一番イケていた高校時代にタイムリープ出来たので最悪の未来を変えようとしたら、なぜかアニメオタクになっていた件

田中ケケ

第1話 こうして俺はオタクになった

 俺の妻は、超優秀なキャリアウーマンだ。

 営業成績は常にトップで何度も表彰され、同僚や後輩だけでなく先輩たちからも尊敬されている。


 対して俺の営業成績は平々凡々。

 最下位ってわけでもないが、妻とは雲泥の差。

 そのためよく妻と比較される。


「なんでさくらさんは、あんなの選んだんだろうねぇ」

「男を見る目だけはなかったんだよ」

「全然つり合ってないよねぇ」


 陰口ばかりで、本当にうんざりだ。

 俺が、お前らに何をした?


 桜とは高校時代に出会って付き合い始め、大学を卒業するタイミングで結婚した。

 就職した会社も一緒で、最初の頃はラブラブバカップルなんてチヤホヤされていたのに。


 今じゃ会社に俺たち――俺の居場所はない。


 あ、もちろん家にも。


 桜と最後に会話をしたのは、いつだっただろうか。

 思い出せないくらい、桜との関係は冷え切っている。


 ああ、俺の人生、どうしてこうなったかなぁ……と、その瞬間横から強烈な光に照らされる。

 気がつけば、俺は赤信号の横断歩道の真ん中にいた。


 もう、いいか。


 俺は命を簡単に諦めていた。

 目を丸くしているトラックのおっちゃん、すまねぇ。


 俺は目を閉じ、衝撃と、死への安らぎを受け入れようとする。これで辛い人生ともおさらば――――――あれ?


 なにも、ない?


 おかしいと思い、ゆっくりと目を開ける。

 すると、そこに広がっていたのは。


「え?」


 俺の母校の制服を着た高校生たちが歩いている。

 しかも、どの顔もうっすらと見覚えがある。

 はっきりと見覚えがある奴もいる。


 俺は学生たちが行き交う廊下の真ん中に立っていた。

 しかも、俺自身も学ランを着ている。


「もしかして、これってタイムリープ? 夢?」


 しかも、俺が一番イケていた、高校時代に戻っている。

 頬をつねると痛い。

 いや、前から思ってたんだが、頬をつねって痛かったら現実って、意味わかんないだろ。


 そんなツッコミをしつつも、脳が熱くなるのを感じる。

 夢だろうがタイムリープだろうが、この際どうでもいい。

 どんなにあり得なかろうが、実際に起きたのだから現実と考えて行動するべき。

 人生をやり直すチャンスだ!

 未来の俺が不幸にならないため、俺が今すべきこと。


 ……それは。


春人はるとくん。おはよう」


 後ろから声をかけてきたのは、高校生の桜だった。

 ちょっと前まで地味子だったのを、俺のアドバイスで髪型をボブにして、メガネをコンタクトに……等、本人の同意のもと変身を遂げ、今じゃ誰もが羨む美人になった。

 もちろん俺が強制したわけではなく、桜自身が変わりたいと言ったからアドバイスを送った。


「なんで選んだのがあんなのなんだよ」


 桜と付き合うことをからかってきたいつメンたちも、今じゃ俺の見る目を崇拝している。

 ただし、俺が桜を好きになったのは容姿じゃなく、おばあちゃんの荷物を持って横断歩道を渡るような優しさと、その大きなおっぱ…………好きになった理由なんて、今はどうでもいいか。


 未来を変えるため、俺にはやらなければいけないことがある。


「あれ、もしもーし、春人くん?」

「あ、ああ、おはよう、桜」


 それは、こと。


 このまま付き合い続けた先に待っているのは、真っ暗な未来だ。

 だったら、早いこと桜と別れた方がいい。

 あんな未来が待っているのだから、桜にとってもその方がいいはず。

 今の桜なら、もっといい人と付き合えるだろう。


 でも、どうやって別れようか。

 突然、理由なく振ったんじゃ桜を傷つけるしなぁ。

 別れるのは百パーセント俺のせいで、桜のせいではないんだから…………そうだ!


「なぁ、桜。今週末、俺の家に来ないか? ちょうど親もいないし」


 アニメオタクのフリをして、俺が嫌われればいいんだ!


 アニメオタクは女子が嫌いな生物第一位って、常識だしね。

 それに桜は優しいから、俺が実はアニメオタクだったという秘密(まあ嘘ですが)をみんなに漏らすこともない。


「えっ! いい家って、春人くんの家に?」


 目を白黒させた後、きょろきょろと周囲を見渡す桜。


 いやいや、何をそんなに動揺してんだよ。

 俺たち、結婚して一緒に住んでたんだぞ?


「ああ、だめか?」

「い、いいいいけど、その、えっと、初めてだから、緊張するなぁって」


 頬を赤らめている桜は、なぜか急に背中を丸め、


「可愛いの買わなきゃ」


 とつぶやく。


 いやいや、どういう心境?

 可愛いの買うって、どういうこと?

 ってかそんな緊張するようなことでもないだろ。


 そして、俺は授業中により深く考える。

 俺がアニメオタクだという事実に説得力を持たせるためには、具体的なエピソードを持っていた方がいいだろう。

 クラスのオタクが話題にしていた、ちょっとエッチな魔法少女アニメくらいは見て、勉強していた方がいいな。


 そして、俺はその日の夜、クラスのオタクたちが話題にしていたアニメ『魔法少女は脅されたい!』を一気見して。



 ――――完全にオタクの沼にハマった。


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