第16話:砂漠の宝物庫

フリジットはメグメグの血を採集している。

「フリ……ジットさん……地面に……染み込んだ……血じゃ……集め……づらい……でしょ?」

「メグメグさん体が治ってきてるのか!」

「うけ……取って……?」

「え?」

 その時ラーヴァはフリジット達を庇うようにして前に出ていた。

 「俺が相手だ!前方豪炎噴!」

 ボヒュッ

 ラーヴァはギボーの三本ある足を狙う。ギボーは軽々とそれを避けていく。

「本当は右翼だけだとそっちに傾いちゃうから動きがブレるんだけど僕は重心動かせるからそこら辺楽なんだよね〜。」

「くそっ 当たらない……!」

「痛いからこれするのあんまり好きじゃないんだけど……。」ブチッ

 ギボーは嘴で羽根を千切る。

「『フェザースピアー』。」

 バシュバシュバシュ!

 そしてその羽根を飛ばしてくる!

「畜生自分で飛び道具出せるのかよ!前方豪炎噴!」

 スカッ

「当たらない……!」

 ギュインギュイン!

 羽根の軌道は重心移動によって絶えず変わり続ける!標準を合わせるのは困難極まりない事だ!

「まず……読めな……」

 ドシュウン!

「いぎゃっ!?」

 右腕にほんの少し掠っただけの羽根に骨が露出する程肉を抉り取られたラーヴァ。羽根の方も爆散する。

「その羽根も落下運動してるものだからね。いくら軽くとも君の肉を削ぎ落とすには十分さ。ささっ、次にいくとしますかね!」

「ぐうう……」

 合わせて四枚の羽根がラーヴァに迫る!

「いや……そうか合わせる必要なんてないのか……!」

「?」

「結局狙うのは俺!自分の周りを燃やしていれば良い!」

 ボヒュッ!

 ラーヴァは左腕を下に、そして左手を自分の体へ向け炎を出す。

「あ〜らら……自滅しちゃったよ。」

 ジュッジュッ

「自滅?何だって?」

「……自身の術に耐性があるのか、厄介だね〜。」

 ラーヴァは二枚の羽根を焼き払う。熱に強いわけでもないので当たってしまえば簡単に処理できた。

「でも足先は保護できてないんじゃない?」

「下側を焼き払うなら上がらない右腕でも出来る!それに流石に軽すぎるようだな!空気抵抗でイマイチ速さが出てないぜ!?」

 ラーヴァは炎のあるところに羽根が来なかったらすぐに避け、そしてまた羽根を待ち構える……を繰り返した。そうこうしていると足を狙っていた羽根に遂に炎が当たり、それは塵となって消えた。

「おお、あと一枚!頑張れ頑張れ!」

「何だようざったいな……」グイーン

「うげっ」

 (油断すると重心移動を差し込んできやがる!しかも右腕が抉られたせいでバランスが取りづらい!)

「一回でも転んだらゲームオーバーだからね。忘れないでね。さてとじゃあ君が羽根で遊んでる間に僕は本命の所に行きますかね。」

 バシュン!

 ギボーはフリジット達を狙う!

「まずっ」

「……符術生成!『凍結・杭打アイスパイルハンマー』!!」ブゥン!

「おっと危ない!」さっ

 フリジットはメグメグの口から流れ出る血を氷で整形しの杭打ち機を作るとそれを右手に嵌めた。

「君片手しかないのに意外と力強いから怖いんだよね〜!」

「先輩!」

「待たせたな!ラーヴァ君!」

「……近接戦闘は諦めるか。君達は安易に空を飛べない以上僕は遠距離戦で分があるわけだし……。」

 ギボーは三人から距離を取り二本の足を使って着地した。敢えて空は飛ばず遠くから羽根を飛ばすつもりの様だ。

「羽根に当たるのが先か転んで頭を打つのが先か。試してみようか!」

「くっ……。」

 事態は改善した様に見えてまだまだ依然敵優勢。苦虫を噛み潰したような顔をするフリジットとは対照的にラーヴァは何かが見えたのかニヤリと笑った。

「……何を笑ってるんだい?」

「いや、選択肢が一個足りなくてな。こりゃ問題に不備ありだなと。」

「僕が死ぬとかでしょ?無いよそんなの

 ボ ッ ガ ー ン !

 突如ギボーの尻尾が爆発し彼の下半身は火に包まれる!

「へえっ!?」

「時間稼ぎはこれで終わりだ!」

「ラーヴァ君あれは何を……!?」

「アイツに炎を纏わせた剣を飛ばしてたんですよ。剣にはアイツを刺した時の皮脂がついていて燃料代わりに出来たので!」

(……まさか尾を狙ったのは。)

「先生が言ってました。烏の尾には油を分泌する皮脂腺があると!」

「ぐうッ!」ぱたぱた

 ギボーはあまりの熱さに狼狽え残った右翼で火消しに走ってしまった!

「オラッ!」ばっ

 フリジットは前に走り込む!そしてギボーの首元に氷の杭を打ち込まんとする!

「行っちゃってください!先輩!」

「なあっ!?」

 翼を前に出すが既にフリジットはその懐に忍び込んでいる!そして彼のタックルによりギボーは仰け反ってしまう!

「オラアアアア!!」ゴリゴリゴリゴリ!

 ギボーの喉に氷の杭が突き刺さる!

「ごあっ ……君も仰け反りなよ!」

「うおっ」

 フリジットは重心を頭の後ろにズラされ仰け反る。しかし飛翔したラーヴァがその頭を押す!

 ドズ ゴリッ……

 そのままラーヴァも煌牙竜殺爆炎掌で腹部に攻撃を加える。

 ゴリゴリ…… ボヒュウウウ!

 (首が……!凍って削られていく!腹にも攻撃が……!)

「タハハ……不味いね!でも……!」

 グルン!

「「!?」」

 突如としてギボーとフリジット・ラーヴァの上下が入れ替わる!

「天地反転!重心は下に有ったほうが安定……そうだろう?」

(自分の重心を体前方に移したのか!?それなら喉に杭を突き刺してる先輩や腹もとにいる俺を下に出来る……!)

 ズル……

「くっ」

 氷の杭打ち機とフリジットの右腕はずり落ちていきあと少しで先端まで抜けてしまうところまで落ちた!

「惜しかったね……後ちょっとだったのにね……!」

「まだ終わりじゃないぞ!『ロケットアーム』!!」

 ボュヒュウン! ド ズ ズ ……

「ぐうっ!?」

 飛び出たロケットアームは上に即ちギボーの喉に向かう!しかしフリジットの体も地面へ急接近していく!

 ゴリゴリゴリゴリ

「貫けえええええええ!!」

(此処から先って……え……延髄)

  ブ  ス  ……  !

「あっ ああっ」

(駄目だ……もう……助からない……大人しく……いや、嫌だね!)

「やりましたね先「能力は……解除しない!」

「はあ!?」

 ギボーは落下するフリジットを道連れにしようとする!

「頼む早く死んでくれ!煌牙竜殺爆炎掌!狐火!」

 ジ ュ ア ア ア !

 ラーヴァは低空飛行しながら左手で岩を溶かしフリジットが落ちるのを少しでも遅らせようとする。ギボーは飛びそうな意識を痛みで維持し最期の執念を見せる。

「ラーヴァ君……!」

 ヒュウウウ……

(僕の……邪魔を……した事……後悔させる……!)ビクッ ビクッ

「頼む!早くううう!」

 フリジットの落下は加速し続けラーヴァの岩を溶かすスピードを超える。

 ヒュウウウ……

(後……すこ……)ビクッ

「粘らないでくれえええ!!」

(右腕が千切れても良い!……せめて先輩だけは!)

 ラーヴァは負傷した右手も使い全力を振り絞る。熱への耐性はあるものの炎を出す勢いにより右腕に負担がかかり繋がっていた肉とブチブチと千切れていく。

 ヒュウウウ!  ドクン……ドクン……

 (耐えろ……ぼ……)

 (生き残る!皆で生き残るんだ!)



 

 ピ ト ……

 運命の瞬間。フリジットの背中とラーヴァの背中が触れ合う。

 ズ ウ ン !

「あ゙っ」

 ボ ギ ッ !

「あ゙あ゙あ゙!……あ……。」

 フリジットを受け止めたラーヴァ。岩を溶かした分落ちる距離が増えた事もありラーヴァの腰は砕け散った。



 ……シーン……

 しかし生きていた。ラーヴァもフリジットも。

「俺……生きてる?せ……先輩……!」

「最後まで……助けられてしまったぞ……ありがとう!ラーヴァ君!!」

「かっ……勝ったあああ!!」

 ズ ズ ウ ン ……

 息絶えたギボーは右側を下にして倒れ込む。ラーヴァ達は上に上がりラーヴァはギボーの嘴の下まで、フリジットはメグメグの下まで移動する。

「メグメグさん!」

「ん……大丈夫……もう大分治ったから……。」

「おれの生命力を吸い取って回復してくれ!」

「う……ごめん……助かるよ……。」

 メグメグはフリジットの首筋に手を当て生命力を吸い取っていく。

「良かった……キスとかじゃなくて……。」

「本当は体内接触や粘膜接触の方が効率良いんだけどね!ラーヴァ君文句言うでしょ?」

「うんまあ。ところでこいつから能力もらうのもキスで良いんだよな?」

「うん。そうだね。」

「俺後五回もキスする羽目になるのか……。獣と……。」

 ラーヴァはギボーの嘴と唇を重ねる。するとギボーの体は消滅していく。

「おい何だこれ!?」

「本当は私もそうやって消滅してラーヴァ君の中に取り込まれるんだよ。私たち側がそれを許可してるかまたはそれを選択できない状態……死亡や戦闘不能状態になってる時はね。私は案内役を任されたからまだ取り込まれてあげる気はないけどね!」

「成程……そういう事か。さてとこれで……。」

 ラーヴァは炎を出して色々試してみる。すると早速変化に気がついた。

 ボッ フヨフヨ……

「おおっ 体から離れたところで炎を出せるようになってる!」

「うおお!大幅強化だな!」

「……今回の戦いで有ったら楽でしたね……これ……。」

「倒せないと思ったら一か八かでチューするのも有りだね!」

「ええ〜……。なるべくしたくはないな……。」

「あ、私達は暫く二人でイチャイチャしてるからラーヴァ君探索お願いね〜。」むぎゅっ

 メグメグはフリジットを抱きしめる。

「はあ!?……まあ俺一人で探索するのはいいよ!俺が一番機動力あるし!でも先輩とお前がイチャイチャするのは違うだろ!てかさっきより近くなってんじゃねえか!先輩もされるがままにハグされてないで嫌なら意思表示してくださいよ!そいつどんどんつけあがりますから!」

「え、嫌だった?」

「この方が回復効率が良いんだよな?嫌じゃないぞ!」

「だってさ〜。」

「くぅ……もし弱った先輩に何かしたらお前ともここで殺し合いだからなメグメグ!」

「大丈夫大丈夫!もうあんな事しないからさ!てか私信用なさすぎない?」

「さっきの姉弟喧嘩で今まで以上に信用ならなくなってんだよ!」

「それもそっかぁ。」

 ラーヴァはメグメグに悪態をつきながらも探索を始めた。

「うわあ!戦ってる最中は気づかなかったけど……すげえ!金の山だ!」

 ラーヴァの目の前にはギボーが一万年かけて集めた盗品の数々がそびえ立っていた。

「とても俺達だけじゃ運べそうにないな〜……でもちょっとでも持ち帰れば氷帝級の札を買う為の足しに出来そうだな!」

(でもこの中からガラス玉を探すのは骨が折れるな……。他にも何かあるかな?)

 ラーヴァは岩の空間を飛び回る。すると隅に何か輝くものを見つけた。

「……? うっ」

 そこに集められていたのは商人やギボーに挑んだ者達の骨だ。光っていたガラス玉の指輪は右手の骨から外されず放置されている。水晶と思って奪ってみたものの価値の低いガラス玉と鑑定されそのままにされていたようだ。

「くそったれめ……。でもおかげで助かったな。これで任務完了だ!」

 ゴゴゴゴ…… ドサササササササ……!

「「「!?」」」

 突如として砂のドームは崩れ始めラーヴァ達の下に大量の砂が降ってくる。

(自然物としては不自然な構造をしていると思ったが……このドームがまず奴の能力で維持されていた物だったのか!)

「ラーヴァ君無事だったか!?」

 二人がラーヴァの下へ駆けつける。

「!」 「これは……。」

「先輩。メグメグ。一つでも多く運ぼう。」

 ドササササ…… ボ ッ ス ゥ ン …… !

 砂のドームは完全に崩壊し宝の山は砂に埋れた。

「りゅ、流砂!?しかもこれって皆さんが行った先に向かって……ま、まさか……。」

 外で待っていた女商人達も異常に気付いた。

「ギィーッ ギッ!」

 砂獣は興奮している。

「大丈夫だよ!ザントちゃん!心配しないで!」

「ギィーッ ギッ!」

「あ、ウチに言われても説得力ないか……あれ?でもここの鳴き声って……。」

「お〜い!帰ってきたよ〜!」

 ラーヴァに抱えられたメグメグが声を掛ける。その手には太陽の光を反射するガラス玉があった。

「皆さん……!」

「ギィーッ ギッ!」ペロペロ

「わっ ちょっ ザントっ 舐めるなって!」

 砂獣はラーヴァの顔を舐め回す。 

「何とか勝てたよ!宣言通り!皆で生き残ってね!」

「良かった……!あれ?皆さん手に持ってるのは……。」

 フリジットが右腕に持っていたのはいくつかの頭骨と腕章だった。メグメグも頭骨を左腕と体に挟んで持っている。

「せめて仲間のいる場所で葬ってやりたいと思ってな!」

「財宝はすっかり埋まってしまったが、それは後で皆で回収して下さいね。」

「はい……!それじゃあ行きましょう!」

「「おー!」」

「あれ?そういえばラーヴァ君剣は大丈夫?」

「……あ!いやでも砂のドームの上に有ったからそんなには埋まってないはず……。」

「ウチの『磁鉄・宝探ドリームセンサー』で探します!」

「まあ時間はある!気長に探していくぞ!」

「はい!」

「帰りの方もよろしくね商人ちゃん!帰るまでが遠足って言うし!」

「はいっ!」

 ラーヴァの剣を探した後四人は二日かけてラクダに戻った。四人の顔を見ると町中に歓喜の声が上がり町はお祭り騒ぎとなった。

「すみません。他に持って帰りたい物が有ったので……怪物の首は持ってきてないです。」

「構わねえさ!あいつの笑顔が何よりの証拠だ!酒……は飲まねえのか……まあとにかくどんどん食って楽しんでいってくれ!」

「はい!」

 ラーヴァは代表として話を済ませた後二人を探しに町を散策する。町の外れに近いところでフリジットは食事を取っていた。そこにラーヴァとは別に茶髪の男が近づく。

「フリジットオマエその腕章は……」

「あ!お兄さんは!」

「『ツヴァイ・ハンダー』だ。」

「お兄さんもここに来てたのか!ああ!これはおれとお兄さんの仲間の……AEA反地球同盟の人の腕章だ!怪物に挑んで亡くなった人がいたみたいでな、持ってきたんだ!」

(あの野郎先輩を殺そうとしたくせに、ギボーが来た時逃げたくせに、先輩に平然と話しかけやがって……面の皮が厚いなんてもんじゃないな……!)

 ラーヴァの睨みは二人には届いていない。

「おれの仲間って……オマエ裏切り者だろ。」

「……それはそうだな!じゃあこれはハンダーさんが受け取ってくれないか?」

 フリジットは犠牲者の腕章をハンダーヘ差し出す。

「え?」

「裏切り者のおれが持ってるより良いだろ?それから墓が建てられたら報告してやってくれ!」

「俺達がお前の仇を討ってやったぞ ってな!彼もお兄さんからそう言ってもらった方が浮かばれるだろうからな!」

「……!」

 ハンダーは顔を歪ませる。その後座るフリジットを上から睨み付け軽く胸を叩く。

「ふざけんじゃねえ!オマエがやれや!俺が怪物殺ったわけじゃねえし!……クソが話しかけるんじゃなかったぜ……!」

「お前先輩を殴ったな!殺してやる!」

「うげ!ラーヴァの奴も来やがった!」だっ

 ハンダーは走り去る。フリジットはラーヴァを制止する。

「おれの事なら気にしないでくれラーヴァ君。死者に嘘をつくのは良くない……おれが悪いことだったから。」

「そうは言いますけど!……いや、まあ先輩がそういうなら……。メグメグを探しに行きましょう。」

「ああ!」

 メグメグはすぐに見つかった。彼女の周りには大勢人がいたからだ。

「そう!ザント君ラーヴァ君をお嫁さんと間違えちゃって……。」

「腰振られたってわけか!ガハハ!」

「どっちも赤いもんな!」

「うちのこが迷惑かけました……。」

「で、その後どうなったんだ!?結局ヤられたのか!?」

 旅の出来事を話しているらしい。来た時の事もあり彼女は大人気だ。

「……放っておくか。」

「だな!あ!お〜い!」

 フリジットが呼んでいるのはメグメグを取り巻く円の外縁にいた女商人だ。

「皆さん!今回は本当にありがとうございました!」

「おう!そういえば一つ気になった事があってな!それを聞きに来たんだ!」

「はい?」

「お師匠さんはどうしてガラス玉の指輪を着けてたんだろうと思ってな!単にお気に入りだったのか?」

「……確かに。水晶の指輪に比べると価値は低いんじゃないでしょうか?」

「あぁ、その話ですね!はい、ラーヴァさんの言う通りガラス玉の指輪は物にもよりますけどここでは一般的に水晶の指輪より価値が低いです。」

「やっぱり好み何ですか?」

「いえ。これは師匠がまだペーペーの見習いだった頃に水晶と偽られて高値で買い取ってしまった物なんです。でも師匠は初心に帰る為、常に自分を戒める為にこれを付けていたらしいです!」キラッ

 女商人は右手にガラス玉の指輪をはめている。

「私も師匠の意思を引き継ぐという事で……貰っちゃう事にしました!」

「成程そういう事だったのか……!」

「似合ってるぞ!」

「んへへ ありがとうございます!そういえば芸術都市からの方がこちらに来ていまして、皆さんに助けられたなんて話をしてましたよ!皆さんが来てからこの町も他の町も……良い方向に動き出してる様に感じます!」

「素直に褒められると嬉しいですね!」

「だな!教えてくれてありがとう!」

「どういたしまして!そうだ!その人が出来れば皆さんに会いたいと仰ってたので良ければ会ってあげてください!場所はササキさんの家です!」

「!」

 (まさか……機械軍団が攻めてきたのか……?)

「おう!」

「情報提供ありがとうございます。先輩。急いで行きましょう!」

「急いで!?わ、分かったぞ!」

 ラーヴァ達はササキの家に駆け込む。するとそこにはササキの他に芸術都市から来たと思われる鉢巻を付けた男がいた。

「ササキさん!話はそっちにも伝わってるか!?」

「あの憎き怪物を倒してくれたらしいね。ありがとう!僕のお気に入りのこの庭園で会談するといいよ。」

「こちらこそありがとう!」

 三人は緑溢れる庭園で話を始める。

「じゃあ早速……御用は何でしょうか?まさかもう機械軍団が……?」

「いえ、寧ろワタークシが伝えに来たのは吉報です。先日芸術都市に到達したビル教授を筆頭にした符術師隊が脳に回路を埋め込まれた人々について回路の解除方法、内容の編纂方法について調査し、ワタークシが発った時点で三名の救助に成功しました。」

「おおお!」

「流石だなビル……先生!」

ワタークシ達としては是非フリジットさんにも来ていただき、その方法について学習し決戦に活かして欲しいです。以上になります。」

「分かったぞ!連絡ありがとな!」

「すぐに皆で向かいます。次列車がラクダ付近に来るのはいつ頃でしょうか?」

「それについてですが、ワタークシは一応町の使いとして来ていますので、列車を一つ貸し切りにしています。皆さんの準備が出来次第列車を動かせるという事です。」

「本当ですか!先輩!いつあいつらが来るか分かりません!急いで行きましょう!」

「おう!」

 三人はオアシスを渡る。

「符術装着!『冷却・足部フロストロード』!」

「おお!オアシスが凍って……。」

「周るより横断したほうが早いですよ。一緒にどうぞ。」

「ああはい。」

 鉢巻の男は二人のあとについて行く。

「ふむむ……凍ったオアシス、駆ける二人……ワタークシの創作センスがビンビンに刺激されますねえ……。」

「……?」

 メグメグの所まで来ると彼女を取り巻く円はすっかり小さくなっていた。最初内側にいた人達は皆帰っていったようで彼女は女商人等外縁にいた者達と会話している。

「メグメグ様!どうかサインを……!」

「はいよっ!転売したらやだからね!あそ〜れそれそれ!」さささっ

「わあ〜!ありがとうございます!」

「次の人どうぞ〜……あ!またラーヴァ君とフリジットさん二人でつるんでる!」

「お前人気だからほっといてただけだよ。そろそろここ出るぞ!」

「オッケ〜!」

「もう行ってしまうんですか!?」

「ん?ああ大丈夫!皆にサイン書いてからにするからね!」さささっ

「よくもまああんなぐちゃぐちゃの字で喜ぶもんだ……。」

「ラーヴァ君サインとかは欲しがらない感じか?」

「はい。そうですね。」

「フリジットさん後でサイン頂戴!」

「分かったぞ!」

「え!?じゃあ先輩俺にもサイン下さい!」

「あれ?サイン欲しがらないんじゃないのか!?」

「先輩にまつわる物なら何でも欲しいです!」

「ラーヴァ君ちょっとダブスタ過ぎない?」

 メグメグはすぐにサインを済ます。鉢巻の男も到着した。

ワタークシ芸術都市ヘンプから来まし」

 鉢巻の男の視界にメグメグが入る。

「?」ぼいんっ

「うおっ 乳デッカ!?ケモミミえっっっっっ!?耳の内側の毛の中に移住し……コホン。使いの者です。皆さんを列車へ案内しま」

「よろしくね〜!」ずいっ

「うおっ 露出が少ない服装かと思いきや鎖骨は出してるのドスケベフォックスすぎんだろ……はい。よろしくお願いします。」

「私が一発で狐って分かったの凄いね!?狸人間とは間違えなかったんだ!?」

「狐の人は初めて見ましたが……魅力のタイプが全然違いますか あっ 汗かいた後の匂いすごぉ……お日様の匂いもちょっと残ってるぅ…… らね。勿論分かりますよ。」

 (何かテンションの差が凄い人だな!)

 (段々ボロが出て来てますね……。)

 四人がラクダの街を発つ準備をすると昼間話した代表商人達が集まってきた。

「え!?自分らもう出て行くのか!?」

「すまないな!お世話になったぞ!」

「そうか……。よしお前ら!全力で送り出すぞ!」

「「「オー!」」」

「メグメグさんにもとても助けられました!ありがとうございました!ウチ、これからも頑張りますね!」

「うん!お互い成長した姿でまた会おうね!」

「さてと……大団円で終わるにはまだ早いですよね先輩!」

「ああ!西園寺を倒してようやく一区切りだ!」

「負けんなよ〜!」

「頑張れよ〜!」

「メグメグちゃ〜ん!」

「フリジットも見直したぞ〜!」

「夫のザントの事忘れないでね〜!」

「いや妻ではないですよ俺は!?」

「フン すっかり英雄扱いだなあオイ。」

「いやお前もついて来いよハンダー!市長に報告するのが仕事だろ馬鹿!」

「ヤッベそうじゃん!俺も乗らねえとか!でもテメェら俺に干渉すんなよ!」だっ

砂上楽園ラクダの人々に見送られラーヴァ達は列車へ向かった。

 ―― ―― ――

「うおおっ!フリジットさんだ……指名手配されてても俺はファンっす!」

「本当か!ありがとう!」

「あの、今月号読みました?」

「う〜ん 実は読めてないんだ……。あっ!ラクダの街で買ってくれば良かったな……!」

「うわ〜じゃあネタバレはできないっすね!ただ〜我慢できないからちょっとだけ言わせてもらうっすけど〜今回の内容エグいっすよ!炎型に革命が起きるかもしんない……「オイさっさと動かせや。」

 ハンダーが急かす。

「アッ サーセンっす!ヘンプまで停車なしの快速便っすよ〜!」

「後でまた話そうな!」

「ハイっす!」

 列車はヘンプヘ向け動き出した。

「貸し切りってのは凄いね!ガラ空きだ〜!」

「ならわざわざ隣を陣取らないでくれないか?メグメグ。」

「うぅ……。仲間なのに……。」

「向かい合う席ならいいぞ。」

「本当!?やった!」

「隣は先輩用に空けとかないとだからな。」

「そっちもわざわざ言わなくていいじゃん!知らなきゃ私幸せでいられたのに!あと私いつまでも2番手扱いなのちょっと傷つくよ!」

「……いやぶっちゃけ歴代の仲間ランキングが有ったら一番下だから2番手じゃないぞ。」

「ぢべだずぎる゙よ゙〜!」

「例えだよ例え。実際ランキング作ったわけじゃないし。」

「そうは言うけどさ〜……私に挽回のチャンスってないの?」

「あるとしたら戦闘だな。今のところ回復技と再生力は凄いけど強い奴倒したわけじゃないからな。」

「成程ね。男の子だもんね。強い奴にしか興味無いってわけね。」

「強さ以外に評価できる点が他にあるのか……?初対面の相手に薬盛る女に。」

「うぐ」

「イイ……実にイイ……。」

 反対側の席では鉢巻の男がラーヴァ達の方を凝視している。

「……さっきからめっちゃ見られてるな俺達……。」

「だね。お隣誘っちゃおうかな?どうせ私の隣誰も座ってくれないし……。」ちらっ

「てか先輩全然来ないな……。」

 (無視かい!)

「あのお兄さんと車掌室でお話してるんだろうね。」

「くっ 俺も符術を学んで先輩とお話出来るよう頑張らなきゃな……。」

「……ラーヴァ君フリジットさんの事本当に好きだよね。確かに凄く格好良くて良い人だけど……具体的にどの要素が特に好きなの?」

「全て好きだけど……尊敬できるというか、人としても頼れる所が凄く好きだな。どんな時も明るくあろうとしてて、俺達の事気遣ってくれて、相談にも乗ってくれて……。」

「言い方悪いけど甘えさせるより甘えるのが好きな感じ?」

「そうだな。というか甘えさせるのが好きな人間っているのか……?」

「わ た し が い る よ !」

「お前には甘えたくないな。尊敬できる所もあるけどそうじゃない部分が多すぎる。」

「甘えてよ〜!」

「甘やかし系お姉さん最高……反抗的な少年との相性ベリグーすぎる……。」

「……。」

(ヘンプの人達って皆あんな感じなのか?)

「そうだ!尊敬出来る人が良いんだよね!私一万年のノウハウが有るから!えっちな事関連ならドンと来いだよ!エロの師匠になれるよ!」

「そんなものどうでもいいわ!人に相談することじゃないし!」

「いやすることだよ!寧ろ一番話し合うべき事まであるよ!大丈夫!怖くないから!怖くない怖くない!」ずいっ

「怖い怖い怖い!!」

「初手で薬盛ってくるスケベ甘やかし系ケモミミ巨乳お姉さん万歳!」

「……あのさっきから……」

「ただもうちょい赤髪の子が知識がなかったら……完璧な無知系おねシ◯タだったんだけども……」

 ピキッ

「おいお前!今何て言った!?」ガシッ

 ラーヴァはわざとらしく足音を鳴らし鉢巻の男に接近すると、彼の襟を掴む。

「ラーヴァ君!?」

「アウッ 声出てました!?すみません気を付けます……」

「違うそこはどうでもいい!無知系……なんだって?」

「ああいや、君がもうちょっと知識に乏しかったら完全にエッチなお姉さんが無知な少年を調教しちゃうシチュエーションだなって思いました……。」

「それがいいのか……!?」

「はい。とても良いです……。」

「お前この野郎!」ぐいっ

「ラーヴァ君どうしたの!?おかしいよ!?何で他人の性癖にキレるの!?」

「絡んでくるな!何が……何が具体的に良いんだ?ええ?教えてみろよ!!」

「やはりなんと言ってもお姉さんの性欲の強さからくるエッチさですね。ショタに手を出すお姉さんは尊い。そしてその獣性と対照的に存在する……甘やかす心、母性にも近い優しさも挙げられるでしょうね。後は少年の方も可愛くて絵面が良いってのともしかしたら自分もこんな事してもらえたんじゃないかという淡い……」

「敵襲か!?無事か皆!」ガチャッ

 何やら大きな声がしたためフリジットは急いで車掌室から出て来た。

「先輩!?」

「大丈夫!敵は来てないよ!」

「すみません!大きな声出しすぎちゃいました!」

「……。」

「……鉢巻のお兄さんもすみませんでした。ちょっと冷静さを欠いていました……。」

「わ、ワタークシも悪かったです……。」

「何があったんだ!?」

「大丈夫です。何も無かったですよ。でも良かったら……俺の隣にいて欲しいです。」

「おう!」

「な、何はともあれ一件落着……かな?そうだ!皆でご飯食べよう!確か冷凍されてるご飯が有るんだよね!?」

「ああ!そうだな!」

「……。」

「……。」

(いやどうすんのこの空気〜!)

 気まずさの漂う列車の中で四人の男女は三日を過ごした。 

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