第6話:行動開始

「よく来たね、さいとう君」


「所長、なんか白くなってませんか?」


 上海事務所に到着し所長と会う。

 久しぶりに会う所長は頭の毛がだいぶ白くなっていた。

 上海のロックダウン時にもこちらに残り、餓死寸前まで行ったが日本から持ち込んだ缶詰で何とか乗り切ったという強者だ。

 所長の時代はビジネスマンが栄養ドリンク片手に24時間戦わなければいけなかったらしい。 


「さっそくなんだが」


「わかってます。上の話では受注減少を理由に協力会社から手を付けろとの事です。大連のお客さんとの直接取引にしてもらい、うちが抜けるという計画でこんな感じです」


 そう言いながら、一番問題となるだろう協力工場に対する提案書を差し出す。

 それをパラパラ読みながら所長は言う。


「うまいね。これなら事務所連中も気が付かないだろう」


「あと陳さん(仮名)含む数名はうちの会社を辞めるつもりらしいです」


「流石だね。そんな情報どこから?」


「当人からですよ。正直彼女らあたりだと能力も経済的にも余裕があるしロックダウンはしないと言っていた上海には失望したと言ってました。こちらの方は私が扇動します。人数が減ればそれだけ経費が抑えられますから」


「君に来てもらって正解だよ。期待している」


「期待しないでくださいよ、やれるだけのことはやりますが」


 言いながら私はお土産の日本酒を差し出す。

 所長は大の酒好きだったのだ。


「ありがとう、今晩は私のおごりで飯を食いに行こうか」


「はい、その折にまたいろいろと」



 こうして上海事務所撤退の序幕は切って落とされたのだった。



<次回:「飛び回る男」月の光はハゲのメッセージ> 

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