妹とともに婚約者に出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様
大舟
第1話
「お姉様、いつまでお兄様にまとわりつかれるつもりですか?もうそろそろ現実を見られてはいかがですか?」
「げ、現実…?」
非常に機嫌の悪そうな表情を浮かべながら、私の義理の妹であるスフィアはそう言葉を発する。
彼女は私の婚約者であるフリード伯爵様の妹で、伯爵様とは年が10歳も離れている。
だからか、伯爵様はスフィアの事を非常に溺愛しており、そんな伯爵様の思いにスフィア自身もよく気づいていた。
「お兄様が本当に愛しているのは私だけですよ?なのにいつまで最愛の妻面をしてここにいるわけですか?」
「そ、そんなことを言われても…。伯爵様は婚約するとき、確かに私の事を愛していると言ってくださったわけで…」
――それは、今から半年前の事――
「セレス、僕はもう君の事しか考えられないんだ。寝てもたっても君の事ばかり頭の中に浮かんでくる。それくらいに、君の事を想っているんだ」
「フリード様伯爵…」
「君は僕に突然こんなことを言われて、かなり驚いてしまっているかもしれない。しかし、もう僕には君と結ばれる以外の未来は想像することができない。セレス、ぜひとも僕の思いを受け止めてもらいたい。僕は必ず君の事を幸せにして見せる。ここに伯爵として誓おうじゃないか」
「わ、私なんかのためにどうしてそこまで…」
「貴族会でその姿を見た時から、僕はずっと君の事を愛していたんだ。もしも君の事を幸せにできなかったなら、僕はこの伯爵の立場を捨ててしまってもいい。それくらいにこの思いは本物なのだ」
「……」
――――
「(そんな伯爵様の言葉を信じて、私はその思いを受け止めることにした。だから、私たちの関係にスフィアから口を出される覚えはないのだけれど…)」
それが本来の形であるはずの事。
しかし、スフィアはどうしても私たちの関係を受け入れることができないでいる様子だった。
「お姉様は勘違いしているのではないですか?お兄様は決してお姉様の事が好きだから婚約をされたわけではないのですよ?」
「…それは、一体どういうこと?」
「だって普通に考えたらわかるでしょう?お兄様はこの世界で私の事を一番愛していると言ってくださったのですよ?それをお姉様はが上回れるはずがないじゃないじゃありませんか」
「……」
…話を聞くのもなんだかばかばかしくなってくる状況だけれど、どうやらスフィアはこの事を本心から言っている様子。
それくらいに私の存在が面白くないのだろう。
「私にそんなことを言われても、なんともならないのだけれど…」
「それじゃあ、お兄様に直接聞いてみますか?お兄様の素直な思いをそのまま一緒に聞いてみようじゃありませんか」
「私は別にそれでもいいけれど…」
彼女がいったい何を考えているのかよくわからないけれど、別に私にはそれを断る理由もない。
結局私はそのままスフィアからの誘いに乗る形で、そのまま伯爵様のもとに向かうこととなったのだった。
――――
「なるほど、そんな話が出ていたというのか。それはそれはなかなかに面白いな」
「ねぇお兄様、もう正直に言ってほしいのです。お姉様の事を心の中ではどう思っているのかを」
スフィアはまるで台本でもあるかのような口ぶりで、円滑な動きを見せつつ伯爵様の事を誘導していく。
私はその誘導の先に何があるのかをまだ理解していなかったけれど、その後伯爵様の発した言葉を聞いてすぐにそれを察する。
「そうかそうか、なんだかセレスにいらぬ勘違いをさせてしまったようだな」
「勘違い、ですか?」
「セレス、僕は別に君の事を愛してなんかいないのだよ」
伯爵様は何の気なしといった様子で、軽々とそう言葉を発する。
その言葉の持つ意味をどこまできちんと考えているのかわからないけれど、少なくとも私の気持ちは全く考えていないであろうことは確かだった。
「僕が愛しているのはスフィアだけに決まっているじゃないか。一体どう考えたら僕がセレスの事を愛しているという考えになるんだ?僕は貴族家の一員である伯爵なのだぞ?そんな崇高な心をそう簡単に手に入れられるはずなどないじゃないか」
嫌味たらしい口調でそう言葉を発する伯爵様の裏で、スフィアが心の底からのどや顔を浮かべてみせている。
…きっと彼女は、最初からこの光景を私に見せるべく動いていたのだろう。
「お姉様、だから言ったのに…。身勝手な欲望のままに痛い勘違いをしてしまうだなんて、恥ずかしいだけですよ?どこまで自意識過剰なのですか??」
「そうだな、まさかここまでセレスが自分の事を溺愛する人間だったとは…。なんだか見ているこちらまで恥ずかしくなってくるな…」
かつて自分が私にかけた言葉などどこへやら、完全にスフィアと結託してしまっている様子の伯爵様。
ここまでなら私の事を兄妹で一緒になってもてあそんでいるだけなのだろうかとも理解できたけれど、この後伯爵様の発した言葉を聞いて私はそれだけではとどまらない思いを知ることとなる。
「セレス、もう君との関係は冷めきってしまったようだ。婚約破棄をさせてもらうことにするよ」
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