明日に追いつけなかった僕たちは
紙白
100km/hの祈り
私はとても急いでいる。
高速道路に入って何時間たっただろうか。もはや時計を見る余裕すらない。私はひたすらアクセルを踏み込む。速度表示のメーターがあっという間に時速100kmを超えた。とにかく、とにかく間に合わなければいけないのだ。急カーブが近づきやむを得ず減速する。今の私には一瞬でもブレーキを踏むことが惜しくてたまらない。もっと速く、焦燥感は苛立ちに、そのうち祈りへ、目まぐるしく姿を変えていく。
「間に合わないと」「頼むから」
心の声が、勝手に口からこぼれ落ちた。前方にも後方にも対向車線にも一台たりと走っている車はいない。中央分離帯に並ぶ無機質な灯りは、世界に取り残されたような気持ちになり不安と焦燥を更に煽る。不安を振り払おうとアクセルを踏む足に力がこもる。急げ、急げ、急げ。
突然助手席に置いていた携帯が明るくなり、着信音が鳴り出した。携帯を手に取ると画面もよく見ずスピーカーにして電話を取る。電話の向こうの相手は知らない声だった。こんな時に一体誰なんだ。「こちら、〇〇様の携帯でお間違えないでしょうか。」感情のこもっていない定型文を話す相手に少し苛立つ。「はい、そうですけど。今急いでるんで手短にお願いします。」ぶっきらぼうにそう言い放つと電話の相手はおずおずとした口調で、
「××××××」
……ん、今なんて言った?音は聞こえているのに言葉として処理できない。『嫌な予感』が全身を駆け巡り血の気がどんどん引いていくのが分かる。心拍数は急激に速くなり、どっと汗が噴き出す。
「え、何ですって?」
震える声で聞き返す。
「ですから、間に合わなかったんです。」
私は、いつのまにか電話を切っていた。強ばっていた体から一気に力が抜け、間に合わなかった、という事実がゆっくりと私の中に沈殿する。ああ、そうか。喉の奥から漏れた掠れた笑いが車内を浮遊する。目の前にカーブが迫ってきた。今度は躊躇せずにアクセルを踏み込む。タイヤが悲鳴のような音を立てて回転しだした。このまま行けるところまで行こう。
私はシートにもたれ、ぼんやりと目の前を眺めた。もう、目の前に道はない。私の人生終わったのだ。
明日に追いつけなかった僕たちは 紙白 @aporo_314
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