ヘルダイブ・サンサーラセクター

浜彦

プリンセス・ミート・パイレーツ

第1話 強襲姫シズク

 私の名はシズク。戦いが好きだ。


 何かを奪い、実利を得られる戦いなら、なおさら良い。


 だから、私は宇宙海賊になることを選んだ。


 そもそも、今生はスラムの底辺に生まれた私に、選択肢なんて多くはなかった。奪うか、奪われるか。この歳になるまで、ずっとこうして歩んできた。辛いことも多いが、不思議とこういう生活が性に合っていると感じている。


「おい、本当に情報は正確なのか?ここに大物が通るって確信してるんだろうな?」


「ああ、間違いない。この辺りで評判の一番いい情報ギルドから、独占情報として高額で手に入れたんだ。理論上は外れないはずだ。」


 私の思考を引き戻したのは、男たちのしゃがれた声での会話だった。


「チッ。そうだといいがな。もうここで伏せて一時間近くになる。そろそろ情報の時間を過ぎそうだぞ。」


「待つしかないさ。この襲撃のために、俺たちは大金を注ぎ込んでいるんだ。無駄に引き下がるわけにはいかない。」


「わかってる。くそっ、もし情報が偽りだったら、今回は大損だな。」


 男たちは不満げに呟き続けている。私はというと、少し視線を動かして、自分がいる空間を確認した。暗がりの中、赤いランプが照らし、スクリーンや指示灯がちらちらと点滅している。


 私は長く息を吐き出し、白い煙が船内の暗闇に溶け込むように消えていくのを見つめた。窓の外には、漂う無数の船の残骸と石塊が見える。私たちの艦艇は、古戦場の小惑星帯近くに潜伏している。数秒間、外の様子を確認し、いつもと変わりないことを確認した後、私は吸い殻を床に投げ、足で踏み消した。



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 BUFF:ニコチン

 - 神経系の伝達および反射速度をわずかに増加 (2%)

 - 終了時、神経系の伝達および反射速度をわずかに減少 (2%)

 残り時間:02:03:16

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 これで、六本目だ。


 少し離れたところで、男たちはまだ話し続けている。


「どうする? 探索でも始めるか? ただ待ってるよりマシだろ?」


「でも、情報屋はここで待機しろって言ってたんだ。動くと見逃す可能性があるってさ。」


「はぁ? 何だそれ?」


「少しおかしいとは思うけど、あいつは本当に念を押してそう言ったんだ。」


「信用できるかよ。位置を指定しておいて、こんなに待たせるなんて。まさか、俺たちを罠にはめようとしてるんじゃないか?」


「さすがにそれはないだろう。しょぼい情報ギルドに、星系最強の海賊団を敵に回す度胸があるとは思えない。」


「……じゃあ、やっぱり情報が間違ってたか。くそ、ワープに使った燃料棒だってタダじゃねぇんだぞ。それに今回のターゲットは大物だって聞いて、他の船長を説得して定例任務を放棄させて来させたんだ。賠償金も払うことになるのか? しかも、保険のために『ヘルダイバー』まで雇ってるんだぞ。」


「ああ、大損だ。」


 男たちの視線が一瞬私の顔に向けられるのを感じたが、私は気にせずやり過ごした。数秒後、彼らの視線は再び外れ、また囁き合いを続けた。


「大したことじゃないさ。あと五分だ。情報が間違ってたら、その時は新たに艦隊を編成して情報ギルドに攻め込めばいい。警告を兼ねて、そいつらからちょっとばかり金を引っ張って損失を埋めるんだ。命を惜しむ連中だ、きっとすぐに降伏するだろう。人質でも取って身代金を要求すれば、穴埋めはできる。」


「ハハッ、さすが大海賊。情報ギルドを襲撃するつもりか。」


「まぁ、俺が砦を持ってるのは伊達じゃない。これくらいの度胸はあるさ。それに俺の超大型レールガンも血を浴びたがっているからな。」


 ハハハハハ。男たちは下卑た笑い声を上げた。


「……ちょっと待て。何かがワープしてきたぞ。これは。」


「ああ、間違いない。コスモス帝国の輸送艦隊だ。護衛艦が四隻、中央に一隻の輸送船。情報通りだな。」


「最後の最後で現れやがったか。よし、腕の見せ所だ。おい、他の船にメッセージを送れ。出番だぞ。」


 男たちは手際よくパネルを操作し、船体がわずかに震えた後、ゆっくりとその進路を変えていった。


「おい、ヘルダイバー。俺たちが防護シールドを破ったら、お前が飛び込むんだ。契約通り、輸送艦にいる戦闘員は全部お前の好きにしていい。CQCが得意だろ?本当にその価値に見合うか、見せてもらおうじゃないか。」


 私は無言で頷き、立ち上がった。それを見たリーダーの男はにやりと笑みを浮かべた。


「よし!それじゃあ帝国のボンボンどもに俺たちグラ海賊団の力を見せてやろうぜ!」


「おおお!」男たちは雄叫びを上げた。


 私は艦橋を後にし、下の階に続く階段を降りて発射口へ向かった。そこには黒く流線型の、まるでミサイルのような形をした乗り物が置かれていた。私が近づくと、HUDに再び信号が表示された。



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【ボーディングトルピード iBreatCh MK-II 特装型】

 -登録所有者:シズク

 -解錠済み

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 私はボーディングトルピードの中に置かれていたヘルメットを装着し、身に着けたパワードスーツの各数値を確認した。問題がないことを確認すると、狭い魚雷の内部に腰を下ろした。ハッチを引き下ろすと同時に、通信チャンネルが一気に騒がしくなった。


 男たちの咆哮、戦況報告、交戦指示が次々と飛び交う。私はHUDに接続した遠隔監視画面を起動した。そこには、海賊艦隊がすでに輸送艦隊を完全に包囲し、護衛艦との激しい砲火戦を繰り広げている様子が映し出されていた。


「全砲門、一斉射ッ!目標は輸送艦のシールドジェネレーターだ!撃てッッ!」


 コイルが回転する音とともに、隕石群の陰から大量の砲火が放たれた。砲火が護衛艦を掠めて輸送艦の中央に命中した。強烈な閃光の後、輸送艦の防護シールドが一瞬輝き、次の瞬間にはその圧力に耐えきれず、無数の光点となって砕け散った。私は操縦桿を強く握りしめた。


「シールドが破られたぞ!行け行け行け!全弾発射だ!あとは任せたぞ、ヘルダイバー!」


「――ヘルダイバー、宇宙海賊シズク。出撃する。」

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