バーチャルモンスターオンライン ~無職になったので育成ゲームをまったりプレイ~

瀧岡くるじ

第1話 バーチャルモンスターオンライン

 僕、結城圭一ゆうき けいいち32歳は今日、会社を辞めた。


 肉体と精神。どちらが先に壊れるかを競うような激務にいよいよ耐えられなくなったのだ。

 辞表を提出したことを付き合っていた彼女に告げると、別れを告げられた。仕事をしていない僕に、興味はないらしかった。

 ここ最近、人生最悪の日を更新し続けている。


***


 仕事の引き継ぎを全て終わらせ、終電の山手線。ふと見上げた液晶ディスプレイに表示されたCMに目を奪われた。

『バーチャルモンスター』……略してバチモン。僕が子供の頃から続く超人気育成ゲームの最新作がVRMMOとして、来月からサービス開始らしい。


 社会人として仕事を始めてから何年が経っただろうか。漫画やゲーム、アニメからすっかり遠ざかっていた僕には、CMに映るバチモンたちの姿がどこか、輝く宝物のように見えた。

 思わず「懐かしいな……」とつぶやいていた。


 それに、フルダイブ型のVRといえば、医療やスポーツ観戦にも導入され始めている最新技術である。僕も仕事で少しだけ囓った程度だが、もしVRの世界でバチモンと触れあえるなら……共に冒険できるのなら……。


「やってみたい……」


 そんな言葉が思わず口から溢れたことに驚いた。自分のために何かしたい。何年も続いた激務ですり減った心の奥底に、まだそんな欲求が残っていたことに驚いたのだ。


 後日、僕はVRゲームを遊ぶための機材を全て揃えた。


 給料の一ヶ月分が消し飛んだが、構わなかった。思えばこんなにも「何かが欲しい」と思ったのは、就職してから初めてだった。貯金はまだ十分に残っている。一年くらいは、働かなくてもなんとかなるだろう。


 せっかく無職になったのだ。若い時に大好きだったゲームを、本気で遊んでみたいと思ったのだ。

 なんとなく、そうすれば自分の人生を取り戻せるような気がした。


 サービス開始当日。

 僕は早速ゲームをダウンロードし、機材を頭に装着した。


「一体どれくらい進化しているんだろうな」


 こんなにワクワクしたのはいつ以来だろう。僕はゲームを起動すると、ゆっくりと目を閉じた。

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