ちょっと女神様っ、この世界の悪役は癖が強すぎです!
街風
第1話 自称魔王軍四天王!
伯爵の父親に「庭掃除をしろ」と命令された作業中に、突如として思い出した前世の記憶。
異世界転生してうんぬん、女神に世界を救えとお願いされたり、己が勇者というおきまりごとを聞かされて。中二病を患ったことがある男子なら、一度は想像する設定の数々。だが、俺の勇者としての運命はすでに閉ざされていた。なぜなら、記憶を取り戻した途端に、魔王軍四天王を名乗る少女が現れたからだ。
「我こそは……ぃ……魔王軍四天王にして最強の魔法使い、ノンナ・セラミン! さあ、その命をさしだせ勇者よ。その首をもって我は魔王になるのだっ」
黒髪ローブ姿のちびっこい女が、背丈より長い杖を掲げてそう宣言する。髪は肩のラインで切り揃えられて、くりくりと幼さを感じさせる真っ黒な瞳。絶対絶命の状況でもつい見惚れてしまう人間離れした美貌。
いや、よく見ると彼女は人間じゃない。お尻から魔族の証である、THE悪魔って感じの黒くて細い先っちょがハートマーク形の尻尾がゆらゆらと揺れている。
「お、おれは勇者なんかじゃねえ! 人違いだ!」
「くっくっく、我が魔眼はごまかせんぞっ、貴様からは聖なる力をひしひしと感じる、つまり貴様は勇者なのだっ!」
「……くっ」
ああ、終わった。普通こういうのって、勇者として実力をつけてから発生するイベントなんじゃ。一番最初の敵が魔王軍四天王とか終わってない?
嫌だ、死にたくない。折角勇者なんかに選ばれたんだから、可愛い子にきゃっきゃっ囲まれてバラ色の人生を歩んで老衰したい。肩書だけでメシを食って、魔王とか世界平和とは無縁な勇者生活を送りたい。
だから、最後の悪あがきでそんな言葉をつい口走ってしまった。
「よ、よくぞ見破った魔族の少女っ。しかし、本当にいいのか、お前は後悔しないか?」
「な、なんだとぉ」
「俺は……もしお前に勝ったらその貧相な体を毎晩貪り食って可愛がる。それでもええんか!?」
「なっ……貴様勇者だろ! そ、そんなのは駄目だ、認めないっ」
「勝者の意見こそが全てにおいて優先される。いいのか!? 本当に戦うのか!? 引くなら今の内だぞっ!? 逃げるなら絶対に追わないと約束する、逆らったらエッチなことするぞ!」
「はわわわ」
黒髪少女の魔族は瞳に涙を浮かべて、俺がいる方と、屋敷の敷地外に繋がる道を交互に眺める。
「で、でも私は……れ、魔王軍四天王だしぃ」
開き直って苦し紛れの脅しを吐いたつもりだった。なのに、ノンナと名乗る少女はプルプルと震えだす。
……よぎる違和感。そこはかとなく漂ってくる雑魚臭。本当に魔王軍四天王なのか怪しくなってきたぞ。
というか、さっきから気になってたんだけど、魔王軍四天王を名乗るまえに妙に間がないか?
「なあ、お前本当に四天王なのか?」
「……我は……れ、魔王軍四天王の」
「ちょっとまった。途中でなんかボソボソいってるよな? もっとハッキリ喋れぇ!」
「わ、我は…ぃ…れ魔王軍四天王のぉ」
「もっとハキハキと!」
「ううわああ」
両手で杖を抱えて、目をぎゅっとしてノンナが叫ぶ。
「我はこそは! いずれ魔王軍四天王にして最強の魔法使いノンナ・セラミン!」
どうだ言ってやったぜと感じさせる清々しい態度。
「……つまり、四天王じゃないってことか?」
「そうだっ、貴様の首をもって、魔王軍に入れて貰う予定だったのだ!」
魔王軍ですらなかった。
「しかぁし! 今日のところは見逃してやろう勇者よ。命拾いしたなっ」
「……ちなみにさ、どうやって勇者に勝つつもりだったの?」
こんな雑魚っぽい少女にまともな勇者を倒せるとは思えない。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれた。実はこの日の為に、お金をコツコツと貯金して、奴隷の首輪を実家から譲って貰ったのだ。これを相手に装備させれば、何だって命令できる極上アイテム」
首輪形のアイテムを堂々と見せつけてくる。
「へえ~初めて見たわ」
「そうだろう、そうだろうに。なんたって実家の家宝として保存されていたものだからな」
えっへんと自慢げにノンナが平らな胸を張って鼻を膨らます。
「……記念にちょっと見せてくれないか」
「ふっ、見逃してくれるなら、見せるくらいいいだろう。あ、落とさないでね」
大きな宝石がついた首輪だった。
「これどうやって使えばいい?」
「相手に首にかけてドミネイトと唱えれば完了さ」
「よっこいしょ」
首輪をノンナの首にかける。
「ドミネイト」
ぴかーんと首輪が光って、魔法陣が浮かび上がり、俺の手の甲とノンナの手の甲に、おそろいの幾何学模様が刻み込まれた。成功したらしい。
「はう……わああああ、なっ、なにをする、なにをしたっ。嘘だぁそんなあ。かえちて、首輪をかえちてよぉ~」
「ようこそ、勇者一行のパーティーへ。そっちだって奴隷にするつもりだったんだから仕方ないよな」
仲間が一人増えた。
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