第4話:戦いは情報だよ、兄貴!

 ビザ申請は順調だった。

 来週にはパスポートの引き取りと自分の限定商品が手に入るということで東京出張は楽しみだった。

 

 着々と準備をしていたが、上海所長とネットでいろいろ調べた結果撤退にかかる費用についての概算が出始めた。


「マジかよこの金額……」


 撤退経費を見て思わずうなってしまった。

 それもそのはず、この時点は2023年初夏。

 中国中央政府が発行する外国籍の法人撤退の規定と上海所長が手に入れた地方規定を合わせるともの凄い額になった。

 かろうじて億単位には行かないが経済補償や閉鎖にかかわる諸経費、登録の抹消に至るまでの代行会社からの見積もりを見ると思わずそんな言葉が出てしまうほどだ。

 この時点での上海の平均給与(手取り)は約8000元前後。

 1人民元/21円相当の為替なので、上海の平均給与は北関東とほとんど変わらない。

 事務所には50名ほどのスタッフがいる。

 開業から20年が経っているらしいので、一番古いスタッフは20年連続で勤めているらしい。

 中央政府の経済補償は一年勤務で一か月分の給与相当、最大でも12か月と書かれていたが地方規定は違う。

 会社側の理由で解雇する場合は勤務年数分に前年度平均の月額給与が保障対象となる。

 13年勤務していれば13か月分、20年勤務していれば20か月分と言う風になる。

 日本で一般的に知られているのは中央政府の規定だけだ。

 なので所長が手に入れた情報で計算すると想定以上の経費が必要となる。


「これ、上はどう考えてるんだろう……」


 所長の試算とその他経費をまとめたものをハゲ上司に渡す。

 ハゲ上司は驚くが、上海所長の連名なのでそれをも持って上層部へと行くのだが当然緊急社内会議が行われる。

 私も今回はそれに出席してその詳細について説明をするように言われるが、嘘偽りもなく中国語のその辺の規定も映し出し説明すると、各所からため息があがる。


「さいとう君、これは本当なんだろうね?」


「はい、上海所長の手に入れた情報ですし上海ジェトロさんにも確認が取れています。さらに現地では経済補償に平均プラス一か月が相場らしいです」


 まとめた資料を基に答えると、上層部からはため息が上がる。

 とは言え、知る限りコロナの影響であちらの運営状態はかなり悪い。

 為替の関係もあり、上海オフィスや協力工場の継続は困難を極める。


「客先にはアナウンス済みだ。事務所や協力工場は規模縮小をしながら撤退を推し進めよう」


 上層部の判断はそれだった。

 私には引き続き撤退手続きを進めるよう言われるが、この会社大丈夫か?


 手元の資料の金額を見ながら私は思う。

 これだけあったら家のローンどころか老後生活が安泰なほどの金額だ。

 海外の事業撤退とは零細企業にはかなり厳しいものとなる。



 会議後、自販機の前で缶コーヒーを飲みながら私は思う。

 上海行ったら休みの日に上海ガン〇ムベースに行ってみようと。


  


<次回:「動き出す計画」君は生き延びることができるだろうか?>

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