ダンジョンにソロで来るやつにロクなのはいない
藤原くう
第1話
コンクリートを
壁ドン。
だけど、憧れのシチュエーションとは少し違う。
僕は
「誰にも言わないで」
――じゃないと殺すから。
けたたましく笑う伊都峰さんを見ながら、僕はどうしてこうなったのかを思いだす。
あれは、昨日のこと。
ダンジョンでのことだ。
突如として現れた
現在では日常的にダンジョン探索が行われており、そこで見つかったものが、社会に
同時に、社会問題も生み出した。
例えば、探索者を
表ではできないことが、ダンジョンという複雑怪奇な場所で行われるようになったんだ。
それを取りしまるためヴィジランテがつくられた。
もちろん警察もいる。でも、ヴィジランテの偉い人
そういうわけで、今日も今日とて見回りをするはめになってる。
あ、名乗り遅れたけど、僕は
ダンジョンを歩きながらスマホを取りだし、情報に目を通す。
近頃、無差別的通り魔の通報が警察に寄せられるようになった。その人物は、モンスター探索者関係なく襲いかかってくるらしい。
性別は女性。ネコのお面をかぶり、
通称ネコ女。その正体はわかっていない。
幸いなことに今のところ怪我人はいない。けど、日本刀を振りまわしてるんだから、重傷者が出てもおかしくない。
ま、テキトーに見回って、それで終わりだ。
そう思いながら、歩いていると。
カランコロン。
転がるような音が、薄暗いダンジョンにこだまする。
影の向こうに目を
ネコのお面をかぶった少女。
その手には、ぎらりと輝く日本刀が一振り。
「ネコ女」
日本刀を握ってない方の手で少女が口元を押さえる。
どうやら笑ってるらしかった。
「同行してもらえますか」
返事はない。
少女が、体の中の何かを吐き出すようにもだえたかと思えば。
お面の奥の目がギラリと輝いた。
来る。
僕は手にしていたシールドを構える。
ライアットシールド――
ザッ。
振り下ろされた一撃を受け止める。
押し返そうとすれば、フッとかかっていた力が消えた。
前のめりにツッコめば、目の前に少女はいない。
背後から暴風。
身をよじれば、シールドが吹き飛ばされそうなほどの衝撃が襲う。
しびれる両手でシールドを持ち、なんとか押し返す。
ギリギリと押しあってる最中にも、少女は笑っていた。
クヒヒヒヒヒヒッ。
言葉になっていない笑みが、かろうじて見える口元を
少しでも力を抜いてしまえばやられる――額を汗が流れていく。
ふいに、視線が僕を刺す。
「腰のは
突然やってきた言葉に、思わず体が固まった。
確かに、腰には
ヴィジランテに入ったとき、配られたもの。
一度も使ったことはない。
握ろうとした手が、震えていた。
ダメだ。シールドじゃなきゃ。
僕はシールドを持つ手に力をこめなおす。
狂ったような笑い声が一段と強まる。
同時に、覆いかぶさるような力が強まった。
まるで、
こうなったら――。
僕はシールドに隠れるように滑りこむ。
なめらかなポリカーボネートの上を刃が滑って、黒板をかきむしったような音がほとばしる。
つんのめった少女のからだがシールドの上に乗ったところで、シールドごと蹴っ飛ばす。
吹き飛ばされた少女は、ダンジョンを転がって、動かなくなった。
僕は立ち上がり、ほこりを払う。ちょっと荒っぽかったけど、しょうがない。
「ヴィジランテ規則第八条に従い、あなたを連行します」
僕は近づきながら、ポケットから手帳を取り出す。ヴィジランテ版警察手帳だ。
その手をつかもうとした途端、少女が急に動く。
「うわっ!?」
ドンっと突き飛ばされ、ダンジョンを転がる。
顔を上げれば、ちょうどその時、少女も立ち上がっている。
「あ……」
その時、少女の仮面はなかった。さっきの衝撃で外れてしまったんだろう。
いいや、そんなことはどうだっていい。
その子は伊都峰エリ、その人だったんだ。メガネはかけてなかったけど、間違いない。
少女も仮面がないことに気がついたのか、ネコ顔負けの速度でダンジョンの闇へと消えていった。
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