第6話 宿命の踊り
告白の準備を整え、ムハマドは早朝の学校へと向かっていた。胸の高鳴りと緊張を抱えながら彼女の姿を探す。しかし、ラクシュミ・ヴェーダはどこにもいない。教室に入ると、彼女の机の上に一枚の手紙が置かれていた。
「何だ……?」
封を開けた瞬間、ムハマドの顔から血の気が引いた。
「ラクシュミ・ヴェーダは監禁した。返してほしければこの空き地に一人でこい。
――チャーチル」
手紙を握りしめ、ムハマドは急いで指定された場所へと駆け出した。心臓の鼓動が耳を打つたび、彼の中の怒りと不安が増していく。
薄暗い空き地に到着すると、ラクシュミが手錠を掛けられ、口を布で封じられて倒れているのが見えた。彼女の顔は苦痛で歪んでいる。
その隣にはチャーチルと、彼の取り巻きであるオーストラリア人、アメリカ人、そして南アフリカ人が立っていた。それぞれが太い棒を手にして、ムハマドを睨みつけている。
「来たな、ムハマド・カルマ。」
チャーチルがにやりと笑いながら一歩前に出る。
「この前は俺に恥をかかせてくれたな。我が大英帝国に泥を塗りやがって。今日はその報いを受けてもらう。」
ムハマドはラクシュミの方へ駆け寄ろうとしたが、チャーチルが棒を振り上げて行く手を阻む。
「動くな!俺たちは容赦しないぞ。」
取り囲まれる中、ムハマドは冷静さを失わずに深く息を吐いた。そして目を閉じ、心を静める。
「何だ、怖くて震えたのか?」
チャーチルが嘲笑する中、ムハマドは一歩後ろに下がり、足をゆっくりと動かし始めた。
「おい……何をしている?」
取り巻きたちは困惑した声を上げるが、ムハマドの動きは次第に速く、そして力強くなっていく。彼は踊り始めた。
そのステップは、まるで神々の舞のように正確で美しかった。両腕が空を切り裂くように動き、足は大地を力強く踏み鳴らす。そのリズムに圧倒され、チャーチルたちは棒を振り上げたまま動きを止めた。
「何をしている!攻撃しろ!」
チャーチルの命令により、取り巻きたちが棒を振り下ろそうとするが、その瞬間――。
ムハマドの一撃が、踊りの一環として彼らを捉えた。棒をかわしながら、回転するように蹴りを入れる。オーストラリア人が倒れる。さらにリズムに乗ったムハマドの動きが、アメリカ人の手から棒を弾き飛ばした。
「こいつ……強い!」アメリカ人が怯えた声を漏らす。
「こんなはずじゃ……!」南アフリカ人も動けなくなる。
最後に残ったチャーチルは、棒を握りしめながら後ずさった。
「お前、何者なんだ……?」
アメリカ人が恐怖に震えながら呟いた。
「まさか……シバ神の化身なのか……?」
その言葉を聞いた瞬間、ムハマドの動きがぴたりと止まる。彼はゆっくりとチャーチルに近づき、棒を奪い取ると地面に叩きつけた。
「ラクシュミを解放しろ。それ以上、俺に手を出すな。」
ムハマドの静かな声には圧倒的な威圧感があった。
震えながら鍵を取り出したチャーチルは、ラクシュミの手錠を外す。ラクシュミは解放されると、涙を浮かべながらムハマドの胸に飛び込んだ。
「ムハマド……ありがとう……!」
空き地を後にした二人。ラクシュミはずっとムハマドの袖を掴んで離さなかった。彼の力強い背中を見つめながら、彼女の中で湧き上がる感情はもはや抑えきれないものになっていた。
一方、ムハマドもまた、彼女を守ることで自分の中の強さを実感していた。だが、ラクシュミの涙を見たとき、自分が彼女に対してどれだけ特別な感情を抱いているのかを改めて知るのだった。
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