第26話 ティータイム
待ちに待ったティータイム。ヴィクトリアはこの日を心待ちにしていた。イヴリンが王都に戻ってきてくれたので頻繁に会える様にはなったけれど、気が付くと領地に行ってしまってなかなか帰ってこない。伯爵になったのだから当然ではあるけれど、今まで通りあちらの名代に任せておけばいいのに、とも思う。まあ、イヴリンの性格上それができないことも良く分かっていて、自分でできることは何でもやっちゃう子だから。
イヴリンは新しい助手のセシル・マクニースを引き連れて城にやってきた。助手は流石にいいドレスを着せてもらってるが、イヴリンは例によって地味なドレス。存在感が負けてないのは流石だが、ヴィクトリアとしてはもっと着飾って欲しい。本気を出したイヴリンはもっと美人なのに、自分に対してもなかなか本当の彼女を見せてくれないのはちょっとした不満だった。
王妃の待つ部屋に二人を案内すると、セシルはもう固まってしまって喋るのもままならない様子。さてはイヴリン、王妃が一緒であることを助手ちゃんに言ってなかったな、と直ぐに察する。
「はいはい、座って、座って。いつもは私がイヴリンの隣だけど、今日は助手ちゃんに譲ってあげる」
「あ、有り難うございます」
「フフフ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ、セシル。さあ、せっかく女性だけが揃ったのだから、楽しみましょう」
「そうそう、伯母様は全然怖くないんだから」
王妃はヴィクトリアの遠縁に当たる女性で、彼女が王妃になってからもよくティータイムに誘ってもらっていた。イヴリンの母親、イサベル・エガートンは地方出身の貴族令嬢で皇太子妃時代の王妃の世話役だった女性。よく四人でこうしてティータイムを楽しんでいた。
「伯爵にまでなったイヴリンの姿を見れば、イサベルも喜んだでしょうね」
「墓前で報告して参りました。あの墓地があったからこそ、今こうして伯爵でいられるんです」
「イヴリンのことだから、最初からその辺りも計算済みだったんじゃないの? 辺境伯領に嫁ぐって聞いた時は流石にびっくりしたなあ。あなたの叔父さんも、どこからそんな縁談話を持ってきたんだか」
そう言うと王妃とイヴリンは顔を見合わせて楽しそうに笑っていた。あ、この二人、何か隠してる! と直感する。
「あー、なんか隠してるでしょ!」
「あの縁談は私が仕組んだものよ。イサベルたちが亡くなった直後からゴドフリーが縁談話を探していると聞いていたし、イヴリンから頼まれたのです」
「どういうこと!?」
伯母は城に居ながら国内の情報に精通していることは良く知っている。茶会やその他の社交の場で、女性同士のネットワークを駆使して情報を集めるのだ。伯母の話ではレッドモンド辺境伯とイヴリンの父親は騎士時代の知り合いだったらしい。長男の相手を探しているのを知っていたので、その情報をゴドフリーの耳に入れたのだとか。
「イヴリンはどうして辺境伯領に行きたかったの!?」
「近くに居たらこちらの思惑がバレてしまうかも知れないでしょう? 叔父に油断してもらうためにもできるだけ遠方が良かったのよ」
「因みにマクニース男爵とレッドモンド辺境伯は騎士時代の同期なのよ」
「そうなんですか!? えっ、じゃあお姉様は私のこともご存知だったのですか?」
「名前ぐらいはね」
ヴィクトリアが初めて聞く内容のことも多かったけれど、それはセシルも同様。王妃とイヴリンに色々と種明かしを聞かされて、二人揃って呆然とするしかなかった。
「あっ! だとするとセシルを助手にしたのも、何か目的があるんじゃないの? そうね……弟くんの婚約者とか!」
「!!」
「リアムは仕事を始めたばかりで恋愛はまだいいと言っていましたし、もう一人前ですからその時がくれば自分でお相手を選ぶと思うわ。ねえ、セシル」
そう言われて真っ赤になって俯いたセシル。その様子にはヴィクトリアのみならず王妃も食いついていた。
「あらあら、若いって素敵ね」
「なーに、助手ちゃんは弟くんを狙ってるの? あ、そうか。お茶会の時も弟くんの取り巻きに混じってたって言ってたっけ」
「そ、そのようなことは……」
「あー、もう可愛いわねえ! お姉さんも応援してあげるから頑張りなさいよ!」
隣に座っていたセシルを抱きしめて頬ずりをすると彼女もまんざらではないのか、くすぐったそうにはにかんでいた。
「ヴィクトリアも、もうすぐ婚礼が決まりそうなのでしょう?」
「そうそう。ジェイミーもようやく決心してくれたみたい。あなたが王都に戻ってきてくれたからかな」
「領地の管理をお願いしていたから、随分伸びてしまったわね。申し訳ないことをしたわ」
「全然いいのよ! 私もイヴリンには参列して欲しかったし、ジェイミーと話す機会も増えたから良かったと思ってるわ」
「フフフ、そうね。私もジェイミーとあなたが夫婦になる日を楽しみにしていましたよ、ヴィクトリア。あの子は面倒くさがりなところがあるから、あなたが上手く引っ張ってちょうだいな」
「任せて! 伯母様!」
常にパワフルなヴィクトリアのお陰で、セシルの緊張も少しずつ解けて会話にも参加できる様に。和やかな時間の中、城の中の人々や王都のことなどたくさんの話題で盛り上がる。そして話題はラルフ王子のことに。
「ラルフは随分、イヴリンのことが気になっている様ね」
「私は未亡人ですし、この通り地味な女。殿下には相応しくないとお伝えしております」
「えー、イヴリンが本気出せばラルフにはもったいないぐらいなのに!」
「フフフ、確かにラルフにはあなたと並ぶ資格は、まだないのかも知れません。でもあの子が本気なら話ぐらいは聞いてあげてちょうだい。私は二人の意思を尊重するわ」
「有り難うございます、王妃様」
微笑むイヴリンの顔を見ながら、ラルフが彼女のことを本当に理解するにはまだまだ時間が必要だろうなと、しみじみ思うヴィクトリアだった。
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