第16話 呉
◇
ネクストバッターズサークルを間違え、自ら笑いのツボにハマってしまったナギ姐により、試合は一時中断。
まだ1回の裏だぜ?
気を利かせてくれたノリノリな放送部、兄貴の謎すぎるリクエストによって流れた、『America F*** Yeah』の曲に乗せてFワードを連呼し、叫び盛り上がったことで立ち直ったナギ姐は、ようやくバッターボックスに立てる状態まで回復。
前前世よりもイカれた東方共栄学園の生徒主導で、カオスなバナナボールはプレイ再開だ。
もちろん、コールするのは……。
「「「「「カバディ! カバディ! カバディ!」」」」」
違う違う、そうじゃない。
カバディ部の皆様、始める競技が違うぜ?
「「「「「チェストォォオオ!!」」」」」
薩摩示現流、薬丸自顕流とも違うんだ。
そしてハカ研究会の皆様、ラグビー部の昼練はないからね?
誰でもいいからさ、プレイボールとコールしてくれ!
『……えー、ツボに入ってたコウサカ選手により、試合は中断していましたが、無事に復帰しましたので、バナナボールの試合再開をお知らせします。それでは、プレイボール!』
ああ、放送部、グッジョブだ。
俺たちの後ろで観戦、応援してくれる奴らだが、奇声ばかりを発して、誰一人としてバナナボールの進行に寄与しないんだ。
さ、試合再開ということでバッターボックスに立ったナギ姐は、マウンド上に設置したトランポリンで跳ね続けるピッチャーに向かって、真正面向いて長いバットを構えた。
長さ1メートルぐらいあるマスコットバットを、まるで日本刀の上段構えを彷彿とさせる。
漢字一文字で表すと『呉』、ピッチャーに向かって正対するさながら剣豪……いや、どうやって打つんだよ!?
この『呉』が、長さ1メートルのバットを横薙ぎに振るとどうなるんだ!?
マウンドの方を見てみろよ?
さっきまで元気よくトランポリン上で宙返りをしていたピッチャーは、ナギ姐の構えを見てから驚きのあまりに硬直し、そのまま地面へと落下していった……っておい!
「「「「「「Meeeediiiiic!!!!?」(衛生兵!!!?)」」」」」
思わず前前世、前世のような叫び声をあげた俺たちは、一斉にベンチを飛び出し、バナナボール部員と共にマウンドへと駆け寄った。
幸い大事に至らなかったものの、トランポリン君は念の為保健室へと搬送されたことにより、またしても試合中断。
その後、当然のようにトランポリンは撤去されてから試合再開……いや、試合再開するんかい!?
当然のようにバナナボール部のピッチャー交代、次はマウンド上に5人……いや、多いから!
誰が投げるかわからない、さながら分身の術よろしくダンスを披露する5人のピッチャーは、ようやく投球モーションに入った。
そのうちの誰かが投じた1球は、どうやって打つのかわからない『呉』の字と化したナギ姐が、あまりにも長すぎるバットを初球から思い切りよく振った————。
◇
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