中央大陸編
第8話:妖艶たるは幼老狐
ラーヴァ達は既に一週間以上氷の道を進んでいた。ラーヴァ達のいた島は『西方諸島』最大の島らしく中央大陸に向かう道中には多くの小さな無人島があった。ラーヴァ達は島に寄っては食料を集め、一晩休息を取った後次の島に向かうという事を繰り返していた。二人共素早く動く手段を持っているとはいえ、陸路で島から大陸へ向かうというのは中々骨の折れる事だった。
――硝子の島――
「うわあ!先輩見てください!島中水晶でいっぱいですよ!」
「うおお!本当だ!満月に到着できたのもラッキーだったな!辺り一帯キラキラだ……!」
ざくざく バキッ!
二人が水晶だと思っていたのは硝子だったようだ。踏み抜くとあっさり割れてしまった。ラーヴァはミアの聖術強化済みの靴を貰い受ける事にした為硝子を踏んで足を痛める事はなかった。
「あれ?水晶ってもっと硬いイメージだったんですけど……。」
「これは硝子だったのかもな!水晶ができるには沢山の時間がかかるっていうし!」
「う〜ん残念……。」
「ただここは昔有名な水晶の採掘場だったって話だから、もしかしたらもっと内部には水晶の山が……あ!ラーヴァ君あれ見てくれ!」
フリジットの氷の義手が向けられた先には洞窟がある。丸くきれいにえぐり抜かれた壁面がそれが人為的に作られた物であることを示している。
「俺が松明代わりに先頭を行きます!先輩はついてきてください!」
「ああ!」
二人は洞窟の中に入っていく。奥へ奥へと続く道は二人の期待を高めた。しかし行き止まりに辿り着くとその期待の落差分、二人は落ち込む事になる。
「「掘り尽くされてる……。」」
残っていたならば人がいた事だろう。冷静に考えれば分かることではあったが島の美しい外装が二人を惑わせてしまったのだ。しかしこの探検は無意味では無かった。
「先輩あれ、休む用の部屋ですかね?」
「みたいだな……おおっ!符術札が残ってる!それも氷型だ!」
「符術札!?戦闘用ですかね……?」
「……いや。冷房として使う産業用のものみたいだ。」
「そういうのもあるんですね!産業用ならここに危険生物が出るわけじゃなさそうですね。あんましきれいじゃないですけどベッドもありますし、今日はここで寝ましょうか!」
「そうするか!」
二人は今日の寝床にありついたのだった。
「……もうじき中央大陸ですね、先輩。」
ラーヴァは寝れなかったようでフリジットに話しかける。
「あぁ!中央大陸まで行けば人がある程度いるはずだ!」
「……先輩はやっぱり、あの氷の竜とは戦わないつもりですか?」
「ああ。あいつはほんの一瞬でおれの故郷……『シルク帝国』を滅ぼしたやつだ。今のおれ達じゃ勝てない。仲間も物資も足りてなさすぎる。」
「俺達が金になる物を集めているのは確か符術札を購入するお金を集めるためですよね。……結局あんまり集まらなかったですけど。仲間もお金で雇う感じですか?」
ラーヴァはフリジットの返答を待たず話し出す。
「……この一週間一緒にいて思ったんですけど、先輩は強いですよ。両手が無くても。俺だってもっと頑張りますし、下手な傭兵なんか雇うよりこうして二人で旅してた方が良いんじゃないかと思うんです。……どうですか?」
「……その件なんだが、実は『学術都市アルパカ』に行く前に少し寄り道をしようと思ってるんだ。」
「どこにですか?」
「シルク帝国の郊外の古代遺跡だ。そこに伝説の存在である『幼老狐メグメグ』っていうのがいて……「えっ!?そんなオカルティックな存在を仲間にする気なんですか!?存在するかも微妙な上に仮にいても仲間になってくれるかどうか怪しいですよ!?」
「それは……その通りだ。伝承どおりだと仲間にする過程で多分命の危険もある。」
「じゃあなおさら……!」
「でも下手な傭兵じゃ駄目というのも事実なんだ。伝承どおりなら危険はあるけど仲間に出来たらその分とても心強い!だから少し試してみたいんだ!」
フリジットの表情からは追い詰められた心情が伺えるが、同時に決して与太話として今の話をしたわけではないという真剣さが伺えた。
「……思えばドラゴンになる人がいるんですからそんな生物がいてもおかしくないですよね。分かりました。寄り道しましょう!先輩!」
「ありがとうラーヴァ君!」
「どういたしまして。……なんか話してたらお腹減ってきちゃいましたね。残しすぎても腐るだけですしちょっと夜食しちゃいましょう!先輩も木の実とか焼いた蛇とかだけでなくたまには鍋で食べたいですよね!俺が食べさせてあげますよ!」
「うぅ……申し訳ないぞ……。」
ラーヴァはベッドから出て荷物入れの中から食材と鍋と蓋を取り出す。いらないと言ったのに持たされた物だがここにきて役に立つ時が来た。
「あっ……鍋敷きがない!なんか良いのないかな〜?」
「うわあああ!」
がたっ
「大丈夫かラーヴァ君!」
「せ……先輩これ……!」
ラーヴァが指差す先にあるのはいくつもの絵からなる書物だった。たまたま開いたその一ページには裸の男女が描かれている!
「これは……多分ここで働いてた人が見てたえっちな本……かな?ここまで高度な画力で過激な内容を書くのは『芸術都市ヘンプ』の人ぐらいだろうな!」
「なんですかこれ!?紙の無駄遣いじゃないですか!?て、てか芸術都市ってもっと彫刻とか油絵とか……そういうのが発展してる感じじゃないんですか!?」
「あそこは市民税さえ払えばどんな芸術活動も許容し応援するって場所なんだ。こういうえっちな絵を描くことを極める自由も保障されている!」
「だからってこんな……うえ〜 ……やばいもう寝れなくなりましたよ!これ読んでた人の体液とかベッドに付着してたらいやですもん!」
「ま、まあそんな見たくないなら鍋敷きにして隠しちゃえば良いんじゃないか?」
「そうしますけど……ああ!いやらしいいやらしい!」
……寝れなくなった二人は結局その本を読んで夜を明かした。
――翌日――
「行きましょうか先輩!その本はそこに置いておきましょう!」
「折角だから持っていかないか?また鍋敷きに困る事があるかもしれないだろ?」
「え〜……じゃあ持ってってもいいですけど、先輩の荷物にしてくださいね。」
「勿論だ!」
「……一応聞きますけど、その本が気に入ったとかじゃないですよね?先輩?」
「勿論だ!」
二人は早朝島を出て中央大陸への歩みを再開した。
「先輩!あれ、すっごく大っきいです!もしかして……。」
歩き出してから三時間もしないうちにラーヴァは氷に覆われた灯台を見つけた。もう四年間ずっと光の灯されていない灯台だったがこの時ばかりはまるで光が灯っていた頃の様に、あるいはそれ以上に彼らの目を引き付け、その心に光を与えた。
「間違いない!中央大陸、シルク帝国の港だ!!」
二人は灯台へ急いで駆け寄る。降り積もった雪を踏み抜くと確かな土の柔らかさを感じた。二人は中央大陸ヘ到達したのだ!
「ここが中央大陸……。呼吸するのも痛い寒さだ……。先輩。寒かったら俺の右腕で温まってくださいね!」
「ありがとうラーヴァ君!」
二人は達成感を味わい和気あいあいと港から町へ向かった。が、その明るい雰囲気は数多の氷像によって砕かれてしまった。
「先輩……。これって……。」
右手と左足を大仰に前に出し、顔を歪ませているその像は何かから逃れようとしている様を示していた。
「解凍は……しない方が良いですよね。腐敗が進んでしまいますし……。」
「ああ。」
(……幼老狐が本当にいたとしても……これは……。)
「……いつまでも落ち込んでられないし、どんどん行くぞ!ラーヴァ君!」
「……はい。」
内心幼老狐は既に死んでいると思ったラーヴァだがフリジット本人が彼(彼女?)の死体を見つけないと納得しないだろうと思い黙って探索を再開する事にした。町は四年前のある瞬間から時が止まったかのようだった。広場には犬を抱えている少年や子供に覆い被さる女性、協会から出たばかりだったのであろう神父の氷像があった。足だけが出ている氷像を雪の中から掘り出してみるとそれは急いで逃げ出して転んだと思われる中年男性であった。地面に倒れる直前の様な姿勢のまま凍りついており如何に一瞬で凍結させられたかがそこからも見て取れた。絶望の表情を浮かべ立ち竦んでいる男性や抱きしめ合う若い男女の像を除いて、ほぼ全ての氷像は南西の方角を向いていた。
(あの氷の竜が冷気を発した爆心地は北東か……。)
広場を抜けた後二人は雪に埋もれかけた看板を見つけた。雪を払ってみると看板にはこう書いてあった。
《北――首都ウールへの道
東――ファー古代遺跡
南――学術都市アルパカへの道
西――港町の大広場》
「おばあちゃん曰くここに書いてある『ファー古代遺跡』に幼老狐メグメグの住処があるらしいぞ!目的地は近いな!」
ラーヴァ達は東へ向かった。遺跡の方へ進むにつれ氷像はまばらになっていき、フリジットの表情も普段の穏やかなそれに戻ってきた。
「あ!先輩あの茶色のって……。」
ラーヴァは茶色い石柱を指差す。
「遺跡にたどり着いたみたいだな!尤もおれも実物を見るのは初めてだが!」
「えっ!?先輩も初めてなんですか!?」
「おばあちゃんに行くなって止められててな!幼老狐抜きにしても危険生物がうろついてたらしい!」
「あれ、でも先輩も来たことないって事は……。」
「こっから先はひたすら幼老狐の捜索だぞ!!」
二人は原生の危険生物は凍死していると思われるものの環境に適応した生物がいる可能性を考慮し二人で捜索する事にした。
「だいぶ入り組んでますね……。それに狭い通路も多い。確かにここで危険生物に遭遇したら大変そうだ……。」
「そうだな。でも危険生物が徘徊してるおかげで盗賊や違法取引をする犯罪者は少なかったみたいだぞ!」
「もしかして危険生物は遺跡の守り手だったのかもしれませんね……。ところで先輩。この遺跡あちらこちらに丸い文様がありますよね。これって何なんでしょうか?」
「それはおれ達を照らしている恒星……太陽を表しているんじゃないか?古くからこの地には太陽信仰が根付いていたらしいからな!」
「成程。……じゃあ先輩。あの洞窟もこの遺跡の一部なんですかね?」
ラーヴァが指差す先にある洞窟は入口の上に大きな太陽の紋様が刻まれている様に見えた。
「……そうかもな。何だか特別な雰囲気を感じるぞ……。」
「幼老狐……実在するかもですね!」
ラーヴァはそれに目掛けて走り出す。時は既に夕暮れだった。一瞬左側の柱から夕日が照り返されたのをフリジットは見逃さなかった。
「駄目だ!ラーヴァ君!!」
フリジットの方を振り返ろうとしたラーヴァはようやく横の柱から茶髪ウニ頭の男が出てくるのを視認した。
「おうらっ!」
茶髪男は両刃大剣を振り回す。ラーヴァはすぐに空中ヘ逃れた。
「敵……。倒しちゃっても良いですよね!?せんぱ
カツンッ
「イテッ」
「符術解放。『
ジジ……ツパチーン!
頭に何か硬いものが当たったと思ったのも束の間、ラーヴァの体は電気によって貫かれた。
「が……。」
撃墜されたラーヴァ。落ちる最中右の柱から別の……おそらく符術師の男が出てきたのをラーヴァは見た。大剣を持った茶髪男の前にフリジットは立ちはだかる。
「目的はおれだろう!?頼むこの少年は見逃してくれ!!」
(先輩……交渉してる……?それに目的はおれって……?)
「そんガキもオメーの味方だろ? どけ 手の無くなったオメーよりそんガキが優先だ。」
ズバ
「ぐっ」
ゴアッ!バキッ!
「ぐああっ!」「先輩!」
茶髪男は大剣でフリジットの胸を切り裂き、裏拳でフリジットを殴り飛ばした。その男が自分の方へ向かってきてラーヴァは気付いた。茶髪男はフリジットと同じ黒を基調とした腕章を身に着けていることに。
「お前……先輩と同じ
「ン?そうだぞ?つかフリジットのヤツ先輩とか呼ばせてんのかよキメ〜!まっ死ねやガキ……
カチッ
「あっ」
「馬鹿!」
キィィン……パキパキパキパキ……
「符術装着!『
次の瞬間茶髪男は足元から放たれた冷気によって氷漬けになっていた。
「足で仕掛けていましたか……!」
符術師のベージュ髪で前パッツン後ろロングの男が細剣を抜いて出てくる。フリジットはベージュ髪男を睨みつける。
「しかし接近戦ならどうでしょうか?符術装着!『
チチバチバチバチバチ……
刃の先端から根元にかけて電流が流れ始める。符術の札を中に仕込んであるようだ。フリジットは既に最初から便利さの為に
ガキン ガキィン!
普段移動用として使っているフリジットの氷の刃を生やした靴だが、強度は高く、武器としての使用にも十分耐えうるものであった。
「くっ……!電気が流れない……!」
「氷は絶縁体だからな!」
ヒュガッ サッ ブウン! ガキィン!
(すごい……。リーチに優れた剣を相手に一歩も引けを取らない……!体術では完全に先輩の方が一歩上手だ……!)
ギリリリ……
「ぐっ……あなたを殺す気はありません!生きて捕らえるつもりです!頼むから折れてください……!」
「ふんっ!」
片足で剣を止めたところでフリジットは素早く体を回転させる。
「うわあっ!?」
ザク
全力で細剣を振っていた相手は急に張り合う先が無くなり勢いそのままに剣を雪に刺してしまう。
「もういっちょお!」
ぐるん ぐるん ガッキィィィン!
相手が細剣を抜くとフリジットは既に左足を軸に回転しており、前方に伸ばした右足で勢いよく細剣を蹴り飛ばした。
「殺す気がないのはこっちも同じだ!頼む!引き下がってくれ!」
近接戦はフリジットの勝利に終わった。
「あ……あわわ……こうなったら……符術解放!『
細剣を失い追い詰められたベージュ髪男はラーヴァめがけて電気のビームを飛ばした。フリジットはラーヴァを庇う。
バリバリバリバリ!
「グアアアアアア!!」
「すみませんね……フリジットさんなら庇うと思いましたよ!」
「先輩!!」
フリジットは意識を失いかけた。
(ここで倒れちゃ駄目だ!踏ん張れおれ!)
「残された札は後一枚。これで決め…… な!?」
がぶ
フリジットは前に倒れる最中男の右腕に噛みついた。
パキパキパキパキ……
男の右腕はみるみる凍りついていく。なんということだろうか!フリジットは口の中で符術を発動したのだ!男の右腕は凍りつきすっかり言う事をきかなくなり、符術を発動できなくなった。決着はついたのだ。
「う……うわああ!」
男は全身で強引にフリジットを引き剥がすと一目散に逃げ出した。ラーヴァは数分間麻痺と戦い、その後フリジットの胸の傷を塞ぎ、彼を引き摺って洞窟へ入った。洞窟は想像よりも遥かに浅くすぐに行き止まりについてしまった。
(思っていたより短いな……何も無いのか?)
だが行き止まりには氷漬けにされた少女がいた。
「大丈夫ですか!?」
ラーヴァは少女ヘ近寄る。だが改めて見てみるとそれは人に似た何かであった。水色髪の少女には獣の様な耳、そして水色の太い尻尾が生えていたのだ。
(こいつ……人じゃない!そうかこいつが幼老狐メグメグか!)
メグメグと思われる少女をダメ元でゆっくり解凍してみるラーヴァ。
……どくん……どくん……
「い、生きてる!?あっ温かいぞ!脈も戻ってきている!ま……まさか本当に……!」
ぱち
「!!」
「ん……ふあぁ……。君は……誰……?君が私の事、解凍してくれたの?」
少女は目を覚ました。翠眼がキラリと輝く。
「せ……先輩!幼老狐!実在してました!生きてました!」
ラーヴァは少女の生存を確認するとすぐにフリジットのもとへ駆け寄る。
「おお!ほんろーか!?このほーふふのほんはいをひぬくほははふはだほ!はーはふん!(おお!本当か!?この洞窟の存在を見抜くとは流石だぞ!ラーヴァ君!)」
フリジットは先程の噛みつきで口の中が壊死してしまったようでまるで舌の呂律が回っていない。また強引に引き剥がされた際前歯も全て折れてしまったようだ。
「せ……先輩!そんな……口まで……。」
「ラーヴァ君って言うんだ!ラーヴァ君、そこちょっとどいて!」
「!?」
少女はもう体の機能を完全に取り戻したようだ。フリジットのもとへ歩み寄る。
(仲間にするには……命の危険がある……でもここは信じてみるしかないか!)
「何か出来ることがあるんですか!?頼みますよ!?」
ラーヴァは道を開ける。少女はフリジットの状態を少し確認すると抱きついた。
ポァァァァ……
するとフリジットの胸の傷はどんどんと治っていき、終いには戦う前と同じ状態にまで戻った!ラーヴァが頭を傾けて見てみると口の中もすっかり血色が良くなっているのがわかった。前歯も新しく生えてきている。
「す……すごい!」
「助かったぞ!幼老狐さん!」
「えへへ凄いでしょ〜!あぁそういえば、二人共ここに迷い込んできたの?」
(幼老狐である事を否定しなかった!確定か!)
「いえ、あなたを探しにここまでやってきたんです!」
ラーヴァが答える。
「えっほんと!?」
すると幼老狐はぴょんと跳ねてその喜びを表現する。
(うわ……胸揺れてる……。)
「私の為に!?えへへ嬉しいなあ♡そうだ、実はこの洞窟の奥に私の家があるんだ〜!外凄い吹雪になりそうだし、二人共取り敢えず一晩泊まっていってよ!」
「奥……?ここ行き止まりですよ?」
「ぽちっとな!」
幼老狐が洞窟の壁を軽く押す。すると壁が音を立て動き出し、秘密の通路が現れた。
「私のお家へご招待〜♡」
「どういう仕組み!?でも何はともあれ助かりましたね先輩!」
「ああ!あ、でも幼老狐さん、外にもう一人入れてほしい人がいるんだ!その人も家に入れてくれるか!?」
「う〜ん……まあ良いよ!」
「せ……先輩入れたい人ってまさかさっきの茶髪男ですか!?あいつ俺達の事殺そうとしてませんでした!?」
「そうだけど……あそこに放置していたら死んでしまうだろ!?大剣さえ没収できれば安全なはずだし、頼むぞラーヴァ君!」
「ええ〜……お人好しすぎですよ先輩……。まあいいですけど……。」
「二人共ありがとう!」
ラーヴァが解凍した後フリジットは茶髪男を担ぎ上げ、幼老狐の家に行った。秘密の通路は一本道で一番奥に幼老狐の家はあった。幼老狐の家は霜が張っていたがそれを砕いて払ってやるとすぐに居住出来る状態になった。あまりの寒さに害虫も死滅しているのだ。窓が一つついており、窓から外に出てみると雪景色が広がっているがすぐに谷に繋がっていた。こちら側からは人が侵入できない仕組みになっているようだ。服を干していたようで雪かきをすると物干し竿が出てきた。
「そこは私の庭だよ!野菜を植えてあったんだけどすっかり雪に埋もれちゃってたみたいだね。柵があるけど谷に落ちないように注意してね!」
(もしやこの谷から人を突き落として……!?)
(助けてくれた相手にそれは失礼だぞラーヴァ君!伝承が間違ってたんだ!幼老狐さんは良い人だ!)
幼老狐はふるふると身を震わせた後雪の中に頭から突っ込む。狐の狩りの動きのようだ。
ずぽっ……もじもじ……どぱーん!
幼老狐は雪の下に埋まっていた野菜を取り出す。
「流石に食えないんじゃないでしょうか……?」
「この子はね!でも種はきっと生きてるはず!ちょっと雪を掘り返して土が見える状態にしてくれるかな?」
「はあ……。分かりました。」
(今から育て直すのだろうか……?)
疑問に思いながらもラーヴァとフリジットは雪かきをして地面を露出させた。幼老狐はそこにいくつかの野菜の種を植えていく。
「これでいいかな!はあっ!育て育て!」
幼老狐は地面に手をつける。すると先程まで種だけだった野菜が急激に成長し食べられる程に大きくなったではないか!
「「!?」」
「私は幼老狐メグメグ!生物の生命力を操る力を持ってるんだ〜!ふふっ 早速夕飯作ってあげるね!」
「……生命力を操るのならさっきみたいに直接あげればいいのでは……?」
「そのままじゃ美味しくないでしょ!」
「おれは雪かきして待ってるからラーヴァ君は蒸留水を作ってくれ!飲み水も手を洗う水も足りてない!」
「わ……分かりました。」
各々作業を始める。フリジットは大剣を取り敢えず適当な所に埋めておいて隠した。茶髪男は特に拘束もせずにラーヴァがベッドの上に寝かせてあげた。
(ベッドデカっ!?やっぱり隠されし真の形態があったりするのか……!?)
幼老狐は手を洗うとすぐに調理を始め、日が没する頃には料理を完成させた。
「はいっ!ど〜ぞ!」
「うおお!スープか!あ、でもおれの義手じゃ食べられないぞ!」
「大丈夫!私が食べさせてあげるからね♡」
「恩に着るぞ!いただきます!」
「……。」
(やけに好意的すぎて逆に怪しいな……。わざわざ食事を作る理由も弱いし。)
その日の夕飯はパンと野菜のスープだ。シンプルながらも塩気が程よく野菜の味が染みたスープは美味であり、道中肉や木の実ばかりで野菜にありつけていなかった二人にとっては非常にありがたい。……が、ラーヴァはまだ警戒をしており中々食べようとしない。
「あれ?野菜嫌い?それともラーヴァ君もあ〜ん待ち?」
「別に、食べ物なら何でも食べますよ。」
もぐもぐ……ごくん
「美味しいぞ?ラーヴァ君!」
「私目当てで来たって話なのに信用してくれてないな〜。ほらラーヴァ君見て!」
彼女はラーヴァは目の前でやたらと大げさに舌を動かして彼用のパンを食べ、スープを飲み、その後足した。
「ね?安全でしょ?毒を仕込んでたらこんな事出来ないよ〜!」
「おかわりお願いしても大丈夫か!?」
「は〜い!どんどん食べてね♡」
(ラーヴァ君。もう伝承は忘れてくれ!相手が友好的なんだからこっちが相手を避ける理由がない!最後には仲間になってくれるように交渉するんだから!)
(……分かりました。)
ラーヴァはフリジットに促され食べ始めた。横から見る彼女の顔が一瞬ニヤリと笑った気がしたが一度食べ始めたからには食べきる他ない。
「……凄い美味かったです。素直に。」
「本当!?良かった〜!これから毎日私が作ってあげるからね♡」
「……!」
ラーヴァはフリジットの冷たい義手を握り脱出を試みる。
「ええっ何で!?私変な事言った!?」
「まだ一緒に旅してほしいだなんてお前には一言も言ってないぞ?毎日食べさせる?何の理由でお前は毎日俺達と一緒にいるつもりだ?……先輩一旦逃げましょう!」
「ん……は……おう……。」
フリジットは見たこともない程に顔を紅潮させている!ラーヴァの考えは合っていた!やはり何か仕込まれていたようだ!
「先輩に何をした!?……てめえクソアマ焼き殺してやる!」
「何って……気持ちよくなるお薬だよ♡ほらラーヴァ君も感じてきてるでしょ?」
「は……はあ?……ッッッ!」ぞくぞくっ
ラーヴァは体が火照って行くのを感じた。感覚が鋭くなっていく。次第にフリジットの冷たい手を握っているのが耐えられなくなった。呼吸も荒くなっている。ラーヴァは……興奮している。
「大丈夫。そのまんまになんかしないよ♡私もスープ、飲んでたでしょ?三人でい〜っぱい気持ちよくなろうね♡えいっ♡」
どんっ
ラーヴァは抵抗も出来ずベッドに倒される。
(このベッド……そういうことかよ!くそっもっと早く……)
「ふぅ~……。」
「ひゃっ!?」
憎い相手の吐息に快楽を感じてしまうラーヴァ。
「私以外の事考えてたでしょ今!……ふふっ何その顔♡カマトトぶっちゃってぇ……こういう事がしたくて私を探してたんじゃないの?まあどうでもいいか♡事実がどうであれ明日にはきっと一生私の所にいたいって思ってるだろうから♡」
幼老狐はラーヴァの両腕を握り、臀部をラーヴァの太腿辺りに乗せ、彼を組み敷いた。
「さっき私のおっぱい見てたもんね♡まずはおっぱい触りながらキスしちゃおっか♡」
「や……やめ……。」
「くそ……体が……動かないぞ……。この……ままじゃ……ラーヴァ君が……あの本……みたいな事に……。」
幼老狐は前傾姿勢になりラーヴァに顔を近づける。可愛らしいその顔も今は憎たらしいったらない。確かな質量を持った幼老狐の乳房がのっそりと音も立てずにラーヴァの胸元に着地する。幼老狐はラーヴァの左手を動かして自分の乳房に押し当てた。そのままさらに倒れ込み二人の唇は触れ合った。
――その時だった。
キーーーン……
「うっ!?」
「ひゃっ!?」
「何だっ!?」
突如として二人を中心に眩い光が発生し目を開けていた三人は気を失った。目を覚ますとそこはピンクに包まれた奇妙な空間だった。
「何が起きたんだ!?」
「おい説明しろクソぎつね!」
「いや、私も知らないよ!どこここ!?」
「ン一万年ぶりねぇメ・グ・メ・グちゃん♡」
「「!?」」
三人の前に現れたのは人の体と象の頭を持つ巨大な生物だった。
「ンようやくワタシたちのご主人様がこの計画を進めることにしたみたいねぇ。まずは一万年待たせたことを詫びるわ〜ン♡」
「計画……?」
「ンそう♡ケーカク♡大丈夫貴方達を滅ぼすものじゃないわ♡多分♡」
「お前は何だ!?地球人と関係があるのか!?」
「ン地球人?あ〜ン直接の関係はないわねぇ。地球に行ったことはあるケド♡」
「貴方様がここに来たという事はラーヴァ君が『
幼老狐と象頭の男は知り合いのようだ。
「あんっそうそうそれがホ・ン・ダ・イ♡ええ♡そのラーヴァ君が
「はあ……分かりました!」
「ン返事が早くて助かるわぁ〜♡じゃっもう今日はお開きにしましょうか♡じゃね〜♡」
「ちょっと待てよ!
……フッ!
ラーヴァ達は元いた空間に戻された。ラーヴァはすぐに幼老狐の唇をどける。三人がガネーシャと対話していた間に一つ変化があったようだ。
「二人共!まずい!茶髪のお兄さんがいない!」
目を覚ました茶髪男が吹雪の中外に出てしまっていた。
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