2-2
*****
近日中とは言ったものの、まさか翌日に訪問してくるとは思わなかった。
日差しの
「いえ、私もつい先ほど参りましたところで……」
とはいえ、建前上首を横に振ったものの、実際には
むしろ単に落ち着かないというより、
「わざわざご足労いただいて申し訳ございません」
「いや、こちらこそ。で、君の秘密というのは……?」
「まずはこちらを」
情けなく
首を傾げる彼に、「危険物だと
――中から出てきたのは、大量の冊子である。
背表紙を天に向け、ミッチミチに隙間なく
「これは……?」
「……本です」
「いやそれはわかるんだが……」
「…………失礼いたしました。こちらは、ロッドガルド大神殿の巫女や巫女見習いたちの間で、
「薄い聖典……」
いかにも
「さ、……最初にお断りしておきたいのですが。これらは全て有志による自費で、かつごくごく
「そうか。自費で書籍を……すごいな。さすが大神殿に使える聖職者とあって、
(ヒッ)
やめてください感心したように頷かないでください。
「手に取ってみても問題ないか?」
当然といえば当然だが、興味をそそられたらしいジークフリードから
今の時点では、どうしてアリアがこんな
片手を挙げて「失敬」と断り、ジークフリードは冊子―― 『薄い聖典』をいくつか選ぶ。それから、
――固まった。
当たり前だ。
(うっ)
アリアは内心で
「……なん、だ? これは……『我、王子として生を
「やめて! 私を殺して! 海に捨ててぇ!」
思わず
不意打ちで題名を音読されて、うっかり落命しそうになったのだ。
「す、すまない。何か気に
「い、いいえ……も、も、申し訳ございません……こちらこそ大変に不敬な……発言をいたしました……」
今のでだいぶ
まさか。読まれている。薄い聖典を。目の前で。よりによって、ジークフリード・イーライそのひとに。
終わった。何がって、人生が。
(ご、ご
しばらくその場に、無言で
アリアは再び死にたくなった。というより、なんならここに来た時からずっと死にたい。いっそ天からいきなり
「ええと、…………すまん。念のため確認させてほしいんだが。これに登場する『ジークフリード・イーライ』というのは……俺、か……?」
「……」
今度こそ何も答えられず、アリアは両手で顔を
「すまん。ええと、これらが俺についての本だとすると、なぜ君が……? というより巫女たちや巫女見習いたちは、一体どういう
「それはですね!!」
そこからはもう、やけっぱちだった。
いっそ全てを吹っ切って
自分がこうした『薄い聖典』小説の書き手で、しかも大手の題目になってきた「ジークフリードもの」の
日々ジークフリード王太子殿下の情報を、目を皿に耳をシーツのように広げ
あまつさえ、
結構な勢いで読まれているおかげで、現在は「ジークフリードもの」の読み手ばかりでなく書き手も増え、ここにある本のうち三十冊程度は自分が刊行したが、他は別作家が書いたものの
最初は
「私、今までこれだけあなたで
「……そうか」
「い、以上です……」
話を
(終わった。死んだ。
ジークフリードは黙っている。
――が。
「ええと……総合すると、だ」
しばらくして、沈黙を破ったのは彼の方だった。
「君は、会ったことのない俺について想像した内容で小説を執筆し、
「恐れながら殿下。販売ではなく頒布です」
「……どう違うんだ? まあ、とりあえず続けよう。……あー、頒布してきたと。ただ、一応は
「はい……」
「例の『慕っている』発言については」
「わーすごーいかっこいい的な、こう、主に憧れとか
「なるほどな……」
答えを聞いたジークフリードは、口元に手をやり、目を
彼はそのまま何ごとかしばらく思案したのち、「……よし」と頷いた。
魂が燃え尽きたアリアの方は半ばサラサラと砂になりかけていたが、相手が問題を理解してくれたものと思い、
「おわかりいただけましたか。では、改めて求婚は取り下げていただいて、こんな気色悪い女などではなく、ぜひ別の問題ない巫女か巫女見習いを選び直していただけたらと」
口早に言い
「君への求婚は取り下げない」
「はい?」
「聖女候補アリアセラ。……改めて、君に願おう」
そして、
「君が、今まで会ったことも話したこともない俺について一方的な妄想を
――と。
「本気ですか!?」
思わずアリアが
「後生ですから、他作家さまを巻き込むのは勘弁していただけませんか……」
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