イデラ物語−5
真倉マリス
第1話 天授
今日はテストが返ってくる日。僕の学校生活の中の一大イベントだ。今回のテストにも死力を尽くして臨んだ。手応えがよかったし、いい点数を期待できるだろう。
友達1「天堂すげえ〜。また満点じゃん。」
友達2「やっぱ学校1位は強いわ~。」
僕の連続満点記録はまだ続くことになった。
今回も無事に結果を出すことができた。努力するだけ結果が出る勉強はやっぱり楽しいものだ。
やがて授業が終わり、下校の時間となった。今日は少し早い帰りになったので、家に帰ったら七時間勉強するつもりだ。
そう思っていたが、ここで思いがけない障害が生じた。
不良1「おい、そこの眼鏡とまれよ。」
まずい、不良に目をつけられた。僕は家で勉強をするんだ。こんな奴らにかまっていられない。
僕は何も答えずに、早足でこの場から逃げようとした。
不良2「テメェどこ行くんだよ。」
もう一人に行く手を阻まれた。
不良1「俺は瀧川凪、有名な暴走族である
瀧川と名乗った男は、身長が推定180センチ以上ある大柄な人物だった。顔には深い堀があり、その上にはワックスで固められたオールバックの黒髪があった。それが学ランを羽織っているところを見ると、まさしくヤンキーといった出で立ちだった。
天堂「そ、それはすごいですねー。では、僕はここで。」
そう言って、そそくさとこの場を去ろうとした。
瀧川「待てよ。もちろんお前もその対象だ。」
終わった。
不良2「こんな雑魚一人、ボスが出る幕じゃありませんぜ。ここは、この鏑木にお任せください。」
瀧川「そうだな。お前がやっていいぞ。」
取り巻きのほうが近づいてきた。
彼も身長こそ高いものの、瀧川と比べると細っそりとしている。金髪のとんがった頭をしていて、狡猾なイメージを与える顔をしていた。
鏑木「お前みてえな雑魚は家でママのおっぱいしゃぶってればいいんだよ!」
そういって殴りかかってきた。
ああ、僕はボコボコにされるのか。
いや、僕は絶対に七時間勉強するんだ。ここでくたばってる場合じゃない。僕なりに抵抗するしかない。
そんなことを考えていたら鏑木の拳は寸前に迫っていた。ここから避けるのは不可能、ならば骨の硬いところで防ぐしかない。僕はとっさに腕を盾にした。
腕に響くような痛みを感じたが、それは相手よりはマシだったようだ。
鏑木「いってえ!」
鏑木にスキができた。今が反撃のチャンス、すかさず顔面に右ストレートをおみまいした。殴られてハッとした鏑木は、がむしゃらに腕を振ってきた。僕はその手首をつかみ、腕を捻り回した。その隙に相手の足首に自分の足を引っ掛けたら、鏑木は地面に倒れた。その上に座り込み、肩の関節を固めると、鏑木はたまらず声をあげた。
鏑木「痛い痛い!やめろ!俺は降参する!もうやめてくれ!」
ケンカとか何も知らないが、自分なりに考えたやり方が思ったよりうまくいき、自分でも驚いていた。
瀧川「何やってんだ鏑木!こんな奴にやられるとは情けない。そこを退け、俺がやる。」
今度はボスの瀧川の方が立ち向かってきた。
だが、先程の前座でなんとなくケンカの要領をつかめていた僕には、”いける”という感覚があった。
瀧川は一気に距離を詰めてきた。そのときの腕の振りから考えるに、狙いは僕の腹。ならば僕は素早く体を横に動かし、迎撃の準備をした。瀧川は攻撃を躱されてバランスを崩しかけたが、その勢いのまま今度は顔を目掛けて回し蹴りをしてきた。だが、それはスキが大きいモーション。左腕で足を受け止めたら、距離を詰めて股下に体を潜らせた後に、バッと体を起き上がらせた。空には、何をされたのかわかってないような、キョトンとした顔をした瀧川が浮いていた。
その後、少し遠くからこの様子を見ていた鏑木の上に、瀧川の巨体が落ちてきた。
脳内で色々なことを考えていたが、この一連の流れにかかった時間はわずか一分。僕は、実は喧嘩できちゃうんじゃないのと自惚れていた。
天堂「あなたたちから仕掛けてきた割には、大したことなかったですね。では、僕は家に帰らせていただきます。」
有頂天のまま、いかにも漫画の強キャラぶった口調で彼らを揶揄った。
自分で言うのもなんだが、いかにもガリ勉で貧弱そうな見た目のやつに完膚なきまでボコされるのはさぞ恥ずかしいんだろうな〜と、心の中でニヤニヤしていたら、瀧川が起き上がって何か言いたそうな顔をしていた。負け犬の遠吠えでも聞いてやろうと思っていたら、思いがけない言葉を口にした。
瀧川「な、なんて強い人なんだ...。俺たちのボスになってください!」
天堂「………え?」
気づけば瀧川は頭を地面につけていた。自身のボスが醜態を晒してるところを見て、鏑木も
「お願いします!」
と続いて頭を下げた。
天堂「えっ、あなたたち急にどうしたんですか。そんなに強く頭をぶちました?」
瀧川「違う!俺はあなたにケンカを教えて欲しいんだ!」
天堂「あなた、暴力団のボスなんでしょ、プライドはないんですか?」
瀧川「プライドは、先程あなたにボキボキにされました。」
確かに、自分からケンカを売ってあそこまでされたら、プライドなんて消え失せるよな。
天堂「でも、本当に大丈夫なんですか?さっきボスになって欲しいって言いましたよね、急にボスが変わったら事情を知らないお仲間さんがびっくりするんじゃないですか?」
瀧川「じ、実は俺たちはこの二人しかいないんです。」
僕は思わず目を見開いた。
天堂「え、さっきは有名な暴走族だって…。」
瀧川「それはちょっと見栄張ってただけで、本当は全然有名でもないし、なんならこのグループも昨日できたばっかりなんです...。」
ボロボロになったプライドが、さらに崩れていく音が聞こえた。
なんかめっちゃ可哀想だし、あそこまで言われて断るなんてことは僕にはできなかった。
天堂「もういいですよ、わかりましたから顔を上げてください。その...あれですよね?あなたたちのボスになればいいんですよね?」
瀧川「あ、ありがとうございますうう!」
まだやるとは言ってないのに、瀧川はまた頭を下げた。
ということで、僕は無名の暴走族、武羅怒捨苦のボスになった。僕の人生はこれからどうなっちまうんだ。
イデラ物語−5 真倉マリス @maguramalice
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