第2話 隠しヒロイン
「しかし……家に帰るといっても、ポルシェノール領まで遠いな……」
先ほどの群衆から逃げ延び、森の中を俺は歩いていた。
俺がユリミアに婚約破棄されるまでの間、馬車馬のように働かせられた。
しかし、何もしていなかった訳ではない。
例えば、自分の持っている
この世界にはいわば、神から与えられた才能がある。
千人いるとすれば、そのうちの一人は何かしらの加護は得る確率だ。
これにも少し面白い仕様があって、『先天的なものしかない』とこの世界では言われている。しかし、
アミノはプレイアブルキャラではなく、バグやツールを使ってようやく使えるキャラだったため、開発者が遊びで多く祝福を入れていた。
もちろん、祝福によっては強さの違いはあるが……基本的には優秀なものばかりだ。
祝福にはレベルがあり、高レアなものほど強力でとても珍しいものだ。
高
★★★★★(最高レア)
★★★★ (高レア)
★★★ (レア)
★★ (ノーマル)
★ (低ノーマル)
低
どれを得られるかどうかもランダムだが……実は、アミノにも祝福がある。
1.雷神(ドンナー・ゴッツ)の祝福:★★★★★
雷の魔法適正がMAXになる加護
練度によっては使用する際に差がでるものの、鍛えれば最強の雷魔法の使い手となる。
基本的には戦闘向けの加護だ。
2.薬祖の祝福:★★★★
薬学に対する無限の知識と、調合する上での知識が自動で引き出せる。
かつ、それに必要なすべての情報を自動的に引き出すことが可能。
これにはとても助けられた。
現代でいうところのエナジードリンクに似た物を作り出せたからね!
仕事では必須だったよ……ハハハ
3.戦術構築共鳴アップ:★
相手の抵抗力に合わせ、与えるダメージが倍増する。
キャラが敵に異常状態攻撃を与えた場合、その人物の会心率が上昇し、それに乗じて会心ダメージがアップする。
★1かよ、ハズレじゃん……という反応が当たり前だ。
確かに、★5の方がレア度は高く強力だ。
このスキルを持っているのはこのゲームにおいてはモブキャラなどが持っている、ゴミ祝福だ。
キャラを作っている時にこの祝福を引き当てたら、『マジか最悪だわ……要らねーしリセマラするか』となる。
でも、これを知った瞬間に俺は笑みがこぼれた。
俺はこのゲームを知っている。そして、ある程度やり込んだ人間だ。
人によってあの程度が変わることは承知しているが、それでも最低限の知識はある。
このゲームはよくある攻撃力やMPを上げていけば勝てるようなものではない。
その本質は【祝福】にある。
他の祝福を得るには少しばかり条件があるが……今はこの三つで十分すぎる。
「日が暮れる前に着きたいが……ん?」
何の音だ?
遠くから聞こえる音と、鳥たちが散っていくのに気づく。
剣がぶつかるような鈍い音が響いた。
キィィィン……‼
誰か戦ってる?
行くべきだろうか。
いや、でも俺には関係な……。
「Garrrrrr!!」
……。
その魔物の声を聴き、俺は足の向きを魔物へ変えていた。
*
魔物に襲われていた一団は、絶望的な状況に心が折れかけていた。
「上位クラスの【隻眼の硬狼】がなんでここに!?」
「勝てる訳がない……逃げましょうよ!」
「こんなところで無駄死には御免だ……!」
【隻眼の硬狼】
赤い毛並みに、隻眼の狼の魔物。
毛は鋼鉄の何倍も硬く鋭く、刃が通ることはない。
この世界では上位の冒険者が五人パーティーを組んで撃退するのがやっとの敵であった。
その魔物を前に、貴族の馬車らしきものを置いて逃げる彼ら。
「貴族の娘一人のために、死んでたまるか……!」
彼らは背を見せ、【隻眼の硬狼】から逃げていく。
彼らが守っていたはずの少女のみが取り残される。
少女の悲痛にも似た叫び声が響いた。
「ま、待って……!」
「ははは! 元々、魔物が出たら逃げるように言われてたんでね! 恨むんじゃねえぞ!」
「えっ……」
残された少女は、にじり寄ってくる【隻眼の硬狼】に気づく。
「Garrrrrr……」
「ひっ……」
仕組まれていた。
最初から少女を消すために、危ないと周知されているはずの森へルートを選ばされた。
(誰か……誰か……!)
少女の目じりに涙が溜まりつつある中、それは聞こえた。
「大丈夫ですか?」
*
なんか着いてみたら、護衛は走って逃げてるし少女だけ取り残されてるし……。
少女が俺の腕を突き放した。
「……っ! ……に、逃げて!」
必死に泣きそうなのを我慢しながら、俺に逃げろと告げる少女に、違和感を覚えた。
第一声が『助けて』じゃないのか。
少し驚いた。
「Garrrrrr!!」
仕方ない、成り行きだ。
ここまで来て、助けないのも味が悪い。
努めて微笑むように、俺は少女の手を離した。
「大丈夫です。なんとかします」
「え……?」
【隻眼の硬狼】と向き合い、ゆっくりと自身の剣に手を伸ばす。
なぞるように柄を触り、カチャッ……と刃を僅かに見せた。
雷神(ドンナー・ゴッツ)の加護:★★★★★
────発動。
青い雷。
そう表現するのが正しいだろう。
俺の体から小さな電撃が走り、それは徐々に大きな雷へと変化していた。
そう見えたかと思えば、俺は瞬時に【隻眼の硬狼】の真上まで跳んだ。
「Gar!?」
刀身を抜いた瞬間、雷の斬撃が走る。
「雷鳴の刃 (ドンナー・シュラーク)……!!」
スパッ───……!!
刃がスッと通るような音が響き、【隻眼の硬狼】の頸を切断する。
「す、凄い……一撃で倒した……」
着地し、一息つく。
ふぅ……仕事しながら雷神を使っていた甲斐があったな。
文字通り雷の速度で仕事ができていたからな。
あれのお陰で練度が上がっていたようだ。
まるで社畜だな……。
「これでもう大丈……あっ」
俺はその時になって、ようやく気付いた。
ピンチになっていたのは、ただの少女ではない。
銀色の髪に、透き通るような肌。
蒼い双眸と目が合い、俺は言葉を失った。
こ……この子、このゲームの超激レア隠しヒロインじゃね……?
この世界において、最も美しくなる隠しヒロイン。
アリス・クリファイスがそこには居た。
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