44話 運命
「はぁ、はぁ、」
…逃げ出してしまった。最も見られたくないものを見られて私は、怒りよりも恐れ、声よりも震えが出てしまった。
なんであんなところに置きっぱにしてしまったのかと自分の不用心さに後悔をする。
「…でもまぁ。これでよかったのかもなぁ。」
私は今回、マリーちゃんを誘拐してしまった。
傷を負ってもまた傷つこうとしている彼女、それを見ていていつか追い詰められて壊れてしまうのではないかそんな恐怖が大きくなって、あの人と影が重なってまって、失いたくないという思いが出てしまった。
だから、私はやった。彼女の意思を無視して、まだある傷を掘り返して…
それなのに、あの夜を忘れていてもずっと彼女は私に優してくれた。きっと怖いはずなのに、全部私のせいなのに、彼女の私にむけてくれる優しさは変わらなかった。
本当に馬鹿だと思うがそれがきっとマリーちゃんと言う人物なんだろう。
「…結局マリーちゃんは何も変わらなかったし、なんもうまくいかなかったな。」
記憶があっても失っても、彼女の意思が折れることはなかった。無理をしてほしくないと言う私の思いは届かなかった。変えることはできなかった。
…私が失いたくない人はいつもそうだ。私が知らないうちに私の手の届かないどこかに行ってしまう。
今回だってこんな状況になるまでたった2日だ。そう2日しか経ってない。
全部見ていても、わかっていても彼女はどこかでヒントを見つけて、正解を見つけてしまう。
もしかしたらマリーちゃんにはこういう時に都合よく進む力でもあるのかもしれないな…
そうやって考え事をしていると、少し心が落ちついて、ちょっとだけ周りのものも見えてくるようになる。
…夢中になって走ってきたから気づかなかったけどこの場所、うちの前の港か…雨も降ってるし危ないな、ここ。
「…もういっそうここに飛び込んだら楽になれるのかな?」
このままだときっと、私はマリーちゃんにまた私は酷いことをしてしまう。
でも、やっぱりマリーちゃんは私なんかがいなくてもきっと一人で立ち直って傷つきながらも進んでいってしまう。
だったら、もう誰かに迷惑をかける前にこの罪を背負っていなくなってしまった方がいいかもしれない。
ずっとこんな気持ちを持ったまま過ごすぐらいなら、楽になってしまいたい。
なんだか、そう思った瞬間、どういうわけか足が吸い込まれるように荒れた海に向かってゆく、あと一歩、そう一歩踏み出せば落ちてしまうようなそんなところに足が伸びて…
「…まって!!メリーちゃん!!」
最後の一歩を踏み出そうとしたとき、そう、声をかけられた。
声の主は見なくてもわかる、マリーちゃんだ。
「…どうしたの?マリーちゃん。まだのぼせたの治ってないでしょ。戻って休んでなよ。…あ、電話はリビングの奥の部屋にあるから使ってもいいよ」
誤魔化すような言葉で、私は彼女に戻るように促す、…もういいんだ。私はあなたに迷惑をかけてしまう、もう放っておいて欲しい。
「…ッ!!いまはそんなことどうでもいいでしょ!!メリーちゃん!?何しようとしてるの!」
「ん?何って?別になんもしてないよ」
「…嘘、今海に飛び込もうとしてたでしょ。こんな荒れた海に飛び込んだらどうなるかわかってるで…しょ…。」
…やっぱりお見通しかぁ、まあ誰から見てもわかるかもだけど。
彼女の声は強く、怒りがこもっている。言い切るとき少し途切れかけていたのはきっと無理をしているからだ。
「メリーちゃん、バカなことは考えないでこっち来てよ、そこ危険だよ。」
「…ふふ、あんなに私はあなたに悪いことをしたのにそれでもあなたは優しく私を心配してくれるんだね。」
「当然だよ、今回メリーちゃんは間違えを犯しているけど、それでも私のためにいろいろしてくれるし、今でも私の親友に変わりはないんだから。」
…私の罪がたったそんなものだけで相殺されるわけない。
なのに彼女はそれがさも当然の理由かのように行ってくる。
彼女の声にはやさしさが、温かみが、包み込むように私の心に響く、響いてしまう。…だから思いが溢れて、言葉が漏れてしまう。
「…どこまでもお母さんみたいな人」
「…やっぱり私とメリーちゃんのお母さん、重ねてしまっているんだね。」
「…そうだよ、私はずっとあなたの影にお母さんを重ねてた。その強い意志も優しさも、その目もお母さんそっくりで、傷ついて無理して、止めても歩んで、だから監禁したの。またお母さんみたいになってほしくないから。」
「…メリーちゃんのお母さん、事故で亡くなったんでしょ?たぶん、馬車とかに細工をされて」
その話をされた瞬間私は本能的に、後ろを向いてしまう。
そうしてマリーちゃんを見ると、どこからか持ってきた棒を支えにその場所でまっすぐ私を見ていた。…いや、今はそんなことどうでもいい。
「……どうして知ってるの?記憶が戻ったとして、あの手紙にも「シャドウメモリー」関わったとしか書かれてなかったよね」
「ただの勘だよ。経験則と情報に基づいた予想、その目をした人を昔見たことがあっただけ」
嘘はいっていない、でも嘘みたいな話だ。確かにある程度導き出せる情報はある。けれどこんなに完璧にあてられるとは思っていなかった。
彼女の言葉が本当だというなら、確信は私の目だ。しかし、四代貴族みたいに特殊な力があるわけでもないのにそんなことができるのだろうか?
…でも彼女が言うんだからきっとできるのだろう、だって彼女にはそういう信頼があるから。
「ねえ、メリーちゃん教えてよ。昔のこと。」
彼女は最初から、でもずっと私のことをまっすぐ見てくれている。こんな私でもずっと親友と言ってくれる。
「それでさ、そのつらいことを私に話して一緒に乗り越えようよ。もう忘れ薬もいらないように」
本当に優しく彼女は私のことを諭してくる。私が彼女を誘拐して傷つけてしまっているのに、無理をしてまで私を思ってくれる。
「…あ、でもそういや忘れ薬飲んでるなら、話そうにも思い出せないのか…」
「…大丈夫だよマリーちゃん。忘れ薬なんてもうずっと効いてないんだから。」
ずっと一人で抱えると思っていた、話すつもりはなかった、…でも話し始めてしまった。
あぁ、思えば、始めにあったときからこうなる運命だったのかもな…
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