天体感情
阿修羅大車輪
第一話 「あのね…」
*【出会い】*
これは僕が過ごす濃密な1週間のお話。
あいつと出会ったその日から、別れる日までの短くて短くて、愛おしくたまらなかった日々の記録。
冬、別れが近くなる季節。木々は枯れ果てて新たな生誕を待つ……子供達はうるさくなり恋人達は愛を確かめあって育みあっている。
僕にそんなものは無いから、教室から窓の外を覗いて落ちる雪結晶をボーッと見つめるだけ。それが僕にできる冬の美しさを楽しむ方法
「はーい、それじゃ皆席に着いて。今日は転校生がいるから早めにホームルームするよ」
山本先生がそういった、若い20代くらいの人で、活発さがあってクラスの皆から好かれてる。
あんな人でも僕のことを見てくれる事はしない僕は日陰者だから、こうやって隠れて外を見るそれでも誰かと一緒にこの冬を楽しんでみたいけど、僕にはちょっとだけ過ぎた願いかもな。
ガラガラガラ
「では、転校生の雪葉彩さんだ。無口だけど良い子だと思うから、みんな仲良くしてやってな!」
儚げな雪のような人だと思った、美しく今にも溶けそうな髪の毛は…なんの感想だ、変態め。こんな事考えてるから僕は彼女が出来ない。人をまるで情景として捉えてひとつの写真にしてしまうから、いつもおかしな人だねと嗤われる
白を基調としたこの学校の制服にとても似つかわしく美しい。これだけは心の中なのだから言わせてくれ無いだろうか多分神は許してくれる
「それじゃ、挨拶も程々にして席だな。あいつの隣に座ってやってくれな!」
ゆっくりとこちらへと歩いてきた……あっ、だから隣の席空いてたのかァ!普通に誰も僕の隣に来ないだけかと思っていたよ。いやこの学校自由席だからそうなんだけれども。
こちらへと目配せし、なにか挨拶をしようとしているかのようにも見えるすまん俺は喋れない
それは何故か、女の子と話した事なんてねぇからだよ!ドアホ!!!隣に座られるだけで心肺停止するんだが。
「ど、ど、どうも……」
変な声出して裏返ったーーーーっ?!
何してんだ、僕の馬鹿野郎!!
「………」
変な顔してみてるよ、よくそれで座れるね!
ご立派な礼儀だな本当、育ちが良いね!
1限目、2限目と時間が過ぎてゆくお昼休み
転校生だと言うのに誰もこの子に近寄ってこない、普通もっと知りたがらないか?……僕が横に居るからかも、席から離れてあげようか。
席から立ちそっと図書室に行こうとする僕をか細い腕がそっと止めて来る
「……あのね。あなたの名前を教えて」
時が止まったような感覚がした。
彼女の冷たい体温が腕をそっと凍らせてゆく
僕の体温がそれを阻止してお互いを融解させる
まるで春が訪れたかのように暖かくも冷たい風が吹いたような気がした。おもむろに口を開く
「僕は、有馬……有馬瑞稀」
少しの動揺を隠せないような高校2年の冬
僕は初めての出会いに、戸惑いを隠せずに。
「そっか、私はね雪葉彩。彩って呼んで!」
その冷たさとは裏腹に暖かなはにかみを見せて僕にそう言った。
「う、うん……よろしくね、彩……さん」
僕は……
僕は、恋に落ちた。一目惚れというものだろうか?きっとそうに違いないだろう、否定したくないこの感情を何度心の辞書で引こうと肯定できない、僕ちそんなものがあるなんて知りたくなかった、知ろうとしなかったからなんだろうか?………きっと、これからよく知ることになるだろうから考えるのは辞める。
月曜日の放課後、下校時間が僕を迎えてきた。
「え、アミ今日誰とヤんのー?」
「私ー?私テツヤと〜、ヤる訳ないだろ馬鹿、ギャルのイメージ操作やめろ。」
思わず吹き出した学校でそんな話すんな。
ノリノリで言うかと思えばちゃんと否定して帰っていくの現実と理想の違いみたいで面白いな、今この状況が理想って感じなんだが?なんでこんな可愛い子が俺の横にいるんだよこれ何かの小説だろ。
「………彩さんは帰り道どっちなの?」
「私?私は…六会瑞稀くんは?」
「僕?僕は湘南台だけど」
「そっか、ねえ瑞稀くん」
おい、その言葉はやめてくれ……まさか
「一緒に帰らない?」
「………うん。」
横で一緒に歩いていいのかは分からない
でも確かにした約束だから、きっといい僅かな期待とドギマギを胸にして歩みを進めた、そんな帰り道。
「小田急の仲間中々居ないから一緒に帰るのは彩さんが初めてだな、みんなJRだから。」
「そうなの?じゃあ…私たちともだちだ」
どういう感性を持ってらっしゃる?
「あ?え、うん。」
「不満だった?」
「別に。」
少しそっぽを向いてしまった、ごめん。
無表情のままこちらを見つめてくる
やめて、そんな目で見つめないで今顔赤い
「瑞稀、寒い?」
そう言って頬に手を当ててくる。
やはりとてもひんやりしていてとても気持ちがいいと感じてしまうのは何故だろう
「違う、暖かくてあかいんだね。ふふっ」
その表情はそっと笑顔へと移ろい変わらない視線をこちらへと向けてくるのだった。
【まもなく、3番線に相模大野行き電車が参ります】
電車の到着がまるで3時間にも感じられるようなこの瞬間をかみ締めていたいありがとう世界愛してるよ本当に。
電車の椅子に座りガタゴトと揺れる中こんなことを聞いてみる。
「彩さんはどこから越してきたの?」
「知りたい?」
「まぁ…はい」
「私は……ちょっと遠くの場所」
「えっと?」
「教えてあーげない!ってこと。」
えっ、なにそれは…僕の感情is何処 無いなった。とか変な言葉になってしまうじゃないか、なんなんだこの子は。
「そっちの方だとスキンシップが過剰だったりとかするの?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「だって……ほら、さっきのやつとか」
少しとぼけた様子で考えるふりをする彼女が小悪魔のような笑い方でこう言った。
「君が可愛かったからじゃ、ダメ?」
「ダメです」
目が点になって居る彼女を見ると案外表情豊かなのだなぁと感じる、出会ってまだ数時間程度しか経っていないけれど。
いつもより電車の時間が長く感じる
「周り誰も居ないね?」
「えっ?」
なぜ急にそんなことを言い出すんだ
「瑞稀が可愛いのを誰にも見られたくないな」
は?お前の距離感どうなっとん。大歓迎
僕の理想とか現実がおかしいだけかもしれないけど普通であって6時間程度しか経たない他人ましてや男相手にその言葉が出てくるのさてはこいつ遊び人だろビビるわ。
いやそりゃそうだろうな、こんだけ可愛いんだし昔彼氏居たとかでお手つきの可能性もあるだろ……過去は過去だし僕は喜んでいいのかなこれ…喜ぶか、やったー。
虚しい
遠くを見つめてしまった僕にこう声がかけられる。
「童貞?」
「……………」
図星である。
彼女は耳元で囁くようにこう言った
「私もまだ初めて。」
「うそつけ」
「あ、失礼だよそれ」
「ごめんなさい」
「それでよろしい!」
目を見合せて互いにキョトンとした表情を向け合う、少しの静寂と共に誰もいない車内には静かな笑い声が反響し夕暮れが僕達を照らしているのだった。何故だろうか
こんなにも心を許してしまうんだ
【まもなく六会です。】
アナウンスが車内に鳴り響いてゆく、もうこの時間も終わってしまうんだろうか
「ねぇ瑞稀」
「なに、彩」
「また明日ね!」
そう言って電車の扉はしまっていった
そっと頭を抱えて惚けている、まるで夢だったかのようなこの時間が覚めてしまいそうで嫌だった、けれどもこんな思いをできてとても嬉しかった。
電車から降りると辺りはすっかりと暗くなっている、空を見上げればビルの光に紛れて星がかろうじて見えてくるけど、やっぱり綺麗な空では無いな。
神様が居るんだとしたら今ちょっとだけ僕を見ていて欲しい、僕の行く末を少しだけ
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「久々に会えて嬉しかったな、瑞稀」
私はそっと服を脱いでその肌を露出させる
「あの神社で助けてくれて以来見てないものね、きっと帰る時は来るけど。その時までは私と一緒にいてくれないかな」
私は天から来た神使だ、だから1週間で帰らなくちゃいけないんだ。この天から授かった体に宿る感情は、とても勿体なく消したくないものだから。
天体感情第一話 「あのね・・・」終
天体感情 阿修羅大車輪 @asyura_daisyarin
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