交縁少女AYA

熊谷 雅弘

第1話 大久保公園

 東京新宿歌舞伎町、区立大久保公園前の怪しげな気配が漂う、細い路地…


 きらびやかなネオンが瞬き始める夜7時を過ぎると、周囲の華やかさとはかけ離れた薄暗いこの路地に、スマホ片手に立つ女子たちが続々と立ち並び始める。

 やがて彼女たちへと、次々と男たちが群がっていく。

 援助交際、売春目当ての男たちだ。


 性欲に眼をギラつかせた男たちは、その薄暗い路地に立ち並ぶ彼女たちの中で目星を付け次第、片っ端から声を掛けまくる。

 「お姉さん、いま何歳?」

 「20歳」

 「ホテル別、1.5でどう?」

 「うーん…」

 交渉が成立すると、にわかカップルが出来上がり、彼らはホテル街へと消えて行く…


 いま時の立ちんぼ女子は援交とはいわず、こういった行為のことを交縁こうえんと呼んでいる。

 公園前の路上で売春相手を探す『交縁女子』たち…

 「交縁」とは公園で援助交際をする、つまり路上で売買春の契約を結ぶことの隠語なのだ。




 そんな女子たちの中に、白Tシャツの上にミリタリージャケットを羽織り、デニムショートパンツを穿いてモチ肌のスレンダーな脚を露わにする、ウルフカットショート黒髪の、木村綾がいる。


 冷めた表情で右手に持つスマホを見ながら立つ綾に、一人の男が眼をつけて声を掛けてきた。

 「きみ、何歳?」

 「19」

 「ホテル込み、1.5でどう?」

 「ダメ」

 「じゃ、じゃあ、2は?」

 綾は男を見ようとせず、無言でスマホをいじり続けている。


 「ほら、諦めな」

 後ろの中年男から言われ、男はスゴスゴ立ち去って行く…


 いわゆる美少女偏差値が高い綾の前には、中年男の後ろにまた違う男が立つという人気ぶりだ。

 くだんの中年男は、後ろの男をチラ見すると、綾をモノにすべく金額を吊り上げる。

 「ホテル別、4は?」

 「――いいよ…」

 後ろの男はチッと舌打ちすると、背を向けて去って行った…


 流石に四万円まで吊り上げられると、財力が乏しいと太刀打ちできない。

 中年男が差し出した左腕に、綾が右手を添え、二人はホテル街へと歩いて行った…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る