恋愛相談

「――だからね、私は最近のライトノベルが嫌いなの。 異世界転生モノだとか。 自分で何か努力したわけでもないのに、急に力を与えてもらって…って莫迦莫迦しいと思わない? そもそもタイトルにしたって何の捻りのない…」

「分かったから。 一回水飲め」


 夜、居酒屋に集合した陽介は、かれこれ二時間ほど、理沙の愚痴に付き合わされていた。

 何でこいつはこんなに酒癖が悪いんだ?

 男が寄ってこないのも納得だな…

 水の入ったコップを片手に何よ、と睨む理沙を見ながら、陽介もまけじとジョッキをあおる。

 

「何で陽介を飲みに誘ったのか忘れたから、私恋愛相談聞いてもらうわね」

「はぁ? 俺がどんな思いで今日過ごしてたか…」

「いいからいいから」


 理沙は納得いってない様子の陽介を右手で静止し、枝豆をつまむ。


「――もし私に好きな人『A』…いや『Y』ができたとして、貴方が『Y』が他の女とデレデレ電話してる所を見たら、貴方は私に『Y』を諦めるように言う?」

「急にそんな具体的な質問、どうした?」

「いいから」


 陽介はうーん、と顎に手を上げ数秒間唸る。


「分かんねぇなー。 理沙がそいつの事どれだけ好きかで変わると思うけど」

「じゃあ、貴方が結城先輩を好きなのと同じくらいだとしたら?」

「そりゃあ、諦めるようには言わないだろ」


 思ったよりを早い返答に、少し面食らってしまう。


「…何で?」

「そりゃ結城さんが他のやつとニコニコ電話してたとしても俺に振り向いてくれる可能性はゼロじゃないじゃん」


 陽介は手にもっていたジョッキの中身を豪快に飲み干し、


「あの人がモテるのは俺も知ってる話だし、そんな些細な事でこの気持ちを抑えられる訳ないだろ」


 と大見えを切る。

 

「…成程ね」

 

 陽介の固い決意を前にして、理沙は今日の出来事を自分の胸に留めて置くことにした。


「てかほんと急にどうした? こんな遠い店まで連れてきて」

「別に、ここはいつか行ってみたいと思ってたからってだけよ」

「本当か? 実はもう気になってる人が出来てるとか…あ、『Y』ってもしかして俺の事か? 申し訳ないけど俺には心に決めた人が…」

「そんな訳ないでしょう。 貴方とは幾ら積まれても付き合うなんて事ないから安心して頂戴」

「あんま本気にすんなよ。 冗談なんだから…」


 建付けの悪そうな扉ががらがらと音を立てて開き、中年のサラリーマンがおろぞろと入ってくる。

 席に座り、口々に仕事の愚痴を吐くなどして盛りあがっている。

 陽介がスマートフォンを見ると、カレンダ―と共に『金曜日』と表示されている。

 理沙もその様子を見ていたようで、私たちが出会ったのもこんな日だったわね、と漏らした。

 出会った日、か…

 気づけば二人は時間も忘れ、去年、出会った当初の思い出話に花を咲かせていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次は理沙と陽介が初めて出会った時の話です

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