネーシャ様。ただあの子を道端に捨てたってわけじゃないだろう。きっとあの子に何か渡してるのさ!何かあった時自分と繋がれる様に出来る安全装置……とかね!一万年準備期間があったんだ、絶対仕込んでるはず!」
「そういえば私がキスした時ガネーシャ様に会ったよ!」
「あぁそうみたいだね!もうその記憶も見たよ!それは恐らくメグメグが最初に接触した七聖獣だからだよ!それを見て僕様は確信したんだ!この子には何か仕込まれてるって!あの子を殺さないのはそういう理由もあるね!」
「でも根源の記憶なんて見たら……。」
「まああの子は大切な物も人も忘れちゃって、ただの記憶喪失の人間になっちゃうだろうね。でも良いんじゃない?術も使命も何もかも忘れたら、あの子をメグメグの言うその強者の義務から外してやれるじゃないか!そして僕様と僕様の仲間の二人であいつを!ガネーシャを倒しに行くのさ!うぇへへ、僕様ながら完璧〜!」
「……ごめん!やっぱり私はカーツァラッテ君には味方出来ない!」
「……メグメグはガネーシャ様が正義の心で動いてると思う?僕様はそうは思わないな。悪とも言い切れないけど、あいつは止めるべきだと思う。弱者達を守ってあげる為にもあいつを倒すべきじゃない?ねえ。」
「ううん。違うの。これは弱者の為とか……正義の為みたいな強者の義務の前に……私自身の
「え……」
「辛い事も沢山あったし……ラーヴァ君に関しては、いや私が悪いところもあるんだけどちょっと酷くない?って思う事もあるけどね……。でもそれ以上に三人で大きな事を成し遂げて、沢山の人から感謝されて、ふとした時にくだらない様に見える事で笑い合える……。今の旅がこれまでの狐生の中でいっちばん楽しいの!だから私はカーツァラッテ君にはついていけない!このまま旅を続けていきたいの!!」
「……ああ。そっか。分かったよ。メグメグがどこまで卑屈になってたか。影の英雄になんてなりたくないんだ。表舞台にたって、皆の歓声を浴びて、それで自尊心満たしたいんだ。さっき言ってた弱者に向き合うだか何だかも都合の良い言い訳なんだ。弱者を出汁にするところは僕様と同じなんだ。あのルゲイッソヨと同じなんだ。」
「……そうかも。ううん、そうだねきっと!私も結局強さを利用してやりたい事やってるだけだね!でもこれだけは譲れないから!だから……決別だね。」
「うん……あーあーそっかメグメグが昔僕様の事守ってくれたのも気持ちよくなりたいだけだったんだ〜僕様の真の仲間はヴァルシュバルトだけだったんだ〜。……はああ……まあ良いよ。あの子、今気絶中に夢を見てる。それ読み取って記憶奪うから。多分後二回……今夜の睡眠であの子にとってのその楽しい旅の思い出も皆消えるから。明日もう一回チャンスをあげるね。うん。過去の恩と今日かけてくれた上着に免じて今回は勘弁してあげるから。」
カーツァラッテは声の抑揚を抑えつつもメグメグをまくし立てる。
「あ、でも、最後に。」
「うん?」
「ハグして。」
「うん。良いよ。」ぎゅっ
メグメグの尻尾がカーツァラッテの尾までをも包み込む。彼は一万年ぶりの温かな、柔らかな抱擁を味わった。
「ありがとう。もう十分だよ。温かいね。心は冷たいのにね。それじゃあ……。」
カーツァラッテはそう言うと歩いて去っていった。
「カーツァラッテ君……。」
――夢の中――
「う……ここは……。」
ラーヴァが目を覚ます。そこは大きな建物の一室の様だ。下の階からは子供達の元気な声が聞こえてくる。
「……これは……先生が亡くなって二年経った辺り……ジャニエルと初めて交戦した時の少し前か……。」
「やあ。起きたんだね、ラーヴァ君。」
「!」
落ち着いた若い女の声だ。元来声が高い人間が相手を刺激しすぎないようわざと低く出している様なその声はラーヴァが最も嫌悪する人物の一人から発せられている。
「え?何でって……カルマ君と共に夜通し体を鍛えてたんだろう?君達広場でそのまま寝込んじゃってたよ。それを皆のお家に運んでやっただけさ。」
「もうこの時には始めてやがったんだよなこいつ……。」
「あっもうこらこら!フフ、僕も君達の事大好きだよ。」
ラス姉は抱擁のポーズを取る。
《『ラスト』姉さん大好きです!》
「おえっ……」
当時の無知だった自分の姿が見えなくともありありと思い出される。
「さてとカルマ君は……もうしがみつかないでってば!いなくなったりしないよ僕は!」
「いなくなれよお前は!俺の記憶から!」
ラストは炊いた米の臭いをカルマに嗅がせる。
「ふがぁ……あっ!もう朝かぁ……。」
「いいや昼だよ。」
「ええっ!?まじかよラス姉ぇ!」
「ラーヴァ君も今起きたところだから、三人で一緒にお昼を食べようじゃあないか。」
「イエッサー!」
ラーヴァ達は昼食を取った。
「そういえば夢の中でも米って食えるのかな……。」もぐもぐ
「味がしない……夢だからかな?」
ラーヴァは外に生えている草をむしって食べた。
「苦いな……でもこっちは味がする……米の味忘れちゃっただけか……。」
ラーヴァは視線を茶碗に戻す。誰もいない様に見えるのに勝手に米が減っていくのは少し面白かったが、この後の展開を思い出すとそんな気持ちもすぐに無くなってしまった。
「行くぞラーヴぁ!ひたすら訓練だぁ!」
「えっ 農作業ぅ?あっ 忘れてたぁ……。」
「君達はもうこの村の立派な防衛力なんだから!気にしなくて良いよ!ただ昨日みたいに広場でそのまま寝るのは駄目だよ?」
「分かったぜぇ!おらおら早くお前も木刀持って広場に来いよぉ!ラーヴぁ!」
「お……場面転換か……。」
二人は広場へ移動した。記憶というのは案外雑なもので印象に残っていない移動の時間は本来よりもずっとすぐに終わった。
「受け止めてみろラーヴぁ!木製といえどただじゃ済まないぜ?おらぁ!」ブオオッ
カルマはハンマーを振り下ろす。それは空中で止められた。
「ちぃやるなぁ……!なら今度は横からだ!」ぶおんっ
「カルマの馬鹿……実践でいちいちそれ言うのかよ……。ってここで言っても意味ないけど……」
「あんっ」
不意に少女の声がした。
「えっ 何今の声〜!ラーヴぁお前被弾ボイス可愛いじゃねえかぁ〜!」
ボコッ ボコッ
「あいたたたぁ!嘘だって冗談だってぇ!」
「たしかこの後俺が仕掛ける番になって……。」
「良いぜぇ!どうせ叩くなら鍛えるのと兼ねちまったほうが良い!恨みの力を込めてこ」
ド ズ ム ッ
「うごえぇ!」 「んにゃ〜♡気持ちいい〜!」
「……なんだ今の声!?いやオイラの声じゃねえからぁ!ラーヴァてめえ後で仕返しだからなぁ!」
「まあそれは置いといて……今のちょっと調べてみない?……って言ったんだっけ。」
「ん……そうだなぁ!オイラのドМの疑いを晴らさねえとだしなぁ!」
カルマは声のする方へ行く。広場の反対側であったため視界に映っていなかったが物陰や茂みで何かをしていたわけではないようだ。追いかけっこをする子供達の側でそれは平然と行われていた。
「はあはあはあ!あんっ 大きくなってるっ♡お腹の中でえ!」
「だめ……僕もう……。」
「うん!良いよぉいっぱい気持ちよくなってえ!」
「……ラーヴァお前あれ何してるか分かるかぁ?」
「……流石に分かるよ。って言って……。」
八歳かそこらの女の子が男の子にまたがっておままごとをしていた。服の上からとはいえ女の子は男の子にボスボスと腰を打ち付けている。随分と生々しい動きと台詞だ。
「オイラも小さい時両親の見ちゃったなぁ……。こういうのって中々忘れられないんだよなぁ。あんなにかっこよかった親父がオカンに良いように扱かれてて……。あれに次ぐインパクトだわこれ。」
「親父さんのМが遺伝してんじゃねえのかさっきのは。」
「はぁ!?なわけねぇだろラーヴぁ!言って良いことと悪いことあるぞおい!というか今オイラ関係ないって証明できただろ!」
「あっ 当たった……。意外と覚えてるな俺……。まあトラウマと結びついちゃってるんだろうが……。」
二人が話しているうちに子供達の一連の動きは終わりを迎えたようだ。
「お疲れ様!どうだった?」
「あう……気持ちいいけど……恥ずかしかった……。」
「そう?でも気持ちいいのは神様の贈り物なんだから!全然恥ずかしいことじゃないんだよ♡」
「ほんと?お姉ちゃんも気持ちよかった?」
「もちろん♡気持ち良かったよ♡大好き♡」ちゅっ
「う〜わ〜恥ずぅ……。ピロートークまで再現されてんじゃん……親これ一生の恥だな。」
「あれ?でもあの子達俺達と同じ孤児院の子じゃない?」
「あ……確かにぃ。そういえば性教育とかしてないもんなウチぃ。イヤでもだからってこんな真っ昼間からするかねあんな事。う〜見ててこっちにまで衝撃が伝わってきたわぁ。」
「……ここで食い止めていれば……。」
ぐにゃあ
「お……場面転換か……。……もうこれ以上見たくないし、何とかして悪夢を見せてくるあいつを見つけないとな。カルマ……お前は今回は違うよな?」
「まあいいや訓練戻ろうぜぇ〜!」
どうやらカーツァラッテはカルマの役をやっているわけではないらしい。
フッ
気付けば夕方になっていた。
「お〜い!今日はもうアガリにするぜぇ!ラス姉!料理手伝うぞぉ!」
「おお本当かい。ありがとう。ただその泥のついた手で食材に触れてはいけないよ。」
「あ〜い。」
夕食は孤児院の皆で一斉に食べる。ラーヴァ達年長組は年少組のお世話をして上げるのも仕事だった。
《ほら、はいあ〜ん。》
ラーヴァはここで緑髪の男児にご飯を食べさせてやっていたのを思い出した。
「ん!きょうのラーヴァお兄ちゃんが作ったんだよね?」
《そうだよ!まあ殆どラスト姉さんがしてくれて、寧ろ俺達は足手まといだったけどね!》
「お兄ちゃん凄い!」
「お〜い!もう食べちゃってるか?」
外から農夫が訪ねてきた。ラストが対応する。
「ほらこれ!良かったら食べちゃって!」
「良いのかい?いつも本当にありがとう!おじさんも苦しいだろうに……。」
「良いんだよ!子供の皆がいっぱいご飯を食べれるのが一番大事なんだからよ!それにこれだけの子供を一人で面倒見てるなんて、本当にお嬢ちゃんは偉い!お嬢ちゃんも少しでも楽してくれよ!」
「農夫のおじさん……そういえばジャニエルを倒した後挨拶に行かなかったな……。確か生きてるはずだしいつか会いたいな……。このクソ女の事が発覚して……おじさんもショックだったろうな……。」
「皆もほら!ありがとうって言おう!せ〜のっ」
「「「ありがとうございま〜す!」」」
子供たちは夕食を食べ終えるとすぐに眠りにつく。文明が破壊され、まともに明かりが無いので、夜はまともに外を出歩けない他、そもそも娯楽に乏しいためである。ラーヴァとカルマはこの日の夜ラストに詰め寄った。
「そうなんだよぉ!ありゃ……『エミリー』と『ラガーン』だったかなぁ?真っ昼間に広場でズッコンバッコンごっこ遊びしてて……。昔見た親のアレなのかは分からないけどよぉああいうの平然と外でやるような状態は不味いと思うんだよぉ。いや、性『教育』したのバレたらジャニエルに殺されるってのはわかってるんだけど……何とかならねえかなぁラス姉ぇ!」
「俺達が頼る事が出来る年上の人はこの女だけだったな……今にして思えば全部この女の手のひらの上だったんだろうな……。」
「そうだね……二人の言う通りだ。そういう言動を外でしているのは由々しき事態だ。よし、お姉ちゃんの方で近々皆に教育をするよ。ジャニエルが飛び立った次の日にね。伝えてくれてありがとう。」
「へへ、良いって事よぉ!」
《じゃあ俺も寝ますね!ラスト姉さん!》
「あっ待ってくれラーヴァ君。この前頼んでた君のハンカチ、裁縫し直しておいてあげたよ。」
「……うげっ」
《本当ですか!?ありがとうございます!これ、先生から貰った大切なハンカチで……。》
「ああ。分かっているさ。先生さんの意志を汲んで水切り種草の刺繍は残しておいたよ。はい、どうぞ。」
《わ〜!好きな人が作った物を好きな人が直してくれた!俺すっごく幸せです!》
「フフ、そうかい。呼び止めてすまないね。じゃあ、お休み。」
「……燃えろ!」ボッ!
ラーヴァは不慣れにされてしまった状態ながらも炎を起こす。カーツァラッテは彼女に化けているわけではないようだ。彼の炎が記憶の中の彼女を焼く事は無かった。
ぐにゃあ……
「不味い……もう……見たくない……。」
場面は切り替わる。ラーヴァは森の中を走っている。ジャニエル討伐作戦が失敗し、カルマとプリンスに追われていた場面だ。当時のラーヴァの行き先はただ一つだった。
《ラスト姉さん!助けてください!》
「どうしたんだい!?その傷は……。」
《カルマとその仲間に……殺されそうなんです!あ、ああ……このままじゃ……》
「分かったよ!この建物には秘密の部屋があるんだ。そこに匿ってあげる。おいで!」
《は、はい!》
ガチャン
ラーヴァは地下の隠し部屋に入った。
「ラス姉ぇ!ラーヴァを見なかったかぁ!?あいつ急にどっか行っちゃって……この建物にとか!来てないか!?」
「いや……来てないね。探してくれても構わないよ。」
「おう!助かるぜぇ!」
《カルマ……どうして……。》
「……。」
ラーヴァは部屋を見渡す。
《あれ?これ内側から開かない構造になってる?外側だけでいいはずなのに……。でもまあいいか。きっと何か意味が有るんだろう。頼むカルマまだ気づかないでくれ……!》
「意味……か。あったな……最悪の方向で……。」
コンコン
《ひっ!?》
「……カルマ君、行ったよ。開けるね。」ガチャ
ラストが部屋に入ってくる。内鍵を閉める手が曖昧に映るのは当時のラーヴァにとってはそこはさほど重要では無かったからだろう。彼女は部屋の壁側に置かれたベッドに腰掛け、隣にラーヴァを座らせる。
「カルマ君が少年自警団とやらを作るという話をしているね。何やら凄く殺気立ってる。」
《あの……それは……。》
「僕の胸へ顔を沈めるといいよ。話せるようになってから話してくれればいいんだから。」
《う……うう……!》
当時のラーヴァは彼女に泣きながら抱きついていた。彼にとって彼女はもはや唯一の味方であり、生きている者達の中で彼女は最も重要な存在になっていた。しかし当時は優しく添えている様に感じた手も、実際は獲物を品定めしていたに過ぎない事をラーヴァは知っている。
《俺達……ジャニエルの討伐に失敗しちゃって……カルマ達はジャニエルの下について……俺だけ反対したんです。それで今……命を狙われてて……。》
「そうかい。……でももう大丈夫だよ。」
「僕がいるから。僕が君の事ここで守ってあげるから。お姉ちゃんを信じて……ね?」
《うう……うわああああん!》
「大丈夫、大丈夫だよ……♡」
彼女はラーヴァの服の下に手を入れ肌と肌の間を真空にするようにペッタリと指を貼り付け彼の股間を含む全身を愛撫する。
「ゔっ……」
《な、何ですかいきなり……?》
「抱きしめるよりももっと、ラーヴァ君に寄り添いたいんだ。」
《成程……です。》
「はぁ……はぁ……。」
《あの……ラスト姉さん。》
「あ……嫌だったかい?」
「いえ、俺……ラスト姉さんにしてもらえる事なら何でも嬉しいです。だから俺、ラスト姉さんのいるところにずっと居たいです!」
「フフ、そうかい。」
ラストは暫くラーヴァの性的興奮を掻き立てんと全身をいじり倒していたがその言葉を聞くとスッと立ち上がり部屋の鍵を開ける。
「まだ何があるか分からないからその部屋にいるんだよ。」
《はい!》
ラストは部屋を出ていった。
「いずれ間違いなく自分の物になると確信したから無理に迫るのをやめたのか……?何にせよ俺は運が良かった……。」
ラーヴァはそこで数日を過ごす事となった。寝る以外に特にする事も無いその部屋ではかえって疲労感の無さから眠りに至ることも出来ず、ラーヴァは毎晩上の子供達の声を聞いていた。
「んあ……お姉ちゃん……?」 「!」
全てを知っている今のラーヴァにとっては耐え難い、罪を自覚する時間だ。
「うえ、なんか変なの出た……。」 「ここで気づけよ!」
「い、いく って言うの?」 「ボーッとすんなよ!盲目的に信じ込みやがって……!」
「これ、凄く気持ちいい!こんなの初めて!」 「頼む……もう……。」
「また夜になったらしてくれる?ほんと!?」 「うっ……おええっぐ……。」
いくつかの晩の記憶が過ぎ去っていく。いたいけな少年達が悍ましい悪意に曝されている声に、それを何か意味のある事だと信じてやまない愚かな自分に耐えきれず嘔吐する。
「おえっ おっ おっ おっ オロロロロロぉ……。」ビチャビチャビチャ パタタッ……
《上の声……何なんだろう……。》
記憶の中枢に眠る嫌なところだけを抽出した様な悪夢だ。日は昇り、そしてすぐに落ち、遂にその日がやって来た。
「おっ母どうしたの?」 「よ……ようやくか……。」
聞こえてくるのはひときわ高い少年の声だ。
「そこおしっこするところ……痛っ!?何?おっ母そこいじると痛いよお!」
《おっ母って……ラスト姉さんの事か……?イヤでもソドム姉さんが変な事するはず無いし……。》
「ラーヴァお兄ちゃん助けてぇ!」
その声の主はラーヴァが良く面倒を見てあげていた緑髪の目が悪い子だ。
《上で何が起きてるんだ!?ええい煌牙竜殺爆炎掌!》
ボ ガ ー ン !
《待ってろ今行く!》
場面が切り替わっていく。ラーヴァの前にはキョトンとしたラストがいる。
「あれ?ラーヴァ君も眠れなかったのかい?フフ、じゃあ君にも読み聞かせをしてやろうじゃあないか。」
「黙れ……!」
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