第3話 その蟹は口角泡を飛ばさない

 食堂のある別館から徒歩3分先には、石造り2階建ての講義棟がある。

そこで毎朝10時開始の授業に参加し、毎日出される課題を提出する事になっている。


「ラティス」という化け物と戦う際は、戦士それぞれが異能力を使用する。授業を行う目的としては、戦闘や異能の知識を身につける為。らしい…。



「マルセロ。課題はもう終わったのか?」



講義室で伸びていたら、サガルが声を掛けてくれた。



「終わった!」


「流石だ。期限内に終わらせる事が大切だ。」



聴くまでも無かったなって機嫌良く笑うサガルは、ツーブロックを七三分けにした髪型が特徴のネパール出身。

蟹座の戦士として喚ばれた彼は、IT企業に勤めるビジネスマン。

喚ばれた当初は出向中だったらしく、ここが外国人向けのビジネスホテルだと盛大に勘違いしていた。


(このネタでイジられるのをサガルが嫌がるので誰も話題に出さなくなった。)



「サガルも終わった?」


「もちろんだ。私達は講義が始まるまで余裕で居られるな。まぁ、何人かは凄く慌てている様だが…。」


サガルがチラッと横目で見る先には、メンバー数人が慌ただしく課題にペンを走らせている。提出しないと課題が倍に増えるので皆必死だ。



「期限を守る事は約束を守る事だ。どの仕事でも信頼関係が重要になる…。マルセロも学生の内に習慣として身に着けておきなさい。」


「うん。身につける…。ところで、教官は遅れるって聞いたけど?どれくらい?」


「タオラロス時間で30分程度と聞いている。地球時間で数秒遅れただけで、この様だ…。教官の方々もさぞや苦労されているのだろう。」


 

この空間と地球の時間はズレている。地球時間の1時間はタオラロスの1日にあたる。あまりに複雑なので、教官達も時間を読み間違える事が多々ある。




「今日の担当教官は第3世代?」


「あぁ。いつも通り第3世代だ。」



教官は戦士OBで構成されている。つまり前任者ぜんにんしゃがいるのだ。

マルセロ達12人は「第4世代」と呼ばれている。

第4世代の前の世代は「第3世代」2010年に喚ばれた世代で20代〜30代の男女12人。講義だけでなく基礎演習(実技)も教えてくれる。ひとつ前の世代がいるって事は、もちろん前々回の世代は「第2世代」前前々回の世代は「第1世代」…。

という様に続いている。全8世代まで存在するらしい!


マルセロ達、第4世代は全ての世代にまだ会えていないが、第3世代を中心に度々異空間にやって来てサポートしてくれる。

第4世代が「ラティス」を倒し役割を終えると、新たに20年もしない内に、次の「第5世代」が喚ばれるのだという。

次世代は現在、幼児〜10代の子ども達である…。何も知らずに今を過ごしているんだろうな。本当に気の毒だとマルセロは他人事の様に同情していた。


拉致された12人の戦士は神々に選抜されていると思い込んでいたマルセロだが、メンバーの入れ替えは無く…正確には同一人物を転生させ、魂をリサイクルして使い回しているらしい!

その始まりは紀元前。当初は神々の運営が上手くいかず、この取り組み(拉致して人間に闘わせる)はついえて、16世紀から再開したのだと授業で教わった。(再開した流れが意味不明過ぎる)2019年に呼ばれたマルセロ達を正しく表現すると◯回帰目の第4世代となる様で…。

正直、ややこしいので略して「第4世代」で通っている。

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タオラロスの12人 猪原 @12-12-12

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