増えた傷の分だけ、デザートには笑みを添えよう。

出世コースを外され、地方の工場に左遷された男。そこでの日々は孤独で鬱屈としたものだった。

だが小さなその大衆食堂の名は、『シェ・ノラ』。

高級食材や美味そうな料理などありはしない。喧噪が耳やかましい雑多な食事処だ。出される料理もたかが知れている。そう思って口にした鶏のトマト煮込みは───


『美味い。鶏はほろほろと柔らかく、トマトとハーブの香りがしっかりと染み込んでいる。一緒に煮込まれたズッキーニや人参も鶏の脂を吸ってコクがある。塩加減もちょうどよく、食材の甘みを引き出している』

『これは驚いた。値段以上の味じゃないか』


快活で、いつも明るく働くその料理人をノラといった。

前歯が2本ないノラの料理に、工員たちと同じく男もすっかり虜となる。ギシギシと廻る歯車のような日々に、少しだけ油が差されたような気がした。

だが、男のもとに報せが届く。

それは男にとって、どんな料理よりも苦々しく冷めた決断を強いるものだった───


物語に深入りしすぎずに、それでいて突き放すこともせずに、淡々とした筆致で描かれる作者様の文体が読んでいてすごく心地良いです。

さながらフルコースメニューのような、全5話の短編です。皆様も是非いただかれて、心温まるメインディッシュをご堪能ください。デザートも付いています。

輝きそこねた星くずの群れだとしても、誰かの夜を照らし出すその明かりは一等星よりも淡く優しく温かい。

ちょうど、このクズ野菜たちのスープのように。

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