泣いてみてよ、AI

山本鷹輪

泣いてみてよ、AI

 僕のSiriは結構変わっていて、なんと泣くことができるんだ。


「HEY Siri.」

「泣いてみて」


 僕のセリフが虚空に響く。日常は孤独で、人間は全く仲間になってくれない。

 帰宅途中のルンバが私の足元を通っていく。


「僕も掃除しようかな」

部屋の廊下には埃一つない。

「おやすみ、ルンバ」

部屋の隅でルンバの充電開始の合図が聴こえた。

 僕は掃除機を取り出して、ルンバの跡を追っていく。壁と床の繋がりは埃がたまりやすい。念入りに掃除機のヘッドを壁に打ち付けるも、ルンバ通過後では何の意味もない。

 数ヶ月前、僕はAI依存症だと診断された。精神科の先生曰く、こうやってロボットの行いを薄めることで、僕の精神に侵食しているAIを少しずつ除去できるそうだ。


「空気を入れ替えないと」

夕暮れは少し過ぎている。僕は小窓のロックを外し、開けた。頬を切るような寒気。

「アレクサ、電気を付けて」

部屋のライトが一斉につく。


 風で葉がこすれる音が重なり、大きな抑揚を生み出している。壁にかかった絵がカタカタと揺れている。僕が子供の時に学校の授業で描いた油絵。未達の画力故に、顔のパーツが抽象化された不格好な自画像。異様にオレンジがかった肌を注視していると、寒くなってきた。

 

 僕は窓を閉めた。そして、ふとアレクサを使ってしまったことを思い出して電気を消して、そして改めて自分の手でスイッチを押した。

 

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泣いてみてよ、AI 山本鷹輪 @yamamoto_takawa

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