夢見る少年 その3

 ソージとユートが後ろを振り向くとタケルが背後にいた。

「タケル先生どうしてここに?」

ソージが愚問する。

「言っただろう俺は他人の夢の中に入り込み、その夢をあやつれるとな。」

「でも、ここが夢の中って本当なのか?」

「なら、ユート逆に質問しよう。この、どこまでも続く草原が夢ハウスにあるか?」

タケルの言葉はソージとユートを納得させた。

紛れもなく二人は夢の中にいて、それを操る能力を持つタケルがいる。


 夕ご飯までの間ユメはソージに接触する。

ソージはタケルの忠告を無視する形でユメと会話する。

そこまでソージはユメの事を大切な存在として見ているのだ。

「ユメ、本当に俺の事を不幸に陥れようとしているの?」

「何を言ってるのかしら?」

「そうだよな、人の夢を操って他人を不幸にするなんて出来っこないよな。」

「そうよ、タケル先生達兄さんとあたしの中を裂こうとしてるに違いないわ。」

「そうだな、ここは男子と女子が不純に交際したらいけないからな。」

「そうよ。」

ユメはソージに言い聞かせるかたちでこの場をやりすごした。

「ふん、バカな奴ね。あたしが本当にお前を不幸のどん底に陥れてるとは夢にも思ってないだろうな。」

ユメ心笑う。

そして心底おかしくてたまらなかったので思わずクスっと笑いが漏れてしまった。

「ふふ。」

「何がおかしいの?」

「え、あ…何も。」

ソージの質問に目を泳がせながらあたふたと体を揺らし両手を振りながらユメはその場をごまかす。

「まもなく夕ご飯の仕度が出来ますので食堂に速やかにお入り下さい。」

タイミングよく夕食のアナウンスが入りユメはソージを食堂へ誘導する。

「あ、ご飯だ。兄さん行こう。」

ニコっと作り笑顔をとりソージの手を引っ張る。

「そんなに慌てなくても。」

ソージはあまりにもユメがグイっと手を引っ張るからフラつき倒れそうになった。

「兄さん大丈夫?」

「うん、なんともない。それよりユメなんか君おかしいよ?」

「え、何が?」

「さっきから話を反らそうとしてる。やっぱり君は…。」

ソージが真相を言おうとしたときユメから恐怖の言葉が飛び出た。

「兄さんあたしを裏切るの?」

それは、以前に見せられた恐怖の夢だ。

ソージはそれを思い出しフラッシュバックする。

「うああ、ごめんユメ俺が悪かった。」

「それで良いのよ兄さん。」

絶対的な恐怖をソージに植え付けているユメ。

このキーワードを言えばソージは恐怖心でユメに逆らえなくなってしまうのだ。

まさに夢の洗脳である。

「さあ、行きましょう兄さん。」

食堂に向かう二人の背後からユートが走ってくる。

「どけ、飯だ飯だ。」

真っ先に食堂に入りたいユートはソージとユメの間をこじ開けて食堂に走り込む。

「よし、一番乗り。」

そんなユートに対しユメは少しムとし怒る。

「ちょっとあなた何を慌ててるの?」

「お、なんだやろうってんの?」

「お前はすぐにケンカで決着つけようとするな。」

ソージは立ち直りユメの味方をする。

「け。いけすかねぇな。何かあったらお前が邪魔をする。」

ユートは拳を納め自分の席に座る。

「ユメもあいつに関わらない方がいいよ?」

「うん。ありがとう兄さん。」

ユメはまた心の中でためらう。

「どうしてだ、こいつは何故洗脳を解いてる状態であたしを庇ったり助けてくれるんだ?」

ユメはどうしてもそこが理解できなかった。

ソージの優しさはユメを逆に精神的に追い込んでいるのだ。


 その頃、現実の世界ではユメが何か悪巧みをしていた。

これは現実であり夢ではない。

「あら、おもしろいタケル先生も夢操りの能力を持っていたなんて。」

「あなた、どこから?」

ジュンコはどこからとも現れたユメに動揺する。

「ふふ、夢を感知したから来たのよ。鍵は所長さんから貸してもらったの。」

「まさか、あなた所長も洗脳して手下にしているの?」

「正解よジュンコ先生。」

「何するつもり?」

「そうね、タケル先生には死んでもらわないと困るわね。」

「させるもんですか。」

 当然、腕力では不利なユメだが兵隊を予め用意していた。

安堂だ。

ユメは安堂までも兵隊にしていた。

「安堂先生、ジュンコ先生を押さえつけておいてね。

「御意。」

「く…。」

当然ながら腕力では安堂に刃向かえず押さえ込まれるジュンコ。

タケルは寝ていてこの事に気がつかない。

「タケル先生起きて。」

ジュンコは大声を出してタケルを起こそうとする目を覚まさない。

「じゃあ、グッドナイト。そして夢で会いましょう。」

安堂はジュンコにムリヤリ睡眠薬を飲ませた。

「く…。」


 ユメの夢の操作が始まる。

これは夢である現実ではない。

「ようこそあたしの夢の中に。」

「どういうことだ?」

タケルはユメとジュンコの登場に動揺して冷や汗を額に浮かべる。

「ユメ、君も夢の中にきて夢を操れるんだね?」

「バレてたのかな?」

ユメは一瞬焦りはしたが期を取り直して夢の操作を開始した。

だが、タケルも負けじと夢の操作をしようとした。

しかし、ユメの能力には一歩及ばず、ユメの方が勝この夢の世界はユメのものとなった。

「くそ、俺の方が劣ったか。」

「残念ねタケル先生。」

ユメは怪しく笑ったかと思うと、突然おなかを抱え大笑いする。

「あはは、無様で仕方ないわ。」

「ユメこんな事はもうやめるんだ。」

ソージが割って入る。

「兄さん、あたしの計画からは誰も逃げれないのよ。タケル先生が夢操りの能力持ってたことは誤算だったけど。」

「誤算だった?」

その時タケルがニヤリと笑う。

「何を笑ってるの?」

 ユメはタケルを睨み夢を操りタケルを洗脳しようとした瞬間にそれはもの凄く大きな音がカウンセリング室の中に鳴り響く。

ジリリリリンジリリリリン。

幾つかベッドの下に隠し入れてた目覚まし時計。

当然のごとくみんなはそのうるさい音に目を覚ます。


 これは現実である。

ソージ達は一斉に目をさました。

「ここはいったい。」

「今まで夢をみていたのか?」

ユートは疑問に思う。

「ち。」

ユメはタケルの策に負けて悔しそうにカウンセリング室を後にした。

「ソージ、お前は金輪際ユメに近づくな。これは忠告だ。」

タケルはサングラスを上に上げソージを睨み言う。

タケルの眼光に息をのみソージは頷く。

「はい。」

「それから、この事は施設の他の職員や児童には内密に。混乱を招く恐れがあるからね。」

ジュンコもソージとユートに忠告する。

 今回はこれで幕を閉じたがユメは黙ってはいない。

「タケルめ、あたしをはめるとは。このままでは済まさないわ。」

ユメはまた次の計画をねるのであった。

夕食後にユメはソージを裏庭に呼び出す。

「まずいよユメ、こんな時間に二人きりじゃ。」

「あら、怖いの?」

「怖くはないけど。」

ソージは近寄ってくるユメに対し両手で押し退ける。

「やっぱり兄さんはあたしが怖いのね。でも、安心してもう一人来るから。」

暫くするとユートがかったるそうに来た。

「なんだよユメ用事って?」

 その瞬間ユメはソージに抱きつきおもむろにキスをした。

それを見たユートはブチキレた。

「見せたいものってこれか?」

ユートはソージを殴り倒す。

ソージは何がどうなったのか理解出来ないでいた。

ファーストキスが憧れの女の子で、それをライバルの男に見られるシチュエーション。

ソージは戸惑う。

「どういうことだよユメ?」

ユメはクスっと笑いソージ達に背後を見せて嘘泣きしてユートに言う。

「兄さんがあたしにキスさせろってせまってきたの。だから、あたし怖くてキスをしたの。」

その言葉を聞いてユートは逆上する。

「貴様そう言うことが目的で今までユメと連んでいたんだな。許せねぇ。」

ユートは片思いの女の子の唇を無理矢理奪ったソージが許せなかった。

しかし、これはユメが描いたシナリオでソージは全く悪くない。

そんなユメに対しソージは助けを求める。

「ユメ何を言ってるの。冗談でしょ?」

「兄さん…信じてたのに兄さんのバカ。」

ユメはその場を走り去りながらクスクス笑っていた。

「ざまあみろ。男は単純でバカな生き物。わざわざ夢を操って不幸にするまでもないわ。」

そのころ、取り残されたソージとユートは大ゲンカに発展する。

「だから、ユメが俺をハメたんだって。」

「嘘つけ。」

「言っても聞かないなお前は。」

「信じれるかよ。」

お互いに一歩も譲らないケンカ。

ユメの手で踊らされた少年達。

しかし、ソージは突然手を止めた。

「ユート殴れよ。それで気が済むなら殺したっていいよ。」

「なんだよ急に?」

ユートはソージのその言動に手を止める。

「俺は死んでも誓うよ。これはユメの陰謀て事を。」

「そうかよ、なら死んどけ。」

ユートはとどめの一発をソージの顔面にたたき込む。

「………。」

ソージはビクともしない。

「どうしたよ、俺はまだ死んじゃいない。」

ソージは大声を張り上げる。

その迫力に押し負けたユートはソージの言ってることが本当だと思えてきた。

「もし、お前の言ってることが本当だとしても、俺はオメェを殴っちまった以上止めるわけはいかねぇんだよ。」

ユートは殴り続けた。

それをただサウンドバックのように受け止めるソージ。

三十分ぐらいたった頃ユメがまたここに戻ってきた。

「ユート君、大丈夫?」

ユメはソージじゃなくユートを心配する。

「あたし怖くなって逃げちゃってごめんね。」

「………。」

「どけ。」

ユートはユメを押し退ける。

「もう、観念しなよユメ。」

「お前の企みは分かってんだよ。」

「やっぱ、ユメは俺を不幸にしたかったんだな?」

しかし、ユメはしらを切る。

「兄さんが何を言ってるかわかんないよ?」

「しらを切っても無駄だぜ。」

そこへタケルが姿を現した。

「あら、タケル先生までいらしゃったんですか。」

部の悪いユメは切り札をだす。

「兄さん裏切るの?」

恐怖の言葉がソージをまた襲う。

「ユメ止めてくれ。」

それを見たタケルはソージとユートを連れて逃げ出す。

「ヤバい逃げるんだ。」

しかし、夢ハウス全体は既に監獄になっていた。

周りはユメの兵隊たちで溢れかえっていた。

何処へ逃げてもユメの兵隊ばかりで逃げ場を失ったソージ達は仕方なく夢ハウスの門を目指して走る。

途中途中で出くわす夢の兵隊を払いのけて突っ走る。

「もうすぐだ。」

タケルはヤクザ時代の時に培ったユメとの戦闘を活かして予めジュンコに車を用意してもらっていた。

ユメは兵隊達を門の前に集中させた。

この強固なまでのガードを突破するには二十人相手しなければならなかった。

「くそ、ここまで来て。」

ソージとユートは諦めていたがタケルは諦めないで秘策を立てていた。

「ばらまくぞこれを付けろ。」

タケルに言われるがままソージとユートはゴーグルをはめた。

そしてタケルはおもむろに催涙スプレーをまき散らした。

「ぐあ。」

当然兵隊たちは目が開けられなくなる。

「今のうちだ。車にのれ。」

「こっちよ。」

ジュンコが手招きをする。

タケルはまだ襲い来るユメの兵隊たちをなぎ倒しながらソージ達を車に乗せた。

二人が車に乗り込んだ事を確認しタケルも車に乗り込もうとしたが安堂に足を捕まれてしまう。

「く、安堂。」

足で安堂の手を振り払おうとしたが安堂は離さない。

「お前達だけでも逃げろ。」

「でも、タケル。」

「いいから行け。」

「く…。」

ジュンコは車を走らせた。

「絶望の方が勝ってしまったわ。」

ジュンコは悔しそうに言う。

「どう言うことです?」

ソージは聞く。

「タケルはねあなた達だけでも逃がすように言ってきたの。ユメちゃんは最早人類の敵なのよ。」

「人類の敵って大げさじゃないですか?」

「あの子は普通の人間じゃないわ。凄く強い能力を持って人を不幸のどん底に陥れて最後はその人を死に追い込むのよ。」

「じゃあ、俺は死んでてもおかしくはなかったって言うことですか?」

「そうよソージ君。そしてユート君も例外じゃないわ。」

「俺もすか?」

「うん。」

ジュンコは少し考え込む。

そして、二人にとても重大な事を言う。

「今日分かったことらしんだけど、あなた達二人のどっちかが夢耐性っていう唯一あの子に対抗出来る能力を持っているみたいなの。」

「え?」

ソージとユートは顔を見合わせる。

「それってユメと戦えるってことですか?」

「そうよ。タケルはその唯一の望みを人類に託してくれたのよ。」

ジュンコは続けた。

「そして、夢自由型っていう能力と夢共有ていう特別な能力者を探さなくてはいけないの。そうは言っても宛はないけどね。」

ソージは考え込む。

「俺、不思議なことあって実はよく他人の見た夢を自分も見てたってことあるんですけど。」

ジュンコはそれを聞いて頷きながら納得した様子で言う。

「灯台もと暮らしってこのことね。ビンゴよソージ君。タケルも薄々は気づいていたようだけど自信がないって言ってたけども。それがまさに夢共有の能力よ。」

そして、バックミラー越しにユートを見るジュンコ。

「必然的にユート君は夢耐性の保持者になるんだけど。」

ユートは自分が能力者という自覚はない。

「俺も不思議な点が一つあって一回も夢を見たことないんだよなぁ。今日初めて夢と言うものを見させられたっていうか。」

ジュンコはタケルの言ってたことと一致したためユートを夢耐性と認識した。

「これで二人そろったわけだけど。後は夢自由型の能力者が何処なのか分かりかねるわ。」


 その頃マイコは夢のトレーニングをしていた。

「ウチ、今度はソージさんとデートする夢みようかな。」

マイコは夢ハウスで起こっている地獄絵図を知らない。

そして、必要とされていることも全く知らないで夢自由型の能力を使って好きな夢を見るのである。


 一方でタケルは拷問されていた。

「あいつらは何処に向かったの?」

「誰が言うかよ?」

タケルはユメの顔に血混じりの唾をかけて断固としてユメに逆らう。

「貴様あたしの顔に唾をかけやがって。」

ユメは金属バットでタケルを何度も殴り付ける。

「ふん、人間じゃねぇのにプライドだけは一丁前だな。」

殴られながらも尚刃向かうタケル。

「あら、人間じゃないのはあなたでしょう?」

ユメは虫の息で地面に這いつくばるタケルに対し金属バットを頭に振り落とした。

それはとどめの一発となりタケルの意識を無くした。

 ジュンコは胸騒ぎを覚える。

「タケルが。」

その時ソージのケータイにメールが一通。

タイトルは無かったがユメからだった。


本文

「タケルは意識を無くし

 たわ。

 ジュンコによろ~。」


明らかにバカにした内容のメールにソージは怒りを通り越して涙を流し悲しむ。

「ユメ、君はどうしてしまったんだ?」

ソージの様子にジュンコは心配そうに聞く。

「ユメちゃんからのメール?」

「いいえ。」

ソージは嘘を付くもジュンコは心理カウンセラーであり、その様子からソージが嘘を付き何かを隠そうとしているのには気づいたがジュンコは聞こうとはしなかった。

いや、出来なかったと言うのが正しい。

恐怖心からである。

タケルの身に何かあったには違いないと分かっていたのもある。

「ソージ君辛いわね。私も辛いわ。ユメちゃんがあんな事になるなんてね。これからユメちゃんと戦うの。これ以上大切な人を失わないように。」

しかしソージは反論する。

「違う。戦うんじゃない。俺たちはユメを救ってやらないといけないんだ。ユメは暴走してしまっている。」

ソージはユメを戦って倒すのではなく、ユメを救う戦いを選ぶ。

「だから夢ハウスへ戻って下さい。」

「今はダメよ。」

そこへユートが口を挟む。

「ソージ、お前熱いやつだな。おれは今までガリ勉とだけしかお前の事見てなかったけど今は友情さえ感じるよ。でも、今戻ったて俺たちは何もできやぁしねぇ。ここは押さえてくれ。この通りだ。」

なんとユートがソージに頭を下げて頼み込むんだ。

ソージはそんなユートに理解を示す。

「ユートもういいよ頭を上げてくれ。ユメの事で熱くなりすぎて冷静さを失ってしまっていた。お前の言うとおり今戻ったて俺たちには勝ち目はないし、ユメを救ってやることなんてできはしない。」

ジュンコはその様子を見て言う。

「友情ってかけがいの無いものよ。壊さないでね。」

ジュンコの意味心な発言にソージ達はまた顔を見合わせる。

「ジュンコ先生は友達はいないんですか?」

「昔はいたわ。でも、私が裏切ったせいで破綻したの。ユメちゃんに味方したせいでね。」

それはジュンコの苦い思い出。

ジュンコもまたユメの被害者である。

「よかったら聞かせてもらえませんか?」

ソージは聞いてはいけないと分かっていてもユメ絡みの事だから知りたかったのだ。

「あれはねユメちゃんが夢ハウスに来た頃だった。あの時はユメちゃんが能力者なんておもってもみなかったわ。」

ジュンコの車はマイコの家にの前で急止まった。

「先生?」

ソージは息を飲む。

「ユメちゃんは悪魔よ。」

凄い形相でジュンコは後ろを振り向きソージに言った。

「ユメを救うですって、あんな悪魔を救うですって?」

「先生、どうしたんす?」

「私の友人の家の前よ。謝らなきゃ。」

ジュンコは車から降りその家のインターホンを鳴らしまくる。

「先生迷惑ですって。」

ソージとユートは止めようにもジュンコは凄い力で二人を振り払う。

そのうち二そこの住人がでてくる。

「なんだねこんな夜に。」

一家総出でで怒りながら出てくる。

「あ、ソージさん達じゃないですか?」

マイコはソージに気付く。

「あれ、マイコちゃんの家だったの?」

「うん、ウチに会いに来てくれたの?」

「それが…。」

いきさつをソージは説明する。

「そうだったんですか。」

ジュンコはマイコの母親に謝る。

「ごめんねトモコ。」

「良いのよ悪いのはあの子だし。」

「上がっていくかね?」

マイコの父親が家に上がらせてくれた。

話はここで付けることとなった

あの時ユメちゃんの能力に気が付いていらばこんな事にならなかったのに。」

「うんうん、もういいよ。それより急にどうして押し掛けてきたの?」

「実ね…。」

ジュンコは今の夢ハウスの状況と、ユメと戦う事をトモコに離す。

「ついに人類の敵と戦うのね?」

「そうよ。」

 完全にユメは人類の敵になってしまった。

「人類の敵ってなんですか。ユメを化け物みたいに言って。」

ソージはユメを悪く言われ憤慨し強く机を叩き立ち上がる。

「落ち着けよソージ。」

「ユートお前はユメの事どう思っているんだ?」

「俺もユメは人類の敵だと思う。現にお前をはじめ他の多くの人を不幸にして殺しているんだろ?」

「それはそうだけど…。」

「ウチも思うんです。ユメは普通じゃないって。」

マイコも割って入る。

「マイコちゃんまで。どうしてユメとは親友じゃないのか?」

「最近まではそう思っていました。でも、この前学校でユメは私に本気で殺意を向けたんです。」

マイコは体をブルブル震わしながら頭を抱える。

そして涙も流していた。

「マイコちゃん。」

トモコはマイコ肩にソっと手をやり慰める。

「マイコまでもがあの悪魔に。」

「ソージ君これでわかったわよね。ユメは人間じゃないのよ。」

ジュンコの形相は鬼のようにこわばっている。

 マイコの父親のアツシが暖かいココアをみんなに振る舞う。

「みんな肩に力が入りすぎているね。これでも飲んで落ち着きなさい。」

「ありがとうございます。」

 ソージたちはココアを一口飲み一息付いた。

「夜も遅い事だし今日は泊まっていくといい。」

「本当にここまでしてもらってありがとうございます。」

ジュンコは深々と頭を下げる。

 

 その深夜一時を回った頃ソージたちの部屋の壁の向こうからなまやしげな吐息が聞こえてきた。

「はあはあ…ソージさん…。」

 自分の名前を呼ぶ声に思わず返事をしてしまうソージ。

「どうしたのマイコちゃん?」

「あ、その…こっちへ来て下さい。お話があります。」

ソージは言われるがままにマイコの部屋に行く。

「ソージさん、ウチこの日をどんなけ待ち望んだか。」

ソージが行ってみるとマイコは全裸でいた。

「マイコちゃん?」

「何も言わずにウチを抱いて下さい。ウチの欲求不満を解消させて下さい。」

「え?ちょっと。」

戸惑うソージにマイコは抱きつく。

「ウチ、前からソージさんのこと好きだったんです。ソージさんにはユメがいるから遠慮してて…。でもでもユメが人類の敵だって分かったから今なら言えるし、それに抱いてもらえばユメにも一歩リードできるから。」

しかし、ソージはそれを拒否した。

「ごめんマイコちゃん。気持ちはわかる。でも、こんなかたちでエッチしても僕は嬉しくない。」

マイコはその場に腰を落とし泣き崩れる。

「そんな、ウチ好きな人に裸でアタックしたのにフラれるなんて。ウチどうしたらいいの?」

「キス…だけならいいよ。」

 ソージはマイコの顎を軽く持ち上げキスをする。

マイコは嬉しさと切なさで涙を更に流していた。

 その様子をソっと覗いていたユートは怒りがこみ上げてきたが拳を握り締め、ソージに静かな怒りを抱く。

「なんであいつは幸せを掴んではそれを自ら捨てるんだ?」

ユートは心でソージを殴っていたそして静かに部屋に戻っていく。

「僕は寝るよ。おやすみマイコちゃん。」 

「おやすみなさいソージさん。」

そのままソージは泊まらしてもらっている寝室に戻り布団にくるまり恐怖に脅えていた。

「くそ、なんで僕はこんなに怯えてんだ?」

その声はユートの耳に入る。

「お前女の子が怖いのか?」

「ユート起きてたのか。」

「見ちまったよ全部。」

「……。」

沈黙が一分間続いた後ソージが口を開く。

「ユメだ。ユメが僕を女性恐怖症にしたのかもしれない。」

「それもあるかもな。」

 ソージとユートはそれぞれ考え込む。

先に口を開いたのはユート。

「やっぱお前さユメのことが好きで仕方ないんだろう?」

「ああ。」

「今から夢ハウスに戻れよ。」

「は?」

「ユメをどうにかしてみせろよ。」

ユートはソージが邪魔になってきたのである。

「そうするしかないようだな。」

ソージはマイコの家を飛び出して急いで夢ハウスに向かう。

「待ってろユメ絶対にお前を救ってやるからな。」


 翌日になってジュンコはユートを叱っていた。

「なんでソージ君を夢ハウスに戻るように仕向けたの?」

「ソージなんて死ねばいいって思った。」

「なんでよ?」

「あいつは俺にとって邪魔だし、それに幸せを自らドブに捨てちまうやつなんだ。」

ジュンコがユートの頬を叩こうとした瞬間にマイコがユートの頬を叩いていた。

「ウチはあなたがいなくなればいいって思う。」

「どうしてだ昨日の夜…。」

「昨日の夜のことはソージさんウチを思ってのことだと思う。」

マイコは涙を流してユートの胸を何回も拳を握り締め叩く。

「ウチ、あなたみたいな人大嫌い。」

「ごめん、そこまでソージのことが好きだって思わなかった。」

「謝ったて許さない。ウチがあなたを殺してやる。」

マイコはキッチンの包丁を持ち出しユートに向ける。

「やめなさい。」

とっさにトモコがマイコを押さえつけ包丁を奪い取った。

「マイコそんな事するのはあの悪魔だけで十分よ。」

ユメのことを言うトモコに対しアツシが言い返す。

「悪魔か。マイコも十分悪魔じゃないか。男を誘惑するなんてな?」

「パパ…それはあの…。」

マイコはこれからおこる事に怯える。

「こっちに来なさいお仕置きが必要だ。母さんその人たちを帰しなさい。」

「ええ。そういうことでジュンコ悪魔退治頑張ってね。」

「え?ちょっと…。」

ジュンコとユートは追い出されるかのように外へ出された。


 その頃マイコは地下室でお仕置きをされていた。

「父さんは悲しいぞお前が男をたぶらかすようになって。」

「許してくださいお父様。」

「いいや許しがたいな。母さんアレを。」

「用意しています。」

トモコはムチををアツシに手渡す。

ピシっとムチを打つ音が地下室に響きわたる。

「痛い。」

マイコの苦痛の悲鳴が地下室に響きわたる。

「この頃は成績もあまり良くなかったな?」

 ピシっとまた音がなる。

ムチで地面を叩いた音である。

「あなたこれでは反省しないのでは?」

「恐怖を与えるのは一回ムチ打つだけでいい。後はじっくりとプレッシャーを与えるだけだ。」

「やめて下さいお父様。」

マイコは思わず恐怖で失禁してしまった。

「おや、いけない子だね。」

「ピシ。」

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

 マイコの恐怖はピークを迎えた。

ガクガクと足が震え立てなくなった。

ソージは夢ハウスの前で迷っていた。

今入ってもユメを止める自信がないのだ。

ソージが迷っていると一台の車がとまった。

「ソージ君仲には入らなかったみたいね。」

「ジュンコ先生。」

「車に乗りなさい。話はそれからよ。」

「でも、僕はユメを救ってやらなければいけないし。」

「いいから乗って。」

ジュンコは無理矢理ソージを車に押し込む。

「ごめん俺、お前を死なそうとしてた。」

ユートは自分の思いをソージにぶつける。

「ソージは良い身分って思って…それが許せなかったんだ。」

「ユート、僕は良い身分じゃない。それに僕は小さい頃から人一倍頑張ってきたつもりだし。その報いが今自分を幸せにしてるんだと思う。」

「そうよユート君。人は努力した分だけ幸せになれるものなのよ。」

「……。」

ユートは窓ガラスごしに外をみて静かに口を開く。

「俺も今から何かを努力すれば幸せになれるだだろうか?」

「なれるよきっと。」

ソージはユートの肩をポンと叩く。


「努力しても認められない。幸せになれない。なんでウチこんな家に生まれてきんだろう?」

マイコは一人苦悩していた。

そしてまた自慰をして鬱憤を晴らす。

「ソージさん…助けて…。」


 ユメは怒りに燃えていた。

「ソージや幸せな人間なんていなくなれば私も幸せになれるはず。なのにどうしてソージは私が不幸にしようとしても幸せな方向に進んでいくの?許せない。」

ユメは拘束しているタケルを蹴りあげる。

「お前こんな事してただですむと思うなよ?」

「うるさい犬が。」

ユメはタケルを何回も蹴りとす。


 何が幸せで何が不幸なのか少年少女はそれぞれ心の奥底で悩んでいた。

幸せを奪われようとしているソージ。

他人の幸せが許せないユメ。

幸せとは何かと模索するユート。

努力しても幸せになれないマイコ。


 車は三丁目の公園に来たときソージがマイコを見かけて車を止めるようにジュンコに頼む。

「マイコちゃん一人なの?」

ソージが後ろから声をかける。

「ソージさん会いたかった。」

ソージの胸で泣きじゃくるマイコ。

「どうしたの?」

「ウチ、もうあの家に帰りたくない。」

マイコは小さい頃からの父からの虐待を告白する。

「辛かったわね。」

ジュンコが優しマイコを抱き寄せる。

「温かい。」

マイコは初めて自分の苦しみを理解してくれた人に感激する。

「僕たちと一緒に来るといいよ。」

ソージはマイコも同行させようとしたが、マイコは怯えていた。

「でも、帰らないとまたパパに…。」

「大丈夫、私が何とかするから心配しないで。」

ジュンコはトモコに電話をかける。

「あら、ジュンコどうしたの?」

「マイコちゃんからきいたわよ。」

「あらそうなの。別に私たちは虐待なんかしてないわ。ただの教育よ?」

「行きすぎた教育は虐待になるのよ?」

「ふん、あんな娘なんてはじめっからいらなっかったのよ。」

トモコは遂に自白した。

「なんてひどい…。」

電話は一方的に切られた。

「マイコちゃん、今から言うことは大変ショッキングだとは思うけど聞いてね。」

「はい。」

マイコは息を飲む。

「たった今トモコは育児放棄をしたわ。」

「……。」

マイコは泣くどころか気持ちが晴れ晴れとした。

「よっかたウチあのまま家にいるかと思うと自殺しそうだった。」

「マイコちゃん私たちは今から田舎に行くの一時的にあなたを保護するわ。」

「はい。」

今まで背負ってきた重荷が取れたのと、ソージと一緒の家に住めるという期待でマイコは心底嬉しかった。

東京から離れ地方の田舎に向かう路中でジュンコは夢自由型の能力について語った。

「夢自由型は自分の思った夢を自由に見れる能力者のことなの。」

「それウチに似てます。ウチ自分で好きな夢を自由に見れることができるんです。」

探していた能力者がすぐ近くにいたことをにソージ達は驚く。

「マイコちゃん俺のこと許してくれるかな?」

ユートは今朝のことを本当に悪いと思っていた。

「ウチ、素直に謝れる人嫌いじゃないですよ。」

「じゃあ?」

「はい、許してあげます。」

「ありがとう。」

ユートはバックミラーごしに頭を下げる。

「とにかくこれで能力者が揃ったわね。田舎に着いたら互いの能力をうまく使えるようにトレーニングをするのよ。」

「はい。」

ソージたち三人は強い意気込みで返事をする。


 田舎にソージ達が着いた頃そこでそこで待っていたのは寺の住職であった。

「待っていたよジュンコ。」

「お父さんただいま。」

「その子達が能力者かね?」

「うん。」

住職はソージ達に頭を下げる。

ソージ達も頭をさげ挨拶を交わす。

「はじめまして私はジュンコの父であるセンサイです。これからみっちりとあなた方を修行させますね。」

センサイには笑顔の向こうにみえる厳しさがあった。


 その晩から修行が始まった。

まずは各々の能力を高めることだった。

ソージは夢共有の能力。

ユートは夢耐性の能力。

マイコは夢自由型の能力。

それぞれユメとの戦闘にそなえ強化する。

 

 一方でユメはイライラが止まらない。

ソージをなくした今不幸にするターゲットがいないのだ。

「くそ、イライラする。」

憂さ晴らしと言えばタケルに暴行を加えること。

「ふん、調子に乗っていられるのも今のうちだ。」

タケルは暴行を加えられながらも抵抗し続けた。

「そうだお前を犬にすればいいんだ。」

ユメは怪しい事を企む。


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