第三章
3ー1
「あはは、それで結局、断り切れずに婚約することになっちゃったんですの。仕方ないですわねえ、アリアったら」
「もう……笑いごとじゃないよ、セレスってば!」
目の前でコロコロと笑い転げる大親友に、アリアはぷくっと
セレスティーナ――セレスは、アリアと同い年で同期の
アリアよりもさらに
じいっと思わず親友の顔を見つめていると、相手には不思議そうに首を
「あらどうなさって? アリア。わたくしの顔に何かついていて?」
「ううん、セレスは今日も可愛いなって思って」
印象が冷たくて人形のようだの、何考えているのかわからないだの、
「あらやだ、アリアったら。
「それが
そして、これは
おまけに彼女は、愛らしい容姿と裏腹に、読む前に背後を気にしてしまう過激な官能ものも、表向きには
実は
――さて。
今アリアたちがどこにいるかといえば、移動中の馬車の中だった。
同じ王都内とはいえ、
カラコロと
(ジークさまは、
車窓のカーテンをそっとつまみ、アリアは外を
考えごとを読んだかのように、セレスが「ジークフリード
「律儀といえばセレスもだよ。よく私の話を聞いて、ついてこようと思ったよね……」
「あら
《うで》ききの聖術使いですのに。
「あ、ごめん舐めてるわけじゃなくて……巻き込んじゃったなって」
あまりに普段通りからっとした友人の様子に、アリアは思わず
*****
――義母のルクレツィア・イーライから、命を
ジークフリードが聖女候補を早々に求める事情を教えてくれたのは、数日前。修練場で改めて婚約を
『さようでしたか。それは……ご心労いかばかりかと』
『あまり
『ええ、まあ……』
ジークが義母と折り合いが悪い話は、アリアとてかねてより
納得感といっても、感情で許せるかというとまた全く別な話で、心は「ハァ? ふざけんな我らが国宝ジークフリード殿下になんてことを」と
『……どうしてそこまで目の
これは
たとえば正妃であるルクレツィアに実子がいて、義理の
『妃殿下が異様なほどジークさまを敵視する理由が、いまいち私には見当がつきません』
むしろ自分が彼の義理の母なんて地位におさまった
『……その件については、おそらくは大聖者
『教えていただいたことはない……ではなく、
『はぐらかされてきた?』
『君に事情を話すのを
知れば、戻れないとは。
――なんだか
(ネタの宝庫……!)
そんなアリアの内心などつゆ知らず、――無表情の
『とはいえ、今となっては猊下にそれを問うことも難しい。……ここからが本題だ。妃殿下が父上をなんらかの方法で
『薄い聖典の話はいったん置いておきましょう』
すかさず制して顔を青ざめさせたアリアだが。しかし、そこから先の話は、アリアにとってまさに予想外のひと言に
『君に協力してほしい
苦しそうな顔の告白に、アリアは今度こそ飛び上がった。
王佐の大聖者といえば、三百年前から
『猊下が……!? そんな、……一体いつから……』
息を吞むアリアの前で、ジークは
『半月前だ。いい加減、行いが目に余る妃殿下を
今のところ、それらが
ともあれ、猊下は
(あっ、そうか。だからだったんだ)
確かにジークは、アリアの得意な聖術が、
(あれは、大聖者猊下を
それにしたって、もっとも大きな疑問が残っている。
『でも、大聖者猊下が
まずはそこなのだ。アリアは
(だって、大聖者猊下といえば、聖術におけるロッドガルド写本の最強の使い手のはず。たとえ妃殿下の私兵が束になってかかったとしても、そうそう
聖術は、高位の使い手ともなれば、わずか数行読み上げるだけで山を
なんなら、聖句を刻んだ
彼の前では、他の聖術使いも、それどころかどんな武器や軍隊も、ドラゴンを前にしたうさぎの群れと大差ないはず。
『まさか、大聖者猊下に
『……いる』
『えっ』
『他でもない、妃殿下が
魔物の
そもそも、王国を守護し続けるために、大聖者の神力には常に一定の
『それでも、猊下も彼女を封じ込めるべく、長年いくつかの術式を編んでいたんだが、先手を打たれて
『
(いったい何者なの、ルクレツィア妃殿下って。そんなのもう、ドラゴンを
しかし、これでやっと、ジークが聖女候補を
(猊下がいらっしゃらないからこそ、聖術使いの協力者が必要だったんだわ)
お
『それで私に聖女候補になるようにと
やっと得心がいき、アリアは
『そうだ。
『では私の役目は、ただの聖女候補として王宮に出向き、ルクレツィア妃殿下の
『理解が早くて助かる』
なるほど。
――なかなかの大役である。
(今更ながら、本当に私でよかったのか疑問すぎるわ……。受けてしまったからには腹を
ただ、ジークが直接連れてきた聖術使いであるからには、ルクレツィアもおそらく最大限
『警戒というより、
『それは……なかなか力ずくの極みですね?』
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