第二章
2-1
「おはようアリア」
「おはようございますお引き取りください」
――ジークフリードは、有言実行の人だった。
そこも
今日も今日とて、これまで一度も入ったことすらなかったくせに、いい加減通い慣れてしまった
貴賓室の広く切られた窓からは、朝陽が
「
(まあ、懲りないっていえばジークフリード殿下こそが『そう』だけども!)
よりによって、
お
開口一番、「
「君の事情を聞かせてもらわないことには、
「そこをなんとかお引き取りください」
「お引き取りくださいが
「なかなかネバネバとお
「お粘……
最初のお目通りから、もう一週間近く
彼がやってくる時間帯は不規則で、朝だったり昼だったり、場合によっては日も落ちかけた夕方だったりする。要するに、王太子として
ちなみに彼の日参が始まってこちら、同じテーブルにつくのを初めこそ固辞していたアリアだが、そうすると「俺だけというわけにはいかない」とジークフリードも席を立ってしまうため、今はもう諦めてさっさと座るようにしていた。それでも一応、
「どうして私なんですか……」
「協力者として、君が一番ふさわしいと思ったからだ。確実に
いつの間にか向こうもだいぶ打ち解けてきて、アリアへの呼びかけも「あなた」から「君」に変わっている。そういう
「ありがとうございます見込み
「つれないな」
「はい。つれませんとも。聖術であれば、巫女長の方が私よりも強いはずです」
「
(巫女長様! 余計なことを!)
まさかの裏切り。味方だと思っていたのに、背中から撃たれている。
そこでふと、ジークフリードはやや困ったように
「……事情を
(ヒィイ! 殿下の困り顔の
こう、黒い毛並みの気高く美しい
「エッ
「だが、協力してもらうからには、君の身の安全は確保できるよう、
ジークフリードから、何度目になるかわからない
「……謝礼なんて
それだけは、かろうじて返しておく。しかし、そこで「! では、……」と身を乗り出そうとするのは、
(うう、どうしよう……)
アリアはアリアで、こう申し出られた時から、迷いっぱなしだった。
協力を取り付けるまで詳しいことを話せないという
(うーん。けどなあ……私の聖術が他の人よりすごいかというと、それは正直かなり疑問だし。私の得意なのって、結構地味で細かいやつばっかりというか。
い気持ちはあって……)
もちろん、聖術の特性による力不足の
(治癒や浄化や探索が役立つご用事なの? それとも都合上そうおっしゃってるだけ? わからない。ううーん……)
何せ長年の憧れの人だ。
彼をネタに、
力になりたいかといえば、それはもう
しかし。
(やっぱり、いくら期間限定で契約上のものとはいっても、王太子妃候補になるのはさすがに無理!!)
行く手を
当然ながら、ジークフリードには問題などなく。全ての原因は、アリア自身にある。
(わ、私が
脳内早口ここに
(いくら立場上だけのものだといっても、契約の
考えれば考えるほど恐ろしさで真っ青になるアリアの様子を
「どうした? 顔色が悪いが」
「生まれてきて申し訳ございません」
「本当にどうした!?」
「アリア。この際、
「えっ、と」
アリアが
ジークフリードはこの
(
それはアリアに関しては、てんで
「そもそもこちらの事情を全く明かさずに、何が起こるかわからない王宮まで、とりあえず信じてついてきてくれというのが、どんなに不誠実な話かは理解しているつもりだ。安全が確保できるよう
「いえ、その」
「君が、将来を
「それは断じて違います」
だんだん
「翳り
「え? ……は、はあ、そうなのか?」
「そうです! この大神殿だけでも、殿下の無事と
いのり、『ジークフリード殿下が日々
「願いの方向性が親のそれだが?」
気遣いは痛み
全て『名もなき様』の作品群に寄せられた、熱心な読者たちの感想である。新刊を出すと、しばしば寄進入れ箱に
「ですから! その殿下から、
「そうか、じゃあ婚約」
「無理です」
「どうなっているんだ!?」
「断じて嫌じゃないんです! 嫌じゃないけど! 無理なんです!」
伝われ。
「……そこまで
いい加減、
「もし君が、自分の立場や安全を気にして断るなら、こちらも理解が及ぶ。だが、それは違うそうじゃないか。謝礼が足りないのなら、色をつけることはもちろんできるが、そもそも謝礼はいらないと言う。俺はどうすれば、君に
どうしてもこうしても受けられませんので諦めてください、と言い張りたいのだが。相手の気持ちもわかりすぎるほどわかるだけに、アリアはにっちもさっちも行かなくなってしまった。
(ううう……!)
本当は、この
悲しいことにアリアの交友関係は極めて
「私自身が! 聖女候補になるには、あまりに不適切な不届き者だからです……!」
「? このところ君に接してきた限りは、そうは思えないんだが」
「表から見えないだけです。
「隠された一面?」
なんのこっちゃという顔をしている彼に、アリアは一度、ぎゅっと目を閉じた。
(ええい、いくらなんでもこのままじゃ殿下に申し訳なさすぎるわ。かくなる上は、私も
本当は、
が、自分一人の内なる理由だけで、ここまで憧れの人に散々な不義理を働いてきたのだ。きちんと筋を通すのが人間というものだろう。背に腹は代えられない――
「……では、恐れながら。殿下にお願いがございます」
「願い?」
「はい。近日中でご都合よい時に、私の術を
それが一番、手っ取り早く
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