第13話:砂漠へ向かえ!

「こっち側にもドアがついてたんだな。」

「恐らく頭に何かを刺す工程はこっちでされてるはずナリ!」

 最初の死体の部屋に戻って来たラーヴァ達。当然ドアは開いてなかったが爆発させて開けた。ドアの向こう側には繊細な手の男の考え通り頭に謎の回路を埋め込む機械があったが、制御していた脳と脊髄を破壊したおかげで既に止まっていた。またこれからベルトコンベアに運ばれていく予定だったと思われる人々がここでは大勢眠らされていた。強引にここに連れてこられたのか体に青痣がついている者も珍しくないが、幸い皆息はあった。

「良かったナリ!市民の皆も無事ナリ!」

「市民……?お前どこ出身だ?」

「小生は芸術都市ヘンプ生まれヘンプ育ち!そしてヘンプの現市長ナリ〜!」

「えっ 思ったより凄いなお前!」

「だいぶ失礼ナリ!命の恩人だからいいけど!」

「おっと危ねえ。入口は塞いでおいて……と。」

「この人達どうする?とても俺達二人で運べる人数じゃないし、後出口も探さないとだし……。」

「取り敢えず出口を探すのが先決ナリ!さっきので罠も全て停止した筈だし時間が経てばこの人たちも動き出すはずナリ!」

「それもそうか!出口のドアは……。」

「あっこれナリね!」

 男は壁を指差す。

「……?」

「よく見るナリ!この壁側全部が入口になってるナリよ!」

 壁だと思っていたものはよく見ると分厚いシャッターだった。

「そうか。相手もこの人数を運ぶには大型の入口が必要なのか!」

「そういう事ナリね!」

「前方豪炎噴!狐火!」

 ボヒュウウウ ジュウウウ……

「よし!お!坂になってる!」

「上に行くナリよ!」

 二人は上へ進んだ。すると外に出た。

 ピカーッ

「うおー明るい!」

「外ナリー!生きてるナリー!」

 二人はいつぶりかの新鮮な空気と眩しい太陽を満喫した。

「よしじゃあヘンプに行こうぜ!」

「……。」

「おい、どうした?」

「ここどこナリ?」

「……あ。」

 ――臨床試験場――

 「殺す殺す殺す!」 

 二号は幼老狐目掛けて走ってくる!

「らり累積居合斬!」

 ビュオッ!

「ん……危ないね!」

 二号はリンボーダンスの様にして風刃を回避する。

「俺が時間を稼ぐぜ!符術装着!『加熱・斧頭ニトロアックス』!」

 インフェルノは斧頭に符術を装着させ、炎の力で斧を振る速度を加速させる。

「よろしくね。さてとじゃあ僕も……。」

 ズバッ プッシャアアア……

 ムソウは自身の腕を切り裂き流血した。

「後で治してくれるかな?メグメグさん♡」

「はい!でも自傷でどうやって戦闘を……?」

「まぁちょっと見ててね!」

 二人が話している間はインフェルノと二号が交戦していた。

「うりゃあ!」

「斧がメインなのかな!?」

 ブオッ スカッ

「このっ」

 ブンブンッ スカッ

「ヌルヌル動くなぁ!」

  がしっ

「げっ」

「掴んだぁ!左右掌底連撃インパクトシーソ……」

「符術装着!『加熱・全身アイムオンファイア』!」

 ボッヒュウウウ!

 インフェルノの着ていた鎧は炎を纏う!鎧の上から体を掴んでいた二号はその手が焦げ付く前に飛び立ってその場を脱した。

「もう炎は見飽きたよ!」

「ふんっ!」

 クルクルクル

 インフェルノは符術札を床に滑らせて動かす!

  タンッ! カチッ

「あっ」

 札はちょうど二号の落下地点で停止していた!

「符術装着!『加熱・地雷レッグイートバーン』!」

 ボガーン!

「くあっ」

 二号は高速のバックステップで何とかその地雷による爆撃の直撃を防いだがいくつもの破片が足に飛んでくる!

「痛……!もう邪魔しないでよ……

 ザク

「へ?」

 逃げた先の空中で何かに刺された感覚を覚えた二号。体を前方にやり急いで避けようとする。

 ザク

「ああっ」

 二号はこの痛みからも逃れようとする。しかし前後ろ右左上下、何処に行っても何か見えないものに刺される。

「な……なにこれ!?どこに行っても刺されるよぉぉぉ〜!?」

 彼女はひたすらそこで微動するだけになってしまった。その様子を見てムソウが語りだす。

「彼女は知覚した脅威から光速を超えたレベルで逃れようとする……それを逆に利用した。」

「ダメージを負ったと思うと彼女は反射的に逃げずにはいられないんだ。ならもし全方向から自分を傷付ける物に囲まれてしまったら……?」

「もう……何処にも動けない……!?」

「そういう事。彼女の周りに僕の微小ながらも鋭い血の刃を……『ステルスブラッド』を撒かせてもらったよ。」

 ザク ザク ザク ザク

「あっあっあっあっ」

「後はあそこで死を待つのみさ。皆行こう!」

「皆ありがとう!……でもちょっと可哀想かも……。」

「仲間になるチャンスとかやんねーのか?」

「情け禁物。あんな毒婦は要らないからな。」

 すたすたすた……

「ちょっ待ってよ!まだ勝負は……

 ザク

「あぁああっ」

「あっそうだ!」

 二号は微動しながら電話を呼ぶ。

 プルルルル……プルルルル……プルルルル……ツッ

《何だ?》

「マスター助けてえ!私敵に拘束されちゃった!囚われのヒロインなの!」

 《あぁそうか。一生そこにいていいぞ。》

「えっちょっとマスターまで……

 テロン

「ヤダヤダヤダ!助けて下さいよお゙何でもしますからぁ!」

 プルルルル……プルルルル……プルルルル……

「お願い……お願い……お願

《おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません。》

「えっ……あっ……」 

「嘘……非道い……皆非道いよおおお!や〜だ!や〜だ!誰か助けて!私の事見て!私に反応してええええ!!」

――彼女は死ぬまでここに留まる事となった。

 四人はその後すぐに出口へ到着した。

 「だぢづでどうやら全ての機能が停止しているようだな。」

「序盤のキツさの割に後半はヌルかったな。」

「親玉は倒せてないっぽいけど、取り敢えず脱出だね!」

「そうだね……メグメグさん♡」

 フォォォ…… ピカーッ

「うっ眩しい!」

「今昼間だったんだな。すっかり時間感覚死んでたぜ。」

 外は雲一つ無い晴天。この工場兼試験場は周囲に町の無い荒野に立っていたらしい。辺りは乾燥に強い低木がいくつか生えているだけだ。

「この近くに僕達の船が有るんだ!ついてきてくれるかな?メグメグさん!」

「あ〜……ごめん!私それは出来ないよ!ラーヴァ君を探さなくちゃだから!」

「かきくけこれで言うのは二回目になるが……。まみむめもうあの子の事は諦めたほうがいい。」

「いつの間にか居なくなってたし……もしかしたら僕達を見捨てて逃げてしまったのかもしれないよ?」

「そうかもね。でも私の事は気にしないで!もし見捨てられてても私はそれで良い!……もしかしたらあの女の人が出てきた所にいるのかも!出口も開通したし今から戻るね!」

「死ぬまで探す気か?気概は認めるが助けた命がこうも軽く扱われるとこっちとしても腹立たしいぜ!」

「ごめんね。……でも私一人助かるより私が死んでも誰かが助かった方が上だから。私は止まらないよ!」

「あんな所二回も行くなよ。探してんのは俺だろ?」

 再び工場兼試験場に戻ろうとする幼老狐を引き止める声がした。それはムソウでもインフェルノでもタヌキソンでもない。

「……!ラーヴァ君!良かった生きてたんだね!ごめんね……私全然守ってあげられなかった!あんな大口叩いてたのに!ああっこんなに怪我してる……。」

 幼老狐は瞳から大粒の涙を零しラーヴァに抱きつく。同時に回復も行う。

「あー……何で僕のものじゃないんだろ……。」

「あの……ムソウ様……。」

「……あぁ!すまない……。」

ラーヴァはある程度体が回復するとメグメグを離す。

「別に気にすんな。大体俺はこんなとこじゃ死なねえよ。まだ倒さねえといけねえ奴が大勢いるし、お前より俺の方が強いし。」

「……本当?じゃあその強い遺伝子ちょ〜だい♡」

「はあ!?切り替え早すぎだろキモッ!」

 だっだっだっ……

 二人は追いかけっこを始めた。ムソウは二人を止めようとする。

「まあでも彼が見つかったなら良かったじゃないか!じゃあ僕達の船に……。」

「幼老狐!怪我してる人が大勢いる!お前の能力で治療してやれ!」

「え!?先に言ってよ!ふざけてる間にもその人危なくなっちゃうじゃん!」

「いや言おうとしたらお前がセクハラしてきたんだろうが!いいから行くぞ!治療が終わったら今度は俺達の先輩を探さなきゃだ!」

「まみムソウ様これは……。」

「むう……仕方ないね。……これをメグメグさんに。」

だっだっだっ ぽん

 タヌキソンは幼老狐の肩を叩く。

「?どうしたの?」

「……やいゆえ幼老狐。ばびぶべ僕達は先に船で北方大陸……『奪還都市アラミド』ヘ行く。かきくけこれはそこへ行く際必要になる物だ。」すっ

 タヌキソンは幼老狐に硬いカードキーの様な物を渡した。

「だぢづでどうか受け取れ。」

「わあ!いいの!?ありがとう〜!」

「歓迎するから頼む。か君は僕達の希望だから。」

「き、希望!?私そんな大層な物なの!?」

「ああ。あい嬉しかったら来い。」

「んじゃあなあ!」

「また会う日まで……メグメグさん♡」

「あっちょっと待って!私まだ何のお礼もしてないよ!」

「あいうえお礼は今言った所でしてもらう。借りだ、覚えておけ。まみむめもう僕達は船に乗る。」

「分かったよ!今日は本当にありがとね〜!」

 三人は船が有るという所まで向かっていった。

「あいつら妙に急いでたの船の時間が有るからか……?」

「ラーヴァ君さっきの人達船って言ってなかったナリ!?」

 今度は繊細な手の男がやってきた。

「え?ああ言ってたぜ。」

「臨海部は列車が走ってるはずナリ!小生ちょっと後つけてくナリよ!」

「おおそうか!わかった。頼むぞ市長!」 「ナリ〜!」

「さてと。話を折られたがお前の治療が必要だ。行くぞ!」

「は〜い!」

 ラーヴァ達は人々が寝込んでいる工場跡へ行った。

「はいやーっ!」

 ポワァァァ……

「そういえば生命力切れって大丈夫なのか?」

「うん。ここにいる人の分は問題ないかな!動力源になる日光もここはギラギラしてるし!でも当分戦闘は避けたいかも……。」

「町に行ったら取り敢えず飯めっちゃ食うぞ。」

「うん!ってあれお金は……?」

「ああ……忘れてた……。そっかお金の管理は先輩がしてたから俺達無一文か……。」

「暫くひもじい思いしそうだね私達……うう……。」

幼老狐は十数分で全員の治療を完了させた。しかし中々人々は目を覚まさない。

「……外行ってもまともにご飯になりそうな物なさそうだったなあ……あの荒野じゃ。」

「暇だね……。」

「あ〜……なんか二人用の遊戯とかってあったりするか?」

「ん……ちょっと待っててね……。」するする

「いや脱ごうとするな!すぐにそっち方向に持って行くな!」

「いや二人でする事といえばでしょ!やろうと思えばいつでもどこでも出来るし。お金だってかからないし!貧乏人にとっては最上の娯楽だよ!何かラーヴァ君ってこういうの、フリジットさん以上に抵抗感強いよね。ラーヴァ君の出身地って皆婚前交渉は駄目って感じの場所だったの?」

「いや……どうだろ……分かんない……文化とかもだいぶ破壊されてたから……。ただ俺は単純に……」

「初めては好きな人じゃないとやだ?」

「う〜ん……そういうことでは無いんだけど……。」

「私が単純に好みじゃない?」

「……ぶっちゃけ見た目は割と好きだぞ。最初は可愛い女の子だな〜って思ったし……。」

「今は!?」

「黙れば可愛い。」

「手厳しいな〜……。」 

「……もしかしてえっちな事怖い?」

「……そうかも知れない。」

 幼老狐はラーヴァに体を近づける。しかし接触はしない。あくまでまだ話を聞こうという態勢だ。

「……この前は無理矢理迫っちゃってごめんね。キスも……嫌だったよね。」

「別に……気にしなくていい。先輩にされるよりは俺にされた方がずっとマシだし。結果的にはあの変な空間に行って新しい力も得られたし。なんというか……お前が……怖いわけじゃ無いんだと思う。いやもちろん迫ってきたら全力で抵抗するが。」

「フリジットさんにされるより……?えっと……じゃあさ……例えば私が今そこで寝てるお兄さんとえっちな事しだしたらどう思う?」

「あ。嫌だ。凄い嫌だ。」

「自分がされるわけじゃないのに?」

「……そうだな。確かに。おかしいな、俺。」

「性的な物には興味があるけど、性を目の当たりにするのが嫌……なのかな。」

「も……もう良いだろ!こんな話やめよう!」

「うん……。ごめん。ちょっと踏み込み過ぎたかも。……取り敢えずもうラーヴァ君の前ではそういう言動は控えるね。」

「……先輩にはするのか?」

「ラーヴァ君のいないとこではするかも。」

「それはやめろ!だったら今までの方が良い!」

「……分かった。じゃあフリジットさんにもしない。私今日付で下ネタ封印するよ。」

「え?びっくりする位あっさり従ってくれるな。」

「うん。ごめんね……私知っての通り凄い尻軽女でさ。こういうのでしかコミュニケーション上手く取れなかったって言うか……こうすれば上手くいってたから考えなしにそういう言動しちゃってたんだ。」

「でも私……二人に助けてもらった事に関しては凄く感謝してて。ラーヴァ君が統率者ビーストマスターって事抜きに二人と一緒に旅したいな……二人を幸せに出来る様にちゃんと向き合いたいなって。だから私の今までの接し方が間違えてたなら直したいんだ。」

「幼老狐……。あ、まあ別に襲わないなら下ネタ言ってくれても良いぞ。後はまあ軽いスキンシップ位なら。」

「軽いスキンシップってどの位……?私の中だとノーマルプレイは全部軽いスキンシップなんだけど……。」

「えっ!?そうだな……キス以上は取り敢えず絶対駄目だ!」

「手を繋ぐのは?」

 ぴとっ

 幼老狐の柔らかな手がラーヴァに触れる。

「……大丈夫だ。」

 (水分が多くてスベスベって感じだ……女の子って皆こんな感じなのかな?)

「じゃあ……ハグは?」

 ぎゅううっ……

 幼老狐は正面からラーヴァにゆっくり抱きついていく。肩を優しく掴み、抱き寄せ、次に豊満な乳房が当たってくる。

「!」

「ごめん!いきすぎたね!」

「あ、いや……そのまま続けてみてくれ……。」

「いやだったら……止めてね。」

 胸を延ばしていく様に潰していき、ラーヴァの胸部を覆い尽くさんとした辺りでようやくお腹の辺りが触れてくる。幼老狐のお腹は服の上からでは細身よりに感じたが実際触れてみると確かな柔らかさがあり、若干の脂肪を感じた。完全に抱き合う状態になった二人。幼老狐はラーヴァ頭の右側に自身の頭を持ってくる。お互いの呼吸を感じる距離だ。

「……生命力を溜め込みすぎると……ってわけでもないよな。」

「もっと細い方が良い?」

「ううん今ぐらいの方が良いと思う。柔くて心地いい……から。多分、一般的には。」

「そっか……なら良かった。」

 最後に幼老狐は自慢の尻尾を巻き付けた。これにて幼老狐式のハグは完成だ。

「あっ……尻尾凄い良い……。包まれてるって感じがする……。」

「ここまでは大丈夫そう?」

「ああ。……取り敢えずは。」

「分かった。……今までごめんね。そしてこれからよろしくね!」

「……うん。」

 「あ……あの〜お取り込み中の所良いナリか〜?」

「「!!」」

 ラーヴァは急いで幼老狐から離れる。

「どどどどうした!?」

「列車を見つけたナリよ!これから皆を列車まで運ぶナリ!」

「うおお良かった!よしじゃあ運ぼう!」

 ラーヴァは赤面しながら一番近くにいた人を運ぼうとする。

「ラーヴァ君!起きてる人が来たよ!」

「……え?」

 ちらっ

「!」

「ぴぎぃ!」

 幼老狐が指差す先にいたのはスキンヘッドの男をはじめとした頭に回路をはめ込まれた者達だ。中にはドリルまで装着している者もいる。

「幼老狐!逃げろ!」

「えっ」

 ベチン! グリグリグリグリ……

「この人たちもしかして……。」

「ああ!もう頭をやられちまってる奴らだ!ここの入口は閉じてたんだが……!」

 スキンヘッドの男は幼老狐の左頬を殴りそしてその右腕を擦り付ける。はっきり言ってこのスキンヘッドの男は脅威と判断するに値しない。問題はその奥にいるドリルを持った者達だ。おそらくラーヴァが壁を焼いて塞いだ所を掘って穴を開けたのは彼らだろう。

「くそっ こうなったら殺すしか……!」

「待って!私なら殺さずにこの場を収められるから!」

「色仕掛けは効かねえぞ!?」

 がしっ!

「『吸い取り攻撃・乾眠』!」

 キュウウウウン…… どさっ

 幼老狐に抱きつかれたスキンヘッドの男はしおしおになって倒れた。

「一時的な仮死状態にしたよ!水分と栄養を与えるまではずっとこのまま!」

「おお!」 「凄いナリ!」

「私が相手するから二人は皆を外に避難させて!」

「分かった!」 「分かったナリ!」

 幼老狐は一人で十人以上の改造人間を相手する。改造人間達の半数以上はドリルを装着している。とはいえ元はズブの素人だ。幼老狐は素早く人々を仮死状態にしていく。

 ザザザッ

「改造人間同士で連携して囲うなんて事も出来るんだ!?」

 バババッ ぴょんっ

 幼老狐を囲ったドリル持ち改造人間四人が一斉に幼老狐に向かってくる。幼老狐は高く飛び、頭側を下に落下していく。

「えいしょお!」

 キュウウウウン……

 ぶつかった四人の頭を両手で触り同時に吸収した。

 どささっ! すたっ

「さあ後は何人……って増えてる!?」

 改造人間は狭い入口故に十数人ほどしか入ってきていなかっただけのようだ。後続の者達が入口を拡張したのかざっと数えて三十人は新しく部屋に来ていた。

「幼老狐!無事な連中は全員運んだ!」

「じゃあ最後にこの人たちを!」

「まじかよ甘すぎだろ!」

 幼老狐が倒した十六人を運んでいくラーヴァ達。幼老狐は機敏に動き改造人間達の狙いを集める。

 ジュイイイイ!

「ぴぎっ!?」

 男を改造人間の一人が狙う!

 ドズ ズイイイ!

「……ぴ?」

「私が守るから頑張って!」 「ぴ……。」

 幼老狐は男を庇う。しかしそれにより遂にドリルが一つ彼女に刺さる。

 ドズ ドズ ドズ

「ううっ」

 次から次へとドリルが刺さっていく。

「お前が抱えてるやつで最後だ!出口を塞ぐぞ!走ってこい!」

「分かったナリ!」

「あなた達は後でね……!ごめんね!」

 ズボズボズボズボ

 男が坂の所まで来た所で幼老狐もドリルを抜き改造人間達を振り払う。

「煌牙竜殺爆炎掌!」

 ボガーン! ドゴドゴドゴドゴ……

 ラーヴァは天井を爆破し瓦礫で道を塞いだ。

「この坂全体を爆破して封鎖するぞ!じゃないとまた破られる!」

「うん!」

「煌牙竜殺爆炎掌!」

 ボガボガボガボガボガボガ!!

 ラーヴァは幼老狐に肩車をしてもらい天井に手で擦り付けながら連続で爆破させる。三人は最後の救助対象と共に何とか外へ脱出した。

「悪い。重かったな。」

「寧ろ軽すぎだったよ!もっとちゃんと食べて!」

「町まで行ったら山程食べさせてあげるナリよ!」

「ありがとうございます!」

 三人が話していると自分達以外にも立っている人がいる事に気付いた。

「市長!ここはどこですか!?」

「我々にも手伝える事はあるでしょうか!」

 先程の騒音で起きた人達のようだ。事情を説明している間にまた別の人が起きを繰り返し気づけば半数近くの人が目を覚ました。

「あ〜……取り敢えず皆小生について行くナリよ!」

 男について行くとそこには列車が止まっていた。

「皆無事だったんすね!芸術都市ヘンプ停まった時全然人居なくて死ぬほどビビったすよ!」

「どうやら数日前に誘拐されてたみたいナリ!後でまとめて乗車賃は払うから頼むナリよ!」

「ういっす!ヘンプまで飛ばしてくすよ!」

 プシュウウウ…… ガタンガタンガタンガタン……

 列車はヘンプに向け動き出した。

「ラーヴァ君凄い!めっちゃ速いよこれ!」

「俺の島にはこんなのなかったなぁ……。」

 列車の先頭に来てみた二人。

「符術が使われてるのか!」

「そうっすね。燃焼のエネルギーを車輪を動かす力に変換してるっす!」

「でも列車内は涼しいね!」

「それは室内の天井に氷型符術を取り付けてあるからっすね。」

「お兄さんは符術師何ですか?」

「そうっすね!二級産業資格符術師っす!こう見えて結構頭いいんすよ!」

「凄い!」

「ぇへ……ただ自分だけで動かしてるわけじゃないすけどね。他にも列車内を見回りする人もいるし……」

 ビビ

「おっ来た!」

「電気信号ですか?」

「そうっす!各駅にも停止を促すため電気信号を送ってる符術師がいるんすよ!そろそろ燃焼を止めてブレーキかけてくっす!」

列車の男はフリジットも使っていた白札マスタータブレットを操作し燃焼を止める。

ギギギギ ギ ギ ギ  ギ  ……

 列車は小さな駅で停車した。車窓から何人か降りていくのが見える。しかしあの繊細な手の男がそれを引き留める。そして男は列車の先頭までやってきた。

「またあいつらが攻めてくるかもしれないナリ!当分の間皆で一つの場所にいた方が良いナリよ!」

「それもそうっすね。でも乗客の皆に話通さないとじゃないすか?」

「それはもうこっちでやっておいたナリ!各駅停車なしの急行列車で頼むナリよ!」

「分かったっす!でもそれだと駅員の皆が乗せられないっすよ?」

「むう……。乗せるだけ乗せて誰も降ろさないで行く他ないナリか!」

「それっすね!仲間にはこっちで信号を送っておくっす!」

 この駅にいた駅員達は列車に乗っていった。

「それじゃあどんどん行くっすよ!」

 列車は再び動き出した。

「ここじゃ結構暑いでしょ?お二人もお客さんなんすから室内で涼んでいて欲しいっす!」

「は〜い!」 「分かりました。」

 (俺はそんなに暑くても苦じゃないけどね。)

 ラーヴァと幼老狐は第二車両へ戻るが既に座席は全て埋まっていた。

「しゃーないな。立って待つか。」

「だね〜……。」

 キキィィィ……

「結構入ってくるなこれ!」

「狭いね……。」

 キキィィィ……

「幼老狐!?どこだ!?」

「ここ ここ!離れないように手繋ご!」

 キキィィィ……

「ミ」

「ラーヴァ……君……だいじょ……ぶ?」

「いや……お前の……乳で……潰れ……」

「ヘンプに着いたナリよ!皆降りるナリ!」

「ようやくか〜!」 「暫く難民生活か……。」

 ガヤガヤガヤガヤ……

 人々はどっと出口に殺到する。ラーヴァ達もようやくぎゅうぎゅうに詰められる苦痛から解放された。

「ぷはあ〜ッ 圧死するところだった……。」

「皆が降りたら私達も降りようね!」

「ああ……。」

「お二人は小生についてきて欲しいナリ!」

「は〜い!」 「ああ……。」

 二人は男に連れられ列車を降りる。

「うお〜!……こ、ここが……。」

「芸術……都市……。」

 数日前あった襲撃により美しいヘンプの街並みはすっかり破壊されていた。

「えっと……案内するナリ……。まず目の前に見えるのが……巨匠にしてヘンプの生みの親と言える『スカルプチャ』氏が手掛けた『恋慕する少女の像』だったナリ……。」

 石英を用いて作られていた像は膝小僧の部分で折られ、そこから上は広場に向かって倒れてしまっている。

「酷え……。」

「再建の目処って建てられそうですか……?」

「いやあ……厳しいナリね……。ああっ 暗い気持ちにさせちゃったナリ!駅は街の中心の方にあって、これから向かうのは右端の市役所ナリ!どんどん行くナリよ!」

 三人は右端の市役所へ向かう。道中の悲しみに暮れる芸術家達の様子はあまり芸術への理解がない二人にとっても胸が苦しくなり、その痛みが伝わってくるようだった。

「ここが市役所ナリ!半壊してるけど無事な方で食事するナリよ!」

「ああ……。」

「よろしくお願いします……。」

 三人は客人をもてなす用の部屋に来た。市長の男が食事を持ってこさせる。

「ふぅ~ようやく座れた〜!」

「椅子のデザイン凄い前衛的だね!?」

「座り心地は問題ないから大丈夫ナリ。長旅お疲れ様ナリ。」

「てか市役所なのにこんな街のはずれに有るんだな。」

「あくまで彼らを応援するための施設に過ぎないナリからね!」

「あれ?でも駅は市の中心に有るんだ?」

 「あの駅も最初ははずれに設置しようという話だったナリ!でも昔洪水があった時に物を運べる施設は利便性が良い所に建てたほうが良いと皆痛感したナリ!駅や列車を利用した街並みにしようというあの御方のコメントもあり今の街並みになったナリよ〜!」

「はえ〜……。」

「皆様御食事を持ってまいりました。」

「ありがとう!」 「ありがとね〜!」 「ご苦労ナリ!」

 三人は久しぶりの食事にありついた。数日間大半の人間が居なくなっていたこの都市だが全員が居なくなっていた訳ではなく、食品を管理する人間がいたようだ。

「これは肉か?」

「そうナリ!この辺りは生ハムが名産品ナリよ!二人の飲み物は柑橘類のジュースナリ!」

「美味しいです!」

「喉が潤う〜……。」

「お二人はここに残るナリか?いつあいつらがまた攻めてくるか分からないから出来ればいて欲しいナリ!」

「あぁそれなんだが……俺達は今黒髪短髪浅黒い肌で体の大きい氷の符術師フリジットって人を探しているんだ。」

「フリジット!?ああ成程道理であんな強かったナリか……。」

「ここにいなかったらその人を探しに行こうと思ってる。」

「……。それならここでの捜索は小生達に任せてあそこに行った方が良いかもしれないナリね……。」

「アソコ?」

「中央大陸中の物と情報が集まる行商人達の町……『砂上楽園ラクダ』ナリ!」

「おお!」

「何処に有るんですか?」

「ヘンプは中央大陸南東の辺りに有って……ラクダはここから北に行って大砂漠を超えた先に有るナリね!とはいえ素人が大砂漠を歩いて越えるのは無理ナリ!列車が通っているからそれを利用すると良いナリ!お金はこっちで工面してあげるナリよ。」

「まじか!」 「ありがとうございます!」

「それにあそこにいる『ササキ』なら今回の件について何か知っているかもしれないナリ!」

「ササキ……?」

「ラクダに本拠地を構える地球人ナリ!」

「!!」

 ラーヴァの目が人殺しのそれに変わる。幼老狐はその変化を感じ取った。自然と汗ばんでくる。

「情報提供ありがとな。なるべく早くそこに行かせてくれ。」

「分かったナリよ!ああそうだ、案内人兼情報伝達要員を一人連れていくナリ!フリジットを見つけたら彼をこちらにやって伝えさせて欲しいナリ!お〜い!ハンダー君!いるナリか〜?」

「はいはいいますよ〜……ってお前ら!」

「その茶色のトゲトゲ頭……大剣野郎!?」

「知り合いナリか?なら尚更都合が良いナリね!」

「私の家以来だね!これも何かの縁って事でよろしく!」

「まじかよ……。」

 二人は大剣持ちの茶髪男を連れ列車に乗り、次なる町ラクダに向かった。

 ――砂上楽園ラクダ――

 近くに金をはじめとした貴金属の鉱脈と加工を行う町が存在しまた北方大陸へと繋がる港町にもほど近く、何より大砂漠の中で最も巨大なオアシスを持つこの町は、臨海鉄道が設けられ、中央大陸から北方大陸への人工移動が進んでいる今なお多くの行商人達で賑わっている。

「ササキさん!こんにちは!」

「うん。どうかした?」

「先日植えた種は何の種何でしょうか!?」

「ああそれはね……。」

 黒髪のナヨナヨした雰囲気の男が答える。

 「水切り種草さ!湿度の高い土地を好む花みたいなんだけどね、白い花弁が綺麗だなと思って持ってきちゃったんだ!西方諸島って所から!」

「ササキさんは植物がお好きですよね!」

「うん!」

「何やら最近色々あるみたいだけど……大好きな植物に囲まれて生活できる……ここが僕の考えた理想郷ユートピアさ!」

 ‘地球人 弩弓竜ササキ’

「では私はここらで……。」

「うん!じゃあね!……ふふっ……。」

 ササキはまだ芽も出ていない水切り種草を入れた鉢を愛しそうに眺めていた。

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