第62話 出航







  さあ、地獄のウォークラリーの開幕だ!


 手段は選ばずにビリを回避し、なるべく楽して完走したいところだが、早速ウキタ君が湖を泳いで渡ろうとしたので全力で止めた。


 ああ、俺たちも彼を追って泳いでいかなければいけないだけでなく、ずぶ濡れでゴールしてもすぐにシャワーを浴びれる保証なんてどこにもないんだ。


 例えウキタ君のように強靭な肉体であっても、八丈島から泳いで参ったらしいから既に、かなりの体力を消耗しているはずだ。


 一方のマツダイラ君は、ウキタ君に合わせて泳げる馬を探しに行こうとしたが、そんなことをしているうちに日が暮れてしまうので、全力で止めた。


 不満げに、それでいて迫力満点な睨みを利かせる2人に対し、俺は代案を出すことにしたのだ。


 候補の1つに挙がったのは、湖を走る遊覧船ならば、楽できるだろうと思ったものの、ゴール地点からズレてしまうことと、既に出航してしまったあとのようなので、急ぐ我々は次の方法を考えた。


 ああ、それならばスワンボート乗り場に急ぐまでだ。


 もちろんひたすら楽をしたい俺たちは、足漕ぎタイプではなく、船舶免許不要の二馬力ボートをチョイスし、歩くよりも速い速度で湖を突っ切る完璧なプランだ。


 さて、全員乗り込んだな?


 それじゃあ出港! 離岸! 微速前進(全力)!


 こうして最高の船出でいい気分の俺たちは、なにかしらのトラブルでもない限り問題ない……なんて、楽観視していたのも束の間。


 ああ、盛大なフラグだったよ……俺たちの動きは既に読まれ、対策されていた。


 沿岸部に沿って移動すれば、間違いなく見つかると思って沖合を突っ切るルートを選んだのだが、そこには一隻の漁船が待機していた。


 甲板上には、ちょっと変人だけど渋い男が1人……ああ、うちの学校の教職員が乗り込んでおり、釣り竿片手に俺たちを待ち構えていた。


 俺たちの乗るスワンボートを見つけるなり、声をかけてきたので観念した俺たちは、その声の方向へむかって行けば、甲板上で仁王立ちするガチ装備のキタバ先生が、優雅に釣りを満喫しているご様子。


「君たち、今日は最高の釣り日和だ。僕はね、ここで待っていれば大物が釣れると思ってね」


 端から見れば、普通に船釣りを楽しんでいるおっさんにしか見えなかったから油断した。


 自由気ままなキタバ先生も新人オリエンテーションに参加していたのかよ。


 どう見ても早朝から現地入りして釣りを楽しんでいるようにしか見えないし、ただの職権乱用としか思えないな。


 とりあえず今日の釣果でも聞いておこう。


「そうだね、抜け道を使おうとする生徒4人が釣れた。大漁だ、君たちはスタート地点に戻れ。既に本部には報告済みだから大人しく従った方がいいぞ?」


 ああ、完璧な計画だったと思ったのに、最初からやりなおしかよ! クソッタレ!


 とりあえずバレてしまった以上は、沖合を進む必要もなくなったので、わかりやすいルートである沿岸部をなぞるようにして戻ることにした。


 その途中、同級生たちに声をかけられたり、手を降ってきたりと一躍人気者になったが、おかげでまた反省文が確定したよ!


 ま、ルール上、スワンボートを使うなとは、一言も言われていないし、書かれてもいないので、領収証だけは貰って提出しておくとして、引き返してから次の方法はどうしようか?


 ちなみにウィラ、ナギ姐、カズサさん、ヒナコ、ジェニファーの5人は、セグウェイを使って目的地を目指そうとしたものの、公道走行が認められていないために頓挫したらしい。


 おまけに先生たちに見つかり、大幅なタイムロスと共にスタート地点へと戻されたらしく、スワンボートを返却したあとに桟橋から戻った俺たちと再会。


 熾烈な最下位争いは、果たしてどうなるのだろうね?————。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る