心温まる料理が見出した、美しい光の群れ。煌めきが眩しいヒューマンドラマ
- ★★★ Excellent!!!
苦い思いをしたときや、悲しみのただ中にあるときに、日々の営みである「食べること」に救われた経験を持つ方は、大勢いらっしゃると思います。本作では、誰しも共感せずにはいられない一瞬を、夜空で煌めく星座のように美しく繋げて、見事に一万字の物語に編み上げています。
物語の主人公は、都会の本社から左遷されて、工場の所長となった男。毎日に楽しみを見出せず、孤独感を抱えていた彼は、あるとき工員たちの間で「安くて美味い」と評判の食堂『シェ・ノラ』へ足を運びます。
シェフは、下働き然とした四十代半ばの女性・ノラ。上の前歯が二本とも欠けた彼女は、そんな己の顔を「あたしの看板なんだ」と力強く告げて、気風のいい態度で客に接し、味わい深く滋味深い料理を振る舞います。
「あたしは安くていいものをみんなに食べさせたいんだ」――そう宣言するノラの料理に惹かれて、食堂へ通い続けるうちに、挫折で荒んだ所長の心は、少しずつ癒されていきます。距離を取っていた工員たちとの接し方も、徐々に変わっていき……温かな真心の料理を通して、大切なものを取り戻していく姿が、所長の心だけでなく、読者の心も温めます。
こんな食堂が家の近くにあればいいのにな、と所長が羨ましくなると同時に、誰しも心の中にノラが教えてくれた輝きを秘めているのだということを、とても嬉しく誇らしい気持ちで受け止めました。長い人生の中で、たとえ目立たない役回りを担うことになっても、自分には居場所なんてないような疎外感に苛まれても、己の価値は決して損なわれずに、目には見えない眩しい光で、燦然と輝いている――そう確信を持って思えるほどの力が、登場人物たちの言葉の端々に宿っています。
その時々で心が最も必要としている一皿をいただいたあとのような満足感が素晴らしい、極上の物語でした。皆さまもぜひ、物語のページをめくって、『シェ・ノラ』を訪ねてみてはいかがでしょうか。きっと、忘れられない光の美しさに、目を奪われること間違いなしです!