1-5
ルクレツィア――ルクレツィア・イーライとは、もともとはジークフリードの祖父にあたる前ロッドガルド王アゼクの後妻だった女性だ。
そしてアゼクの
そしてルクレツィアは、現王に代わってほぼ権力を
「王太子とは名ばかりで、なんの力もない。俺が無事に次代になれるかも
「いいえ、違いますけれど」
「恐れながら、ジークフリード殿下はなんの力もないわけではございません。むしろ、殿下ほど才もあり努力も
「……?」
「ルクレツィア妃殿下とのご関係については、外から得られる情報を整理する限りは、そもそも妃殿下の方から何かと殿下の
今まで誰もをドン引かせてきた、絶え間なく矢を継ぐような早口長広舌を、惜しげもなく
「極めつきは大聖者猊下とのご関係です。ルクレツィア妃殿下は猊下と反目し合う仲であると
――アリアが我に返った時には、ジークフリードはすっかりと
なんとまあ、こんな
「た、大変申し訳ございません……!」
アリアは慌ててその場に
「失礼いたしました。
「いや、……すごいなと感心していた。王宮の事情をよく
「王宮全体の事情ではなくジークフリード殿下限定です」
「俺限定?」
「ハッ」
余計なことを言った。
「お忘れください。お聞き流しください」
「いやさすがに聞き流しようもないんだが。俺限定、とは……?」
だんだんその目が
(もしかして、ジークフリード殿下のことに精通しすぎて、ルクレツィア妃殿下の息のかかった不審人物だと疑われている?)
ならば、それは誤解にも程がある。
「そっ、その、そうではなく……!」
アリアは焦った。
とにかくこのとんでもない
はやる気持ちのまま、思わずアリアは
「違うんです、ジークフリード殿下! わ、わた、私、……! あなた様を、昔からお
「え……」
――焦るあまり、とんでもないことを口走ったと気づいた時には、発言から十秒以上が経過していた。
ジークフリードは、今度こそ完全に呆気に取られている。なんてことを言ってしまったのか。相手にしてみれば、
(ま、まずい……)
今の自分は、絶対に気持ち悪い女だ。
「……? それは……ありがとう、と言っていいんだろうか。アリア」
「……」
はいともいいえとも答えかね、とりあえずアリアは真顔で
この反応の示すところを、ジークフリードは自分なりに解釈したらしい。しばらく視線を
「しかし、こんなことを聞いては失礼かもしれないが。俺はあなたと、昔どこかで会っていただろうか? 言われてみれば……見覚えがあるような……?」
まあそう考えるものよなという、当然の疑問である。
面識もない相手を慕うだなんだと、考えにくいのも道理だ。
「いいえ聖典と天地神明に
「やたらはっきり否定するんだな。そうか……いや、待ってくれ。だが、だとすれば不思議だ。どういう
ごもっともだ。でも違います。アリアは再びきっぱりと手を横に振る。
「いいえ! 慕うといっても、その『慕う』ではございませんので」
「では、どういう意味の『慕う』か聞いても?」
「はい。とても素敵で素晴らしい方であると思っている、お人柄もご容姿も何もかも大変好ましいと感じ、ありていに言えば大好きである、なんなら
「……? それだと俺の知る『慕う』と、同じ意味に思えるんだが。なんにせよ、好きだと言ってくれるなら
「だからその『好き』じゃないんですって!!」
「なるほどわからん」
そりゃそうだ。
アリアは顔を両手で覆いたくなった。実際は身じろぎもできず固まっているに過ぎない。
「とにかく、殿下がお考えの『好き』と私の『好き』は似て非なるどころか、天と地、土くれと
「……いや、
得意の早口でまとめて話を切り上げようと
「先ほどまでは、王宮の
「そこはどうにか
「頑張……いや、あなたを諦めるために
(わあ、そのセリフとてもグッと来ますね、次作に使っていいですか?)
ではなく。
――確かに、憧れの人が使うセリフとして素晴らしいけれども。相手が自分だというのは、違う、断じてそうじゃない!
「今日のところは、あなたの
「は」
「そういうわけで、よろしく頼む」
ごく
ジークフリードは真顔で告げると、アリアに向かって一礼した。そして、「手間をとらせて申し訳なかった」と丁寧に断り、席を立つ。
軽やかに、コツコツと、
それにしても、なんだって? しばらくここに通って、口説かせてもらう……?
ここで「誰を?」なんて、
(はい? え、ま、待って、何)
――照れる、なんていう生やさしいものではない。
しばらく固まったあと、アリアは赤くなるより青くなった。むしろ、全身から血の気が総員で引き去った。
(とんでもないことになってしまった……!)
いと身分尊き
どうしよう。どうしてこんなことに。
改めて、アリアはテーブルに突っ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます