第2話

「なんだぁ、拓海? 湿気た顔して」



友人の佐野が声をかける。



「ん…? …… あぁ……」



俺は、この先、どうしたらよいのか……

そんなことをぼんやりと考えながら、覇気のない返事を返す。



「大丈夫だって!

俺らが、なんとかすっがら(なんとかするから)。な?

まあ、ここは定員オーバーだがら無理だども(ここは定員オーバーだから無理だけど)、当てはあるんだ」



佐野は明るく言う。



佐野のアパートには、まだ他に、友人二人が住んでおり、ここで居候をするわけにもいかない。



佐野は、他の二人と一緒に、なにやら話し込んでいる。



「ほんとにヒロんとこ行くのか?」



「まぁ、今の俺達には、あいつんとこしか他に頼れるとこねぇべ?」



「まぁ、そりゃそうだけど…」



「とにかく非常事態だ。

行くだけ行ってみるべ。な?」



佐野は方言なのか、いつもの口調でふたりをたしなめる。






佐野たちに連れられて、俺は見知らぬ住宅街にたどり着いた。



見るからに高級住宅街だ。


田園調布か、麻布か、成城か…そんなイメージの高級住宅街だ。



その住宅街の一角にある白亜の豪邸の前で立ち止まり、佐野はインターホンのボタンを押した。



この白亜の豪邸は、ひときわ美しく、洋風で優美な景観である。



『はい…』



数秒待って、インターホンから応答があった。


男の声だ。



「あの、ヒロに会いたいんすけど。

……あ、佐野です。すんません…」



高級住宅街の、ひときわ優美な白亜の豪邸にはまったくそぐわない 佐野の野暮ったい口調がインターホンを通して届けられる。



俺は意味もなく可笑しくなり、笑いを最小限に押さえつけた。

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