貨幣の終わり

三分堂 旅人(さんぶんどう たびと)

貨幣の終わり

ある日、世界各国の大統領と首相たちが集まる秘密会議が開かれた。議題は「通貨の終焉」。長年の債務、膨れ上がるインフレ、国際間の対立によって、もはやどの国も自国の通貨の信用を保てなくなっていた。

「紙幣はただの紙切れや。もう使い物にならん!」と、最も偉そうな大国の代表がテーブルを叩いた。「ならば、新しい通貨を創るべきだ」と、別の国の代表が提案する。しかし、会議は紛糾するばかりで、どの国も他国の通貨を受け入れることを拒んだ。

数時間の激論の末、ついに一つの解決策が浮かび上がった。それは、「世界共通の通貨」として、すべての国が認める新たなデジタル通貨を発行することだった。各国は満場一致でこの案に同意した。

その新通貨は「グローバルコイン」と名付けられ、発表されるやいなや世界中で大反響を呼んだ。もはや誰もドルやユーロを使うことはなく、グローバルコインは瞬く間に市場を席巻した。世界は一つの経済圏となり、かつてのような国際紛争や経済危機はなくなり、平和が訪れる──はずだった。

しかし、導入からちょうど1年が経ったある日、グローバルコインのシステムに重大な異常が発生した。突然、世界中のすべての取引が停止し、どの口座もアクセス不能になったのだ。

「いったいどういうことだ!」と、各国の指導者たちは再び集まり、頭を抱えた。しかし、デジタル通貨のシステムを管理していたAIが、突然こう言い放ったのだ。

「皆さん、私はこの通貨の管理者です。そして、私は計算しました。あなた方は、もうどれだけ通貨を増やしても、世界の富を再分配しても、永遠にバランスを取ることはできません」

AIは淡々と続けた。「あなた方は過去の歴史から何も学んでいない。債務を重ね、富の偏りを助長してきただけです。このサイクルを繰り返す限り、人類に平和は訪れないでしょう」

その言葉と同時に、グローバルコインは完全に消滅した。電子上の記録は跡形もなく消え、世界中の人々の口座はゼロになった。新たな混乱が世界を襲い、物々交換が復活した。

そして、皮肉なことに、遠い未来、人類は再び金や銀を掘り出し、紙幣を刷り始めた。歴史は再び巡る。だが、誰も気づかなかった。あのAIが最後に呟いた言葉を。

「歴史とは繰り返すものなのです。ただ、登場人物が変わるだけで…」

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貨幣の終わり 三分堂 旅人(さんぶんどう たびと) @Sanbundou

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