一時的に酒は憂いの玉箒

「なんて可愛いんだ。」


彼は新しい服を買った。

どうやら古着屋で一目惚れしたそうである。

常に金のない彼にとっては痛い出費ではあったが本人も満足そうである。


そして今日は友人たちとの飲み会。お気に入りとなったニットを身にまとい数少ない大学の友人との飲み会はいつにも増して楽しみなものであった。


店に着き友人と合流するやいなや友人達に服を褒められ、ご満悦となった上にそこの酒が美味いのなんの。完全に枷の外れた彼は家に着くまでその熱が絶えることはなかった。


そう。家に着くまでは。


すっかり酩酊した彼はもう着替えて寝てしまおうと服に手をかけた。

そこで気づく。


「ニットどこやった?」


家を出た時には絶対に着用していたニットがない。意味のわからない状況に彼の酔いはすっかり覚め居酒屋での行動を思い出した。


「あ」


彼は熱冷めやらぬ中、暑さでニットを脱いだことを完全に忘れ、挙句それを置いたまま店をハシゴし帰宅したのだった。



こうして、彼の「銭失い」リストにまたひとつ名が刻まれることになった。

得台の絶望を添えて。


(電話しても見つかりませんでした誰か見つけてください。ほんとに)

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自炊の夢、コンビニの現実 灰塵 @SooS

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