第1話 タオラロスの朝

マルセロ16歳男子高校生の朝は7時の起床。

15分でシャワーと身支度を済ませ、別館で朝食を取る。短髪刈り上げ頭はセットいらずで便利。着替えはスウェットからスポーツウェアに替えるだけで済む。


遮光しゃこうカーテンを開けると肌を焼く強い日差しが。窓を開ければ湿気を感じさせないサラッとした風が心地よく流れ込む。地球と何ら変わらない再現度の高さを誇るこの空間の名前は「タオラロス」

正式名称は「ケラルカン・カセワレケナズ・タオラロス」という……

名前が長ったらしいので「タオラロス」と省略され呼ばれている。



マルセロが、ギリシャ神話の神々によって創られた異空間「タオラロス」に召喚されてから、約3ヶ月が経った。


神々は液晶モニターを通して自分達の代わりに「ラティス」という怪人と闘って人間に戻してやって欲しいと要請した。ちなみに「ラティス」(Lattice)は直訳すると格子という意味がある。


その「ラティス」とやらは集団化し、地球征服を目論んでいるようだ。「地球に害をなす前にどうにかしてほしい」と神々は説明した。


この説明を受けた12人は危ないカルト集団に拉致されたと考え、何度も脱出を試みたが…どれも上手くいかなかった。が地球では無い事。この空間を出る条件は「ラティス」を倒し神々の承認を得る事。この2点が解った頃から12人は足掻く事を止め、神々の要請を表面上は受け入れたフリをして今に至る。


そんな無茶振りな説明をした神々は、マルセロを含めた12人を戦士と呼ぶ。


それぞれの戦士が12星座の名を冠しているらしく、牡羊座の戦士としてブラジルから喚ばれたマルセロは、学校に通いながら陸上大会に向けた調整を行っている短距離走者だった。


召喚されるその日も、いつも通りスポーツクラブでトレーニングを終えた後、午後の授業を受けるために学校へ向かっていた。


姉が仕事を抜けて送迎をしてくれる車中で仮眠を取り、目を覚ますといつの間にか見知らぬ部屋に居た。


タオラロスに来る前に選考大会を突破したマルセロは、数カ月先に迫っている大会には間に合わせて帰りたいと強く願っていた。帰れなければ別の選手が選出される。それだけは避けたいという理由からだ。


何の嫌がらせか、地球から拉致された12人は地球に存在していない者として扱われている。つまり、居なくなったからといって探してくれる者はいないという事だ。(地球で認識されない透明人間とも言える。)


この様な絶望的な状況下でもマルセロは、異空間から自力で脱出する事を諦めていない。

探し続ければ良い方法が必ずあると信じている!


「怪人と戦わされる前に帰りたい…。

否、絶対に帰るんだ!

大会前に!その為に頑張れ!おれ!」


いつもの様に自身を鼓舞したマルセロは、ドアノブを力強く握った。





 

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