50話 噂より、本物
私がクラメルに話しかけると、彼女は私の顔を見てひどく驚いたような表情をする。
「…あなた、どうしてまた私に話しかけてきたの?」
「だって噂どうりかってさ、話してみないとわからないじゃん。それにせっかく隣なら仲良くしたいし」
「相変わらず変なことを言うのね」
「…?相変わらずって?私のこと知ってるの?」
「…いえ、ただ前に少し噂になってたのよ。」
「あーなるほど、」
確かにウソとは言え転入生がこんな時期に入ってくるなんて噂聞けばそりゃ少しは知られててもおかしくないか……。
「……でもまあこうして顔を合わせるのは初めてだよね。私はマリー・グランヒル、よろしく!!」
「……クラメル・エレクトロよ。会話は嫌いだからできればあまり話しかけないでほしいわね。」
「またまた~そういって本当は友達、欲しいんじゃないの~?」
私が軽いテンションでそう話しかけると、彼女は何かに気づいたようで「はあ~」と大きなため息をついてこちらをみた。
「……そういうことね。なんかノリが軽いと思ったら、あなた私が四大貴族ってこと忘れてるのね。」
「…え?ちょ、ちょっっともう一回言ってもらえます?」
……い~ま、聞き逃せない単語を言わなかった?
「エレクトロ家は四大貴族の一つなの。これでいいかしら?」
O M G なんてことだ!! あ、あの最高権力者のよ、四大貴族!?
私四代貴族にため口ついちゃったよ!? あ、謝らないと!!
「おおお。た、大変失礼いたしました~~」
「…はあ、本当に相変わらずなのね。あなたは」
そうして、怒られると思ったのだが彼女は私を見てあきれているだけで、何かしてくることはなかった。……本当に、よかった。
***
「じゅっぎょうの終わり~!!」
三か月遅れたのもあって授業は結構進んでいた。
けれど、前世の力か案外すんなり理解できたし、応用も普通に解けた。
記憶は忘れていくとは言ったけど、案外覚えているもんだなあ、と思った。
「さーて、一緒に帰ろ~」
帰宅時間になったので、私はカバンをもって……あれ? 私、今誰に一緒に帰ろうといったんだ?
クラメル様はもう帰っちゃってるし、転校初日で顔見知りもいないのに……。
「……転校前の癖かなあ? う~ん、まあ気にするまでもないか!」
頭の中にあったかすかな違和感を適当にこじつけて、私は教室を後にする。
仲良くしてくれそうな人もいたし、楽しい学校生活になりそうだ。
「……なんて、そううまくいかないものだよね」
そんな思考を遮るように、私の前に出てきたのは一人の少女だった。
ピンク髪のショートヘア―のちんまりとした子で年下のように見える。
「はい? いや、君誰?」
「あはは、おねーさん私の年齢わかってる?」
「え?」
「あはは、やっぱりそうだ。そうなってるんだ」
彼女はその小柄な体から私の顔をのぞいてきて、何かを気づいたようで、笑いながらうんうんと何かを納得している。
「もう、さすがとしか言いようがないよね」
「……えっと、なんの話?」
「やっぱり自覚ないんだ? あはは」
答えをはぐらかすように彼女は笑いながら誤魔化してくる。
その態度にもどかしさと若干の怒りを覚えるもののそれはグッと飲み込む。それはやはり、今自分が感じている違和感のヒントをもらえると思ったからだ。
「……そこでその選択を選ぶあたりも本当に君らしい」
「私、らしい?」
「ああ、そうだ。だから異常なんだ」
「……さっきから言ってる意味がわからないです」
「ふふ、そうかい? 私は結構わかりやすく言っているつもりなんだどね」
「……でも、しゃべり方もおかしいし、もしかしてからかってます?」
「からかってなんていないさ。私はただ、かわいい後輩が心配で様子を見に来ただけだよ。」
だとしたらその雰囲気としゃべり方はなんですかね……? 普通にからかっているようにしか聞こえないんですよ。……もう、聞き返すのもめんどくさいから言わないけどさ。
「ねえ。マリーさん。もし、どちらかを犠牲にしないといけないときが来たら君はどうする?」
「……え? 急になんですか?」
「ちょっとした疑問だよ。これが終わったら私は帰るから最後に答えてくれ」
「……まあ。そういうことなら。……そうですねえ、取り返せるやつならそっちをあきらめるし、どっちも取り返しがつかないようなものなら何とかして両方手に入れたいって思っちゃうかな?」
「……はははははは!! なんと、なんと強欲な!! でも、だからこそ面白い!!」
「……満足した答え言えたらよかったです」
「ああ、満足だ。どうしてもっともよい
「さよなら~」
小さな体でタッタッタと走りゆく姿を見ながら、変な人だったなあと振り返って思う。
ポツンと一人残された私はカバンを再度もって帰宅する。
……「最善の選択しかしない」とはなんだったんだろう。
最後に彼女が言った言葉。それがなぜか頭に残ってずっと頭の中を回り続けていた。
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