第2話 仲間
地べたに這いつくばって泣き崩れるノンナ。黒髪美少女の慟哭はとまらず、俺の方が焦ってしまう。こんなの屋敷の人間に見られてしまったら誤解されるだろ。
「うええーん、汚されました。人でなし、変態っ。わたしの大切なものを奪われたおおおぉぉぉん」
「お、おいおい」
「一生この男の性奴隷で生きていくんだぁぁ、もうおしまだぁぁぁぁ! お母さぁん、お父さんごめんなさぁぁい」
「ひ、人聞き悪いぞ! 俺は勇者として魔族を討伐したにすぎない。大義名分があるっ。お、お前だって逆の立場ならそのつもりだったんだろ!?」
「ううわあああん」
まるで被害者面して泣き叫ぶ魔族の女。
騒ぎを聞きつけた伯爵家の使用人達がぞろぞろとでてきて、俺のことをゴミでもみるような視線を叩きつけてくる。
「まあ、あんな少女を……」
「性奴隷ですって」
「夜な夜な一人でしてるのは知ってたけど、まさかあそこまで性欲の塊だったなんて」
なぜ、勇者の俺が悪人みたいになっているのだろう?
幼げな少女を泣かせちゃいけないのは世界共通らしい。このままでは、世界を救う勇者が、性犯罪者として断罪されかねない空気感である。
ノンナの表情はぐちゃぐちゃに涙と鼻水で汚れて、整った顔立ちは見る影もない。
「わ、わるかったよ! ゆるしてやるからもういいよ。もう迷惑だから帰ってくれ、首輪も返すから」
「……っ、それができるならこんなに泣いてないっ。この首輪の効力はとても強力で簡単に外れないんだぞぉ!」
「はあ?」
ためしに首輪をひっぱてみるがびくともしない。これ、呪いのアイテムじゃねーか!
「だが、まあ落ち着け! こういうのは教会で神官にお願いすれば解呪してくれると相場で決まっててだな……」
「こんなのを解呪できるのは超高位の神官くらいだよぉ。そんな人が魔族のわたしのためにやってくれるとでも?」
「……」
無理だろうなあ。だって、魔族と人間では信仰する神が違う。それが原因で魔族と人間で戦争しているんだし。つーか、この女、とんでもない代物を俺に装備させようとしていたらしい。なんか、もう助ける必要もない気がしてきた。適当にそのへんの野原に捨ててこようかな。
「なあ、ちょっとそこまで散歩に……」
「くっ、こうなったら勇者よっ、わたし達は一蓮托生です。いいでしょう、やってやりますとも! ともに立ち上がり、魔王を討伐しようではないでしょうかっ!」
「……は、お、おまえ何いってんだ」
「勇者に挑んで負けた挙句に、奴隷にされたなんて、口が裂けても家族に報告できません。そんな汚名受け入れらないっ。ならばっ! 魔族でありながら勇者に協力して世界に平和をもたらした伝説の魔族として、歴史に名を刻んでやりますよ!」
ノンナが杖を掲げえて、きらーんと擬音がつきそうなポーズをとる。
「ふっざけんなっ、なんでテメエの尻ぬぐいで俺が魔王なんか倒さなきゃいけねーんだよ! 絶対に嫌だからな、俺は世界が滅びようともぬくぬくと生きていきたい!」
「ゆ、ゆるしませんよ! もう魔王軍に入れる見込みはないのですから、あなたはわたしと一緒に旅に出るのです! 責任をとってくださいぃぃぃ」
「しんでもいやだぁぁぁ、勝手にそこらでくたばってろ残念女!」
ノンナが覚悟の決まった虚ろな目つきで飛びついてきやがる。
や、ヤバすぎるこの女。なんで魔王討伐の旅に魔族が参加すんだよ、いや、そういう王道展開的なのもわかるよ? 暴虐な王に立ち向かう騎士の英雄譚みたいな……でも、こいつには毛先ほどの信念もない。四天王を詐称して、魔王になるって言ってた奴だ。どうかんがえても普通じゃない。ただの目立ちたがり。こんな奴と魔王討伐の旅にでたら人生終了だ。
「え、衛兵よぉ、出合え出会え、魔族があらわれたぞぉ! こいつを追い出してくれぇ、いますぐに!」
「ひ、ひきょうですよっ!?」
ぞろぞろと現れた屈強な衛兵達がノンナを羽交い絞めにして引きがす。涙を流しながら、ノンナは敷地外にずるずると連行されていく。
「わああああああ」
これでもう会うことはないだろう。ふう、マジで危なかった。
「お前ら、何事だ騒がしいぞ!」
ふりかえると、カイゼル髭を生やした金髪の太った男、おれを虐める毒親の―――ゴルドー・アインヘルツが仁王立ちしていた。
「なんで魔族の少女が我が屋敷の敷地内におるのだ!」
困惑するゴルドーはおれを睨みつけてくる。どう説明したもんか。
頭を悩ませていると、ノンナが叫んだ。
「高貴なお方とお見受けするっ、我こそは魔族にして聖なる女神ベアトリーテ様の使者ノンナ・セラミン! そこの勇者を神託によりお導きに参った! だから追い出さないでぇぇぇ」
「ゆ、ゆうしゃだと!?」
ゴルドーがまぶたをかっぴらげて俺を見つめる。
(このくそ女がああああああああ!)
ちょっと女神様っ、この世界の悪役は癖が強すぎです! 街風 @aseror-t
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