第29話 戦えない冒険者

 力強く振ったオーウェンさんの剣がモンスターの頭に命中する。

 倒したのを確認して、オーウェンさんは大きな溜息を吐きました。


「お疲れー! オーウェンくんすごいね? さすがレジェンド冒険者志望」


「アリア……お前さぁ」


 ぱちぱちと手を叩いているアリアさんを、オーウェンさんが睨むように見ています。

 呆れているのか、怒っているのか……どちらにせよ、その気持ちはちょっとわかります。


「ちょっとは戦えよ!? こんなにモンスターいるとか聞いてねーから!」


「あっはっは。聞いてないよね? だって言ってないから」


 オーウェンさんが怒っているのにも構わず、その笑い声は愉快そう。


 出発してすぐに会ったモンスターは、オーウェンさんがさくっと倒してくれました。さすがです。

 ですがその後も何度か……何度もモンスターに会ったのですよね。


 進めば進むほどモンスターが多くなっている気がします。


「言わないとダメってわけじゃないけど……」


 そこまで強力ではないので、遭遇すること自体はさほど問題ではないのですが――。


「オレ1人に戦わせるのは、さすがにおかしいだろ!?」


 その全部を、ほぼオーウェンさん1人の力で倒しているのですよね。


「いやいや、わたし戦えないんだってー」


「戦えよ!? 冒険者だろうがっ!」


 最初はノリノリだったオーウェンさんも、さすがに不満にもなります。

 私たち、モンスターに狙われない限りは見てるだけでしたし。


「冒険者だけど、本当にちょっとしか戦えないんだって。スキルこんなだし、運動もあんまり得意じゃないし」


「アリアさん、私と2人の時はあんなに自信満々だったじゃないですか」


「守るのはね。でも自分から攻撃したら間違いなく隙ができるでしょ。ちゃんと戦える子がいるなら、その子に任せるのが1番だよ」


 適材適所って言うでしょ? なんて、振り返ったアリアさんが笑いかけてくる。

 確かにオーウェンさんは慣れた様子ですけど、それでも1人は大変そうです。


「オーウェンさん、次は私もお手伝いしますね」


「……1人でいける、ウェルは気にすんなよ」


「でも」


 オーウェンさんに囁くも、あっさり却下されてしまいました。

 戦力外の弱さですみません。

 それでも1人よりはマシなんじゃないかなって思ったのですが……。


「オレの動き見学してろって、アリアに言われただろ? ウェルは慣れる前に戦い方を知れってことだ」


 最初は私もお手伝いしようと思ったのですが、アリアさんに止められたのですよね。

 私にはまだ危ないし、動く前に動き方を知る方がいいって。

 だからずっとオーウェンさんを観察していたのですが……真似をすればいいのでしょうか。


 冒険者って難しいです。


「わかりました。一生懸命お勉強させてもらいます!」


 ぐっと拳を握って見せると、オーウェンさんは嬉しそうに笑ってくれました。


「オーウェンくーん、右からモンスターくるよ!」


「は? 見えねーけど」


「音だってば。走って来てるから、多分気づかれてる」


 アリアさんは全然戦いませんが、誰よりも早くモンスターに気づくのですよね。

 茂美や木が邪魔で見えない時から音が聞こえているらしいです。


「ここモンスター多すぎだろ……。ウェル、アリアの横行け」


「わかりました」


 私が急いでアリアさんの横に並ぶのとほぼ同時に、オーウェンさんが右側に踏み込む。

 剣を抜くとばっと飛び出してきた小さなモンスターをあっという間に斬ってしまいました。


「……なんだ、コイツならラクショーだぜ」


 スライムより小さなモンスターはあまり強そうに見えません。

 余裕そうなオーウェンさんを見るに、かなり弱いモンスターなのでしょうか。


「オーウェンさんさすがです……!」


「ごめんオーウェンくん、もう1体来るよ。同じのかな」


 すっかり終わった気になってしまいましたが、まだいるのですか……!?

 2体一緒に行動していたのでしょうか。


「よーしじゃあ今度は……ウェルちゃんいってみよー!」


「えっ?」


 アリアさんが私の剣を抜いて握らせてきます。

 前の剣はなくしてしまったので、オーウェンさんに新しい予備をもらったのですよね。


 だから戦えないことはない……のですが、私がやるんですか!?


「無理無理無理無理、無理ですっ!!」


 2人とも、もう私から距離と取っていますね!?


「だいじょーぶ! できるできる~!」


「頑張れウェルー! アイツなら1発でやれるから」


 アリアさんだけでなく、オーウェンさんも私に任せるつもりで……。

 オーウェンさんには簡単でも、私には難しいですよ。


「ほらウェル、前向けって。こっち見てたら倒せないぞー」


 仕方なく前を向きますが、前を見たって倒せる自信がありません!


「ウェル、ガンバレー!」


 後ろからステラさんの応援の声も聞こえてきました。


 自信がなくたって、まずはやってみないとですよね。


「頑張ります……!」


 ぐっと剣を構えると、丁度小さなモンスターが飛び出してきました。

 えっと、オーウェンさんはすぐに剣を振ってて――待って、間に合いませんっ!


 咄嗟に剣を縦にしてガード。

 どんっと衝撃が伝わってきたものの、モンスターさんが少し後ろに下がりました。


 オーウェンさんがウッドボアにしていたやつを真似してみたのです……!

 速度が落ちたモンスターめがけて、オーウェンさんのように剣を振り降ろす!


「えいっ!」


 精一杯振ったのでちゃんと当たるか不安でしたが……なんとか命中!

 モンスターはパタンと地面に倒れてしまいました。

 これは――勝った、でいいのでしょうか。


「……倒し……ました? これって」


 実感がわかなくて、剣を構えたまま首を傾げる。

 皆さんの方を向くと――すごく嬉しそうな顔で私を見ていました。


「――バッチリだよ! ウェルちゃんやるじゃーん!」


「上手かったぞ! すげー!!」


 え……本当に、ちゃんとできたのですか……?

 まだ呆然としている私を、お2人が笑顔で褒めてくれる。

 優しい言葉が実感になって徐々に喜びを教えてくれます。


「本当に、本当に私……ちゃんとできたんですか……!?」


「スゴカッタヨー!」


 ぴょんと飛んできたステラさんが、明るい声で言ってくれました。


「ありがとうございます! ステラさんの応援のおかげかもしれませんね」


 ようやく剣を鞘に戻して、ステラさんを手のひらに乗せた。


 ステラさんは人がお願いを叶えられるように応援する、と言っていました。

 何もできないじゃん、なんてツッコまれてしましたが――案外その応援がとっても大事なのかもしれません。

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