第24話:男の人は男の人と

ぼすっ ぼすっ ぼすっ ぼふっ

 冷却・寝床スノーベッドを使い安全に着地した一同。

「う……うう……。ここは……洞窟……ですかね……?」

「わからない。ただ、少なくとも人が生活してる事、そしてかなり広範囲に……下手したら島全土にこの空間が広がっているという事は言えそうだな!」

辺りを見回してみると道具と思われるものや糞と思われるものものがあたりに散乱していた。

「くっさ……。」

 トイレのような意図的に糞が集まる施設では無く人糞が存在している辺り上と異なり文明レベルはかなり低いと取れるだろう。

「ンマ〜ッ!オレの頭にクソが〜!」

「ザマアねえなギャンブ!ただ坊主なのは不幸中の幸いだったな!」

「髪の毛に付いたら致命傷だもんね〜。」

「んだとコラァ!」

「でも皆無事そうですね!良かったです!」

 雪と糞の中から船員達が顔を出す。

 「取りあえず探索だなラーヴァ君!」

「ですね。でも昼間なのに陽の光がまるで差さないから凄く暗い……。俺の炎で照らしますから、はぐれないように皆で行動しましょう!」

「頼むぞ!」 「「「おー!!」」」

「おい、そこに誰かいるのか?」

「「「!」」」

 (先輩今のって……!)

 (男性の声だ!もしかしたら島の男性達は生きているのかもしれない!)

先頭に立つラーヴァが返事をする。

「はい!いますよ!」

 ラーヴァの声を頼りに小さな松明を持った男がやって来た。

「聞かねえ声だなあ。いつの間にまた人が増えたんだなあ。」

「いえ、今ちょうどあの憎き小鳥遊に落とされたところですよ。あなたは違いますか?」

「たか……なし?よく分かんねえけどお前ら運が無いなあ……。ここは飯も陽の光も中々届かねえ場所だ。」

「現地の方なんですね?」

「ん?どうだか……おらも気付いたらここにおっただ。」

「そうですか……。」

「行き先がねえならおら達の集落へ案内すっか?」

「おお本当ですか!?ありがとうございます!」

「皆さん行きましょう!」

「さっきもこんな流れで散々な目に遭わなかったか?」

「でも現状これしか俺達に出来ることは無いし……。」

「情報を得る事は大事だからな!」

「すみません後ろの方にも松明か何かくれませんか!?全然見えなくて迷子になりそうです!」

「それは大丈夫です!俺が遠隔の炎で照らしますから!」

 ボボボッ

 ラーヴァは数メートル感覚で火を灯す。人に命中しないようわざと最初は高い位置で発生させ後から下に下ろしていく。

「すげえなぁ。あんたのそれがありゃおら達も大分楽になりそうだあ。」

 ラーヴァ達は男の後をつけていく。

 ぴちょんっ

「ひいっ!?」

 ラーヴァの頭に一粒の水滴が落ちてくる。

「この辺り水の流れる管が有るから気をつけぇよ。水漏れしてるやつがあるだあ。」

「管……?」

 ラーヴァは上に炎をかざしてみる。すると確かに灰色の管が遥か頭上を通っていた。

「下水道……みたいだな!恐らく上の人達の糞尿はあの管の先に辿り着くんだろう!」

「下水……じゃあ今俺の頭に落ちたのって……。」

「……考えないでおこう。」

「は……はい……。……いやもう意識したら痒くなってきた……。」

 小一時間歩いたところで他の明かりが見えてきた。ようやく集落に着いたようだ。

「お前何回う◯ち踏んだ?」 「三回〜……。」

「この集落に代表者っているんですか?」

「いるけど何処にいるかはおら達も知らねえだ。まあ自由に動いてくれ。」

「はい!」

 (とはいえさっきの事があるしなあ……。女ですらあの始末だったのに男で何も無いとは思えない……申し訳ないけど。)

「皆は明かりのあるところにいてくれ!先輩!探索に行きましょう!」

「おう!」 「「「ハッ!」」」

 集落には意外にも虫やネズミ以外の食べ物、野菜や魚があった。

「こんなところで野菜って育つんですかね……?」

「恵みだあ!天からの恵みだあ!」

「「!」」

 二人は声のする方へ駆けつける。するとそこからはほんの僅かではあるが日が差していた。ほんの数人分の陽だまりには多くの男達が詰め寄っている。栄養失調や病気に蝕まれた彼らの土気色の肌が日差しと共にラーヴァ達の目を突き刺す。

「先輩あれって……。」

「適度に日光を浴びないと人間はストレスを抱えうつ病になったり、血行不良の結果肌がくすんでしまうからな。日を浴びなければ必ずしも肌が白くなるわけじゃない。」

「あの人の足……折れてませんか?」

 ラーヴァが指差した男は左足が折れてしまっているようだ。右足で前に進んでは左足がそれに地を這うように追従している。しかし踏ん張りが効かないために揉み合いに負け、陽だまりの外へ弾かれてしまう。そうして男はまたすっかり変色した足を引きずり、腕に何か容器を持って日光の資源争奪戦に向かうのであった。

「ビタミンDが上手く作れてないから、骨が軟化してしまったんだろうな……。」

 そうこうしていると空いた穴から野菜が降り注ぐ。

「うおおっ くれっ!」 「こっちにも!」

 揉み合いはさらに苛烈になる。

「皆さん……どうか喧嘩しないで……。」

上の女性の一人が施しをしているようだ。上の世界と下の世界にはそこそこの高低差があり、水分を含んだ重い野菜は頭に当たればただではすまないだろうが、皆そんな事はお構い無しだ。

「ああっ 弾き飛んじまった!」 「何処行った!?」

 わーわー…… 

「もう約四年間ずっとこれが続いてるんでしょうね……。生きてたのは良かったですけど……小鳥遊め……どう殺してやるか……!」

「まずはカーツァラッテさんを捜さないとだぞ!ラーヴァ君!」

 「そうですね……一歩ずつ確実にあいつの喉に迫ってやる……!」

 二人は探索を再開する。

「この島の全容がまず見えてきませんね……。」

「最初おれ達が落ちた議事堂が西海岸側の都市部に位置する筈だ!この空間が島の内部を切り抜いたものだと考えると……今右側に見える壁が西海岸側のはずだから……。」

「俺達は今南を向いてるって事ですね!取りあえず壁を伝って一周してみますか!」

「おう!」

「そうだラーヴァ君!その遠隔の炎なんだが、手元を確認する時は新たに出すとしてもう少し前方に配置して欲しいぞ!」

「……?」

「地下に陸ヘビのカーツァラッテさんがいた場合、恐らく熱探知を用いてこちらを把握すると思う!メグメグさんみたいに味方になってくれればいいけどギボーさんみたいに敵対する可能性も有るからな!少しでも奇襲を食らいづらくしたいんだ!」

「成程……ならいっその事俺達を中心に火球を並べて円を作ってしまいましょう!自身が出してる炎なのでもし何者かに消されたらすぐ把握できますから!」

「凄いなラーヴァ君!」

「ぇへへ……。そういえば今更ですけど先輩と二人っきりになれるの凄い久しぶりですね!」

「そうだな!中央大陸だと長い間離れ離れだったもんな!」

「それだけじゃないですよ!船の上でもあの符術師の人とばあっかり会話して!」

「すまないな!ギャンブルはあんまり性に合わなくてな!」

「そういう事だったんですね!堅実で誠実!流石先輩です!ずっと戦いとか辛い事続きでしたけど、先輩とこうして話していられると俺……




「……あれ?俺達何の話してましたっけ?」

「……?ああ、これからは同行しようって話じゃなかったか?」

「……そうでしたね!」  

結局その日はカーツァラッテを発見する事が出来ず、二人は巨大な空洞を一周して集落に帰ってきた。

 ……シーン……

「あれ、誰もいない……。」

「まさか敵襲か!?」

「いやでも……先輩ちょっと耳を澄ましてみて下さい!」

「おう!」

 キコキコキコキコ……

 何かを回す音がする。音の方へ行ってみるとそこに居たのは島民達だ。太い棒に横から人が握る用の細い棒が突き出ており、男達はそれを無心に回している。

「うげ……絵に描いたような奴隷の労働だ……。」

「女神様が我々に与えてくださった仕事だあ。二人も回してけえ。」

「……どうします先輩?」

「郷には入れば郷に従えだ!おれ達もやろう!おれ達が頑張ればすぐ終わるかもしれないしな!」

「どう見ても永遠にやらされる奴な気がするんですけど……まあ先輩が言うなら!」

 二人はその棒を回す仕事を行うことにした。マリオ達船員も同じ仕事をやらされていた。二人は棒回しに参加する。明らかに栄養失調で今にも死にそうな老人と発熱と倦怠感を訴える病弱な少年の代わりに入った。複数人で回しているだけあってそこまで一周毎の負担は大きくなかった。しかし腿のあたりに乳酸が溜まり、上腕二頭筋の辺りが軋み始めるとその一周一周が耐え難い苦痛になってきた。途中からは手を添えて体を転ぶ様に前に倒しその体重で棒を回すようになっていた。押せば押した分だけ遠のいてく棒に辟易しながらも、連帯責任だ。決して自分だけこっそり抜ける等と言う事は許されない。また痛む腿を前に動かし、金属の棒に手をかけるのであった。

「これ何なんでしょうね……嫌がらせ?」

「恐らく発電機だぞ!」

「上で電気を使った武器があったのって……。」

「ここで男の人達に発電させてるからだろうな!」

「何で殺さないのかと思ったら……そういう事か!一瞬で殺すより道具として使い潰してやろうって思考……心底腐ってやがるあのクソアマ!」

「でもそれだと彼らの言う女神様が小鳥遊になっちゃいますよね……。」

「初対面の反応もなんかおかしかったし、ここの連中全員頭打って記憶喪失してんのかもな。」

「不謹慎ですよクァンツェン!」

「いや大丈夫ですよマリオさん。記憶……やっぱりカーツァラッテはこの辺りにいるのか?」

「今回は外周を回ってみたから明日は内部に潜入だな!」

 カーン カーン ……

 上の世界から大きな鐘の音が聞こえてくる。

「二班はここまで!三班と変わるように!」

 永遠にも思えた虚無の労働も遂に終わりを迎えた。

「途中参加なのに滅茶苦茶疲れた……。」

「もう外も夜っぽいな。眠たくなってきたぞ……。」

「一班につき八時間労働の三交代制でやってるみたいですね……。」

「頭にクソはつくし、手は皮むけるし!こんなとこ後一週間もいたら死ぬぜ!」

「おお、お兄ちゃん達ありがとうな〜。二班は病気にかかった奴が多くてな、穴が空きまくってたから助かったよ。」

 三十代程のガタイのいい比較的健康そうな男が話しかけて来た。

「「「どういたしまして〜……。」」」

「これから同じ二班として仲良くやっていこうな。よしじゃあ早速……。」

 男はフリジットの服の中に手を入れ胸筋を弄るまさぐる

「なっ!?」 「てめえ何してんだ!!」

「仕事の後にはこれしか無いだろう。なぁ?いいだろう?」

「クソ……今になって襲ってきやがったか!」

 しかし三十代の男も疲れているようだ。自身よりもさらに大きいフリジットを抑え込める力も気力もなく、ただその体をねだるように指を這わすだけだ。

「でも思ったよりダウナーな感じだな……。」

「先輩に触れんなっ!」ぱしっ

「なんだよ……折角いいところだったのによ……。」

 男はそそくさと退散するが新しく入ってきたラーヴァ達に島民の男達は興味津々だ。

「おら……男なら出さんかい……。」

「ずっと痒いんだよ〜……掻いてくれ〜……。」

「!!」

《僕達ずっと大事なとこが痒くって……》

「皆取りあえずあっち行くぞ!」だっ 

 とはいえ四年近くこのような極限環境で生活している者達だ。仕事後という事もありこれらしい作戦も力強さも使ってはこない。ラーヴァ達は彼らを振り払うと少し離れた所で集まった。

「オレらで集まって見張りを立てて寝るぞ!」

「……。」

「ラーヴァ君大丈夫か?」

「はい!なんかもう狙ってくる奴多すぎて慣れてきました、ハハッ!」

「ゆ、ゆっくり休むんだぞ!?」

「はい……。」

 ラーヴァは固い地面の下で眠りについた。日に二度もトラウマを刺激され寝床もとてもじゃないが寝心地が良い場所とは言えなかったものの、前方に敬愛するフリジットがいるだけで彼にとっては十分な安眠要素だった。

 ――夢の中――

「う……。ここは……?」

 明晰夢というやつだろうか。臭いがする。血腥ちなまぐさい臭いだ。目の前に広がっているのは……決して変わらぬ最愛の人・先生の無惨な亡骸だ。

「うっ うわあああ!!何だこれ!起きろ!起きてくれ!」

彼は必死になって自分の頬をつねる。

「はっ」

 しかし先生の遺体がここにあるという事は……近くには恐らく奴がいるはずだ。

「フン、この教職員便所バエの遺体はワシが回収するとしよう。」

「ジャニエルぅぅ……!!」

 声というより鳴き声といったほうが適切なような唸り声をあげラーヴァはジャニエルへ突っ込む。

「死ねええええ!!煌牙竜殺爆炎掌!狐火ぃ!」

 すかっ

「!?」

 ジャニエルへ放った一撃は彼が風になったわけでも無いのに当たらなかった。ラーヴァの腕はジャニエルの中で透けて見える。

「夢には干渉できないのか……!」

 結局あの日と同じ様に、ジャニエルは先生の遺体を何処かへ連れ去ってしまった。

「そうだ……!先生が何処へ行ったか追おう!先生のお墓に骨を入れてやらなくちゃ!」ばっ

 「あ……あれ!?」

 ラーヴァは空へ飛び立ってみるも今度はジャニエルそのものが消えてしまった。

「そういえば先生が言ってた……夢は記憶の整理……俺の記憶にないところまで知るのは無理があるのか……。」

 ラーヴァはヤケクソになって空中で足の炎を解除し落下する。確かに痛かったが怪我は一つも負わなかった。今なおこの高度から落ちたらタダでは済まないだろうに痛みしかないあたり、ラーヴァ本人の感覚も記憶の中の産物に過ぎないのだろう。

「よく見たら剣も無い……そりゃそっか先生が三十五歳の時だもんな……。……このまま待ってると恐らく……。」

「オイ!ラーヴぁ!生きてたのか!良かったぞぉ!!」

 カルマが走ってきた。彼はラーヴァの肩を両手で掴む。本来ここはラーヴァがいた位置では無いのだろうが記憶の中ではカルマに肩を掴まれたという部分の整合性が重要なのだろう。

「え〜と……俺なんて声かけたんだっけ?カルマに……。」  

「えっ……先生の教え子だってバレたら殺されるってぇ!?何だよそれ……意味わかんねぇ!」

「ああそっか……カルマの身を案じたのか俺。偉いな……。」

「ふざけやがって!自分の頭がお粗末だからそんな事やってんだろあいつぅ!」

「あっ すまねぇ!分かった静かにするよ……。オイラどっちかって言うと悲しみより怒りがきちまうタイプでな……。」

「ラーヴァ。歩けるか?今町の生存者で集まってるんだ。よければそこに行こうぜぇ!」

 すたすたすた……

 カルマは歩き去っていく。

「待てよ行くなよカルマ!せめて……血でもいいから先生が生きてた証拠を集めさせてくれ。記憶の底に眠ってた先生を感じられるチャンスなんだ!」

 ブワアアア……

「うっ 空間に押される!?」

 場面転換は記憶に操られる様だ。2Dゲームの横スクロールステージの様に空間に押され、ラーヴァは強制的に進まされた。

「子供は大体生きてたのに大人は殆ど死んでたのもそういうことだったのかぁ。ラーヴぁ町ぃついたぜ!」

(町……?)

「おう。」

 村は辺り一帯血まみれの大惨事だ。兵士達を始めとした数少ない大人達が生存者を集めている。

 (そうか……この頃は兵士のおじさん達まだ死んでなかったんだよな……。待てよ……?この夢……もしかして……。)

 ラーヴァに悪寒が走る。彼が愛する先生や先輩、憎き地球人で埋めていた記憶の瓦礫から彼女が這い上がってくる。いや、強制的に引き上げられてくる。

「ラーヴァ君じゃあないか!良かった無事で!ほら、僕の胸でお泣き。」

「……来やがったな。」

「ラス姉聞いてくれぇ!あいつ知識人を選んで殺してるらしいぜぇ!」

「みたいだね。無知なおかげで生き延びたというのは……なんだか恥ずかしい事だが……でも僕は」 「違えだろ!」

「きっと君達を守る為に」 「嘘をつくな!」

「生かされたんだ。」 「ここで死ね!」

「ほら……カルマ君もおいで。」

「おうっ!」

 カルマはラス姉と呼ばれる豊満な女に抱きつく。今ここからは見えない彼女の右半身にかつての自分が泣きついていたと思うと心底胸糞悪い。

「わーラス姉ボクも!」

「辛かったよおお!」

「皆駄目だ!こんな奴に!」

「うん!皆……大丈夫!安心して!」 「やめろ!」

「僕が君達を面倒見てあげる!」 「いらない!」

「僕が皆の……親代わりになるよ!!」 「消えろ消えろ消えろおおおお!!」

「うわああああ!!ああ、うぅぅああああああ!!」

 かつてみた光景。にも関わらずラーヴァは新鮮な嫌悪感を露わにしその場で発狂する。

 ぐにゃあ

「へ?」

 ――瞬間、突然夢の空間が歪み始める。

「なんだ?これ……。」

「大人の殆どが殺され、生き残ったこの女も何か厄ネタあり……君の過去は中々面白いね!グッドメモリー賞だよ!」

「はぁ!?」

 声の主はカルマだ。尤も喋り方もその中身も決して彼とは重ならないのだが。

「村を間違えて町って言っちゃった!バレるかと思っちゃったよ〜!ふぅ……。」

「てめえ何者だ!?」

「さあね。また明日会おうね統率者ビーストマスター君!」

「何かよくわからんが敵だな!喰らえ!前方……

 ――現実――

「はっ!」

 ラーヴァは目を覚ました。

 むにゅ……

 手には指が沈み込むような柔らかな感覚。女の乳房だ。

「うっ うわあああ!消えろ消えろ消えろ!もう出てくるなあああ!!」

「えっ!?」 「おい仲間なんじゃねえのか?」 「ラーヴァ君大丈夫か!?」

「……え?あっ ああっ」

 女の正体はラス姉ではなくメグメグだった。

「私仲間になったと勘違いしてた……ごめんね。」

「いや悪夢を見てただけだ気にしないでくれ!悪かったお前に言ったわけじゃないんだ!」

「本当?」 「本当本当!」

「えへへっ なら良かった〜!驚かせてごめんね!おはようラーヴァ君!」

「ああ、おはよう!先輩もおはようございます!」

「おう!」

「あれ?てかメグメグと……後隣の赤青の方は上じゃないのか?」

「ああ、昨日あのクソとは決別してきたからな。上には潜水艦もカーツァラッテも何もねえ。そんで下に降りてきたってわけよ。」

「メグメグ……この人は現地の味方か?お前は味方作るの上手いな本当。」

「いやお前とも一応面識あるだろが!俺だよ俺!」

「……詐欺?」 「レターパックで現金送っては基本詐欺だからね!皆注意しよう!」

「違うわ!メグ子も乗るなボコすぞ!工場で会ったインフェルノ・グレイトバーンだよ!!」

「……?」 「お初にお目にかかるぞ!」

「……まあ言うほどお前からしたら言うほど縁ないよな。もうお前もお初にお目にかかるで良いよ。二人共よろしくな。」

「……はい。」 「おう!」

「挨拶は完了だな!皆準備してくれ!どんどん島の内部を探索したい!」

「うん!あ、でもフリジットさんちょっと良いかな?」

「ん?」

「フリジットさんの背中にね、切り傷があるの。昨日の夜二人を発見した時治しておこうかなと思ったんだけどね……。」

「なんか字が書いてあるっぽいんだよ。今からその内容読むぞ。」

「いつの間に先輩に傷を!?誰の仕業だ……!?」ばっ

 ラーヴァはフリジットの背中を見る。そこにはこう刻んであった。

 《みられるな》

「な……何だぁ!?」

「いつの間についてたんだな!」

「私達が見つけた時点で血が乾いてたから付けられて結構な時間が経ってると思うよ!」

「みられるな ってのは……見られるなで良いんだよな?恐らく。」

「多分そうだね!フリジットさんにつけられた記憶が無いって事は……。」

「カーツァラッテ……!全てはそいつの仕業に違いない!」

「ラーヴァ君が統率者ビーストマスターって話をしたら仲間になってくれる可能性はないかな?おれは敵認定されてても。」

「先輩が一人で行動してた時がない以上多分消された記憶の中で俺が挨拶してると思いますよ。後、これを書いたのは恐らく味方です。俺が先輩の背中に傷をつけるとは思えませんが。」

「カーツァラッテ君……あんなに良い子だったのに、何があったんだろう……。」

「一万年もありゃ何でも変わるだろ。お前だって経験人数一万二千人なわけだし。」

「メグ子お前まじか!?」

「まあね。フリジットさんこの傷は治しちゃって良い?」

「また記憶を消されちゃうかも知れないから消さないでくれ!」

「オッケー!よしじゃあ行くぞー!」

かくしてラーヴァ達は探索を始めた。

「とにかく現物に残すってのが大事だな!」

「マッピングしよっか!」ずぼっ

 そう言うとメグメグは胸の辺りをいじり始めた。

「……?」

 すぽっ

「どーん!紙とペン!」

「そんな物詰めてたのか。もしかして俺達が胸だと思ってるものは全部……?」

「今朝堪能したでしょうが〜!」ぐにっ

「分かった分かった分かったって!」

「……あ、一応聞くけど巨乳恐怖症とかじゃないよね……?」

「……それは大丈夫だ。多分。朝のはちょっと取り乱してしまっただけで……巨乳にも良いやつがいるのはわかってる!」

「ほっ」

 ラーヴァ達は島西部から中央部に進んでいく。そうこうしているとだだっ広い空間でなく道が複数に分かれている所を見つけた。

「おっ初の分かれ道だな!右行く?左行く?」

「まずは右に行くぞ!」

「「「おー!」」」

「にしても見られるなってどうすりゃ良いんだろうな。メグ子は小さくなるとか色々あると思うけどよ。」

「俺の炎で辺り一帯何も見えなくするとか……。」

「能力のタイプにもよるよな!こう……本人が見たって意識するのが大事なのか、それとも記憶消去光線を目から飛ばしてる感じなのか……。メグメグさんはそこら辺聞いてみた事あるのか?」

「いや……嫌な記憶が有ったら消してあげるね と昔言われただけだから分からない……ごめんね。」

「了解だ!ありがとう!」

「おっ初の分かれ道だな!右行く?左行く?」

「まずは右に行くぞ!」

「「おー!」」 「ちょっと待って!」

「どうしたメグ子!」

「初めての?本当に?」

「?初めてだろ。」

「もう地図に分かれ道が書いてあるんだけど……。」

「……?」 「後ろか!?」 「いや……」

「上だあああ!」

「かきくけ殺す!覚悟!」

「「「!?」」」

 ラーヴァの叫びに反応し一同が上を見上げるとボサボサの茶髪に狸の耳を付けた男が刀を振り下ろしてきていた!

「おめえは……サムソー!?」

「いつの間に!?」

「らり累積居合斬!」ヒュゴッ

 ズ ッ パ ー ン !

 サムソーの一撃によって地面に亀裂が入りフリジットとラーヴァそしてメグメグとインフェルノの二組に分かれる事になる!サムソーはラーヴァ達の方に目をつけ居合の構えを取る!

「うおおおお!『火伸粉茸覆天掌ひのこきのこふくてんしょう』!」

 ラーヴァは目の前のサムソーよりもまずは天井を火で覆う事を優先する!眩い火球で頭上を塞いだ!

 (記憶消失はサムソーさんの技じゃない!恐らく天井には他にもう一人……奴がいる!)

 サシす う う う う ……

 サムソーは深呼吸をしている。

「ラーヴァ君下がってくれ!符術解放!『冷却・放出コールドウェーブ』!」

 パキパキパキパキ……

 フリジットは前方に冷気を放ちサムソーの位置を固定する。

「くっ……あいつカーツァラッテの攻撃を防ぐためとはいえ……目が痛い!まともに見えない……!」

(呪術師と聖術師は視覚が無くても相手の呪力を感じられる!一対二だがこの勝負おれ達が完全有利とも言い切れないぞ!)

 う う う う ……

(深呼吸したら場所が割れるだろ!?自分のアドバンテージを理解してないのか!?遠隔の火で脳をオーバーヒートさせて……) ぼひゅっ

 う う う う ……

 (何!?頭の位置がズレてるのか!?確かに火をつけてるのに勢いが止まらない!)

「さっきからずっと息を……まさか……お前ら耳閉じろ!」

「!?」

「かあああああああ!!!」

 ……キーン……

「あ゙っ」 「ぐっ」 「うるっせえ!」 「ギャーッ!」

 サムソーから普段からは想像もつかないような爆音が発せられる!四人とも耳を塞いだおかげで鼓膜が破れるのは防げた!

「肺に空気を溜めまくってフーセンみてーに膨らむ技……『膨張音撃破』!肺と喉に負担がかかるから滅多に使わねえのに……。」

「みたいだね。」

 不意に甲高い少年の様な声。

「は……?」

 ギ ン

 インフェルノは柱に絡まっていた巨大な白蛇に見られてしまった!サムソーの真の狙いは天井!上に向かって音波を放ち火の粉を払ったのだ!

「『病加贋思ヤマカガシ』。」

 キ ィ ン ……

「あっ……。」

「インフェルノさん!このっ 萎牙気殺爆炎掌!遠隔!」

「がぎぐあっ……」どさっ

 ラーヴァはサムソーの脳を加熱し気絶させた。

「さてと……。」ちら

 白蛇は首を動かし視線を右から左へ流す。

(メグメグさんは小さくなって紛れたか……。)

「遠隔で……」

「見つけたよ。」 「なっ

 ギ ン

 白蛇は今度はラーヴァを睨みつける!

 ……シーン……

「む……?」 

「間に合ったな!」

 もう一人の敵が能力を発動するも見たのは自分になってしまった!投げつけられた氷の鏡によって眼光は反射されたのである!

「ちっ……。そっちの巨漢か……。」

「ラーヴァ君見えるか!」

「はい見えますよ!岩の柱に巻き付く巨大蛇!やはり敵はカーツァラッテだった!」ボヒュッ

「うわっ」

 カーツァラッテの眼前に炎が立ち上がる!眼前の視界を彼は完全に塞がれた!

「本人が視認したという認識が重要だったのか!」

「動かないと不味いか……!」ずるる

 カーツァラッテは黒の斑点のある白き巨体を岩から岩へ動かす。

「俺が眼前に合わせます!そうすれば奴は俺達を見れない!その隙に先輩は狙い撃ってください!」

「おう!ただラーヴァ君俺達も動きながら追うぞ!」

「?……あ!」

 既に見られてしまったインフェルノが斧を振り上げてこちらに向かって来ていた!

「サムソーの仇ぃ!」

「いや今倒したけど!殺してはないから!」

「黙れぇぇぇ!!」

「くっ 正気じゃない……!」

「カーツァラッテは過去を消すだけじゃなくて過去を足すことも出来るのかもな!」

「お前ら皆殺しにぃぃ……。」

「吸い取り攻撃!」キュウウウウン

「うぐっ ぐ……うう……。」どさっ

 背後から幼くなったメグメグが現れた。インフェルノは生命力を吸われ倒れ込む。

「ごめんねフェルちゃん……!」

「メグメグ!あいつの能力は……。」

「大丈夫!ちゃんと聞いてたから!」

「そうか!じゃあそこでメモ取っといてくれ!」

「えっ!?」

「符術装着!冷却・足部フロストロード!」

「俺達は高速で追わないといけない!ついて行ったところでスピードの無いお前は活躍できないかもしれない!」

「いやそこは炎賦で……。」

「不味い見えなくなる!頼むぞメグメグ!」ボヒュウウウ

「待ち伏せていてくれ!追いかけっこでこっちに誘導するから頼むぞ!」シャー シャーッ

「分かった!待ってるからね!」

 二人はカーツァラッテを追う!フリジットの圧縮吹雪に何度か被弾しながらもカーツァラッテは逃げ続ける!

「鬱陶しいなあもう……!」

 ばっ

 カーツァラッテが岩から岩へ飛び移る!

「今だ!符術解放!凍結・放射コントラクトブリザードぉ!!」

  ヒュゴオオオ! パキパキ……

 フリジットの狙いすました一撃は彼の尻尾よりの腹側の筋肉に命中する!

(不味い!岩の柱に抱きつけない!)

 ド ズ ゥ ン !

 彼は地面に落下する!

「くっ 何とか態勢を立て直して……」

「追いついたぞ!ヘビぃ!」

「ひっ」

「俺も剣でお前を攻撃していくからな!」

「くっそ……でもお前の記憶を見たから分かるよ僕様は!」

「何がだ!?」

「君の炎は僕様の顔の前に有るんじゃなくて……僕様の前に移動させ続けてるだけって事さ!」

 ぐぐっ ばっ!

 カーツァラッテはわざと全力で進みその後反対側に頭を仰け反らせる!カーツァラッテの前へ進む動きに合わせていた火球は顔の前からズレてしまう!

「まずっ」

「喰らいなよ!『遭憶大消アオダイショウ』!!」

 ギ  ン  !

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