林檎X

ウツヨ

プロローグ/狂騒曲の始まり

「侵入者発見!! 絶対に逃すな」


 カタカタと金属でできた床を踏みしめる音が無数に聞こえる。


「これは見つかったらマズイな……」


 私は物陰で息を殺し、仲間の指示を待つ。


『ゼロイチ。この先。ルーム09に目標を確認』


 耳につけている通信機器から少年の声がする。


 左耳に手を当て腰に携帯した銃を引き抜く。


 ルーム09の扉の近くには二人、武装した男が立っている。


「武力行使に移るしかないか」


 相手は二人、立ち回り次第では敗北に直結する。でもここでうじうじしていては先には進めない。


「行くしかないのか……」


 耳元の通信機器をダブルタップし音楽をかける。ジャキジャキとしたギターが耳元でかき鳴らされる。


 物陰から一気に飛び出し、銃を男めがけて構える。


 引き金を引き、薬莢が排出され弾丸が押し出される。


 武装した男の眼が水色に煌めき弾丸を間一髪で回避する。


 すかさず男はライフルを構え発砲


 やはり感染者か。まともにやりあえるか?


 私は地面を強く蹴る


 宙で身体を翻し弾丸を避け銃を乱射


 銃口が光を放ち、無数にかつ放射上に弾丸が放たれる。


 放たれた弾丸は空を貫き、男の肩をえぐる。


 男は苦悶の表情を見せる。


 その隙を見逃さず、額に弾丸を打ち込む。


 男は白目をむいて地面に倒れこみ沈黙。


 あと一人。


「バケモノか! 貴様はぁ!」


 もう一人の男が私に向けて叫ぶ。


 私は唇に人差し指を当て


「しー。騒ぐな駄犬」


 無慈悲に銃を構え、男の胸に風穴を開ける。


 倒れこんだ男のポケットから黒いカードキーを取り出し、ルーム09のドアに取り付けられた認証機にスライドする。


「ルーム09に侵入」


『了解。禁忌の果実のサンプルを回収して早くづらかろう』


部屋の壁一面に赤い液体の入った試験官が並んでいる。部屋はやや暗く、液体は怪しく光を発している。


「いい趣味の部屋だろう? 来客があるのなら前もって言って欲しかったな」


 いつの間にか背後をとられていた。まずいな。どうする。


「無視はよくないかな? せっかくのお客人だ。お茶の一杯でもしていけばいいのに」


 私は左足を軸に180度回転し蹴りを放つ。


 しかしその蹴りは空を切る。


「おっと。元気だね。いいことだ」


 声の主は白衣を身にまとった黒髪の女性だった。


「失せろ」


 白衣の女性に銃口を向ける。

 

 女性は銃口に額を近づけ、にやりと顔を歪ませる。


「ほら。撃ってごらん」


 女性は恐怖することなく話を続ける。


「キミたちはこの禁忌の果実……だっけか? これを盗んでどうするつもりなの? 世界征服とかしちゃう感じかな?」


「よく喋るな。命乞いか?」


 引き金に指をかけ、強く握りこむ。


 薬莢が排出され煙が立ち込める。


 目の前で起こったことに絶句する。


「え? で……。どこまで話したっけ?世界征服だっけか?」


 女の頭に風穴が空いた。空いたはずなのに……。


 女性は痛がる様子もせず、話を続ける。


「あー。なんだ。禁忌の果実ってネーミングさ。ダサすぎない? もうちょっとあった……」


 

 私は腰に携帯しているナイフを不規則に、かつ空間を切り裂くがごとく振り回す。


 認めたくない。ここで負けるなんて。ここで死ぬなんて。


 こんなの無駄に体力を使うだけだ。攻撃する隙を与えないただそれだけだ。


 白衣の女の顔や腕にはいくつもの深い切り傷が刻まれ、白衣は綻び始める。


「そんなに必死にならなくてもいいと思うけど……」


 白衣の女は何かをしようとする気配がない。戦意が存在していない。


 女は頭を掻きながら。


「そろそろ面白くなくなってきたな。こちらもお返ししよう」


 ナイフを振るう腕を正確に捉え、掴み上げる。


「がっ。離せ!!」


「ヒトにものを頼むときはもっと丁寧に」


 女は私の体を抱き寄せ、耳元でささやく。


「いいね?」


 次の瞬間全身に刺すような痛みが走り、傷口が開く。ひどい倦怠感が体を襲う。


 斬られた? いつの間に? ナイフを取り出す動作はなかったが?


 私は膝から地面に崩れ落ちる。


「なにが……あった?」


 込みあがってくるものがある。激しい吐き気とともに。


「ごぷっ」


 私が漏らしたものは赤黒く染まった液体だった。


 恐怖がココロの中で膨れ上がる。目の前にいる未知の存在に対して。


「移植……我ながらうまくいったな」


 女性の顔を見上げると顔や腕に刻まれていた傷は時間が巻き戻ったかのように完治している。きれいさっぱり。


「まだ……終わりじゃない……」


 白衣の女の顎を蹴り上げ、体を翻し、慣性に身を任せて液体の入った容器が埋め込まれている壁付近に着地。


 できる限り素早く壁の容器を取り、それに貪るように噛みつく。


 容器にヒビが入り中の液体が口内に入る。


 液体はほんのり甘い後味を残し、喉に流れる。


 容器を投げ捨てる。


 白衣の女は少し飽きれた様子で


「あー。ニンゲンを捨てる……か」


 カラダに今までに感じたことのない痛みが走る。


「あいにく私には失うものがない」


 私は歯をむき出して笑う。


 高揚感と浮遊感。それと快感


 突如として背中に痛みが走り皮膚を突き破って糸のようなものが解き放たれる。


 白衣の女は眼鏡をくいっと押し上げて。


「血管の異常発達。なるほど……」


「なんだ? 怖いか?」


 背中から生えた血管は根を張るように伸び、枝分かれし、束となって触手となる。


 触手は白衣の女目掛けて伸び、首を掠める。


 首からは鮮血が噴出し、床にシミをつくる。


「こんどはもっと。ふかく」


 手足のように触手を動かし、無数の斬撃を放つ。


 「ちょっと。客人にしては我儘過ぎないかな」


 白衣の女性は床に落ちたナイフを拾う。斬撃をひらりとかわし、私との間合いを詰める。


 触手とナイフは火花を立てて交わり、拮抗状態となる。


「どうしてそこまでXに拘るかな?」


「わたしたちはセカイをトル。ジャクシャがしいたげられないように!!」


 ナイフにヒビが入り、砕ける


 白衣の女性の胴を触手が貫き、体が宙に浮く。


 女性は血を吐き、徐々に眼は光を失っていく。


「じゃあさ……弱者が弱者じゃなくなったら世の中はどう……なるか。教えてあげるよ」


 女性は白衣のポケットからリモコンを取り出し、ボタンを強く押し込む。


『自爆プロトコル始動』


 機械音声とともに部屋の照明が赤へと変わる。


 激しい炸裂音とともに部屋の壁に飾ってあった容器が割れ、部屋は閃光に包まれる。


 身体は徐々に焼け爛れていき、原形を失う。


「狂騒曲のレコードに針が落とされた……精々楽しみな」




 






 

 











 

 



 


 

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林檎X ウツヨ @Onigiri_5mo9

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