冷遇王女と戦闘メイド ~唯一優しくしてくれたメイドが凄腕傭兵でした~
笹塔五郎
第1話 意味などない
夜――離宮はいつも静かな場所であるが、今日は人の姿があった。
ただし、彼らは皆ローブに身を包んでおり、自らの正体を隠すようにしている。
彼らが狙うのは――たった一人の少女だった。
「レティシア・ウェンドール、お前にはここで死んでもらう」
少女――レティシアはその言葉を受けて、驚きに目を見開く。
だが、すぐに冷静さを取り戻すと、
「……誰の差し金?」
そう、静かに問いかけた。
黒色の長髪に赤色の瞳――幼さは残るが端正な顔立ちをしている。
着飾ったわけではない、地味な色のドレスに身を包んでいるが、彼女には気品があった。
レティシア・ウェンドール――『ウェンドール王国』の第二王女。
ただし、離宮での生活を強いられ続け、まだ外の世界もほとんど知らない。
それなのに――レティシアは今、まさにその命を奪われようとしている。
「冥土の土産に――と言いたいところだが、答える義理はない。どのみち、助かる可能性もないのだから、知ったところで意味もない」
刺客はそう言って、手に握った短刀を構えた。
レティシアは思わず、一歩後退る。
ここは離宮の二階の寝室――あるいは、窓から飛び出せば外に出られる可能性はある。
ちらりと視線を向けると、
「残念だが、外にも我々の仲間がいる。大人しくすれば、苦しむ間もなく楽にしてやれるが」
「……そんなこと言われて、大人しくできるわけないでしょ」
レティシアは刺客を睨んだ。
――大人しくするというのは、すなわち死ぬしかないということなのだから。
だが、目の前にいるのは武装集団。
それも訓練を積んだ者達であり、離宮で静かに暮らしていたレティシアが戦って勝てる見込みなどないだろう。
――そもそも、レティシアは戦闘訓練などしたことはないし、させてもらえもしなかったが。
それでも、何とかこの場を切り抜けるために考えを巡らせて――そんな思考すら、刺客は読んだように口を開いた。
「抵抗するのなら、メイドを一人――殺すことになるが」
「――」
レティシアは刺客の言葉を聞いて、動きを止めた。
メイド――ただ一人、レティシアが心を許す人物。
幼い頃からずっと、一緒にいてくれた女性――フォリナ・ハズベル。
ここに彼女の姿はなく、すでに刺客に捕まった可能性は十分に考えられた。
元々、一人で太刀打ちできる状況でもないのに――レティシアは完全に追い詰められてしまったのだ。
「フォリナにだけは、手を出さないで……」
レティシアがかろうじて絞り出すことができたのは、そんな願い。
脱力し、その場にへたり込んでしまう。
「もちろん、こちらの狙いはお前だけ――メイドに用はない。お前が死んだら、すぐにでも解放してやるさ」
レティシアはその言葉を信じるしかなかった。
結局――人生において誰からも必要とされず、その短い生涯を閉じることになる。
思わず、自嘲気味に笑ってしまう。
どうして――自分は生まれてきたのだろう、と。
ただ、ここで死ぬことでフォリナが助かるのであれば――
「……私の命にも、意味はあったのかな」
そう、消え入りそうなほど小さな声で呟く。
刺客が近づいてくる足音が耳に届き、レティシアは目を閉じた。
――その瞬間が訪れるのを、待つだけだ。
「がっ、ふ」
吐血し、息を吐き出すような声。
だが、それはレティシアのものではない。
「――その死に意味などないでしょう。何せ、彼らは理不尽にあなたを殺そうとしているのですから」
「……フォリナ?」
よく知る彼女の声が耳に届き、目を開いた。
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