第30話 後輩


とある町の工場・・・・・・。



1人の屈強な男が黙々と働いていました。



友人のみなみに言われて、2か月間の工場での労働・・・・。




にしまがプラスチック工場で流れてくれる製品のバリ取り作業を黙々とやっていました・・・・・。



にしま「・・・・・・・・」



 ただひたすら、黙々と自分の仕事をこなします。自分に与えられた役割、それがどんな役割であろうとやるだけです。やるかやらないか、その2択しか今の私には無いのです。




 1時間・・・・2時間と・・・・誰とも話さず、黙々と仕事をする度に時間は過ぎていきます。




 ・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・




班長「おーい、にしまくん。作業中ごめんよ、少しだけいいかな??」



 自分のラインの班長に呼ばれます。



にしま「はい。」



班長「仕事慣れた?にしまくん・・・うち入って大体2週間くらい経ったかな??」



にしま「そうですね。ようやく仕事の流れを覚えてきた所です。」



 この工場に来て約二週間。最初の週は夜勤で過ごし、二週目の本日は日勤でした。



班長「君に後輩が出来た。歳も近いし、君からこの子に仕事を教えてやって欲しいんだが、いいかい??」



男性「・・・今日からよろしくお願いします!!」



 深々と一礼する男性・・・顔を上げます・・・・。




 ノブハラでした・・・・・。


 ハクの仲間の「ノブハラ ベイジ」でした。




にしま「勿論!!・・・よろしくね!!」




 非常に礼儀正しい青年に対してこちらも少しテンションが上がってしまいました。



 全く誰とも話さない仕事の為、話し相手が出来たと考えるとなんだか嬉しかったのです。


 笑顔でお互いに挨拶を交わします。



班長「君にはこちらのにしまくんと一緒にライン作業に入って貰う。それじゃあにしまくん、後はよろしくね。」



 ノブハラと2人きりになりました。




にしま「・・・・・・・・・・・・・・・・」



ノブハラ「・・・・・・・・・・・・・・あの・・」



にしま「俺はにしまって言うんだ、よろしく。あの・・・名前はなんていうの?何て呼べばいいんかな??」



ノブハラ「にしまさん、工場経験は今までやったこと無いのですが、精いっぱいやりますので宜しくお願いします!!・・・・自分名字あまり好きじゃないので、下の名前のベイジとでも呼んで下さい。」



にしま「ベイジ?滅茶苦茶かっこいい名前だな。珍しいし覚えやすいかも、よろしくベイジ。てか長袖、・・・・暑くない??ここのラインは半袖OKらしいよ。」



ノブハラ「だ、大丈夫ですよ、気にしないで下さい(笑)」



 入社2週間目にして後輩が出来ました。これから仕事に張りが出て楽しくなりそうです。



 私と後輩のベイジは並んでラインに立ちます。




 ヤスリの使い方を説明し、直ぐに仕事に取り掛かります。



にしま「ベイジ上手いじゃん、結構器用なんだな。」



ノブハラ「はい、ありがとうございます。元々バイクとか車が好きで正直結構手先には自信があります。」




・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・



班長「はい、昼休憩でーす。お弁当頼まれた方は配りまーす。」




 昼休憩になり、給料天引きの300円の小さなお弁当を並んで受け取るにしまとノブハラ。




にしま「一緒に食べよう。」



ノブハラ「はい、食堂ですか?」



にしま「外なんだよなぁ。俺達は社員じゃないから外で座って食べるんだ。」



ノブハラ「そうなんですね。じゃあ外行きましょうか。」



にしま「・・・腐るから早く食べよう。」




ノブハラ「え”””?!・・マジですか?!・・・」




 社員は中の空調が効いた食堂で昼食。派遣労働者、そしてアルバイトは外での昼食でした。



 外に出て、屋根のあるベンチにドカッと腰掛ける2人。



にしま「あっちぃなぁ・・・・。そういえばベイジはなんの仕事してたん?」



ノブハラ「はい、建築関係の仕事をしていました。仕事先が無くなったので・・知り合いを辿ってこの工場に来ました。」



にしま「そうかぁ、・・・・それは大変だったな。でもまぁこの工場の職員って訳ありが多いみたいだから、ベイジのような人間が沢山居ると思うよ。」




 周りを見渡すノブハラ・・・・・。



ノブハラ「そうなんですか?まぁ確かに・・・言われてみればそういうツラしてる人間が多いですね(笑)」



にしま「だろ。・・・なんかさぁ・・・こんな事言ったら変だと思われるかもしれないんだけど・・・・・なんだかお前は他人のように思えないんだよ、・・・不思議だなぁ。」



 今日このベイジと出会ったばかりなのに、不思議な感覚に陥っていました。他の人間と比べて初対面は決して得意な方ではありませんでしたが、この男については全く緊張することなく家族のように話が出来るのでした。



ノブハラ「あっ!自分もです!なんかにしまさんはずっと昔から知っているような・・・そんな感じです!!」



にしま「だよなぁ。」



ノブハラ「はい。」



 たった45分の休憩時間でしたが、2人で様々な話をしました。仕事の話、趣味の話、この工場の話、ノブハラが左手を怪我している話。自分が2ヵ月間限定でこの工場で勤務してる事も話しました。




 かなり深い話になった所で・・・・・




にしま「ところでさベイジ・・・・・・・入ってんだろ?墨が。」




 長袖を指さして、ジッとノブハラの方を見ます。




ノブハラ「え?・・・・・よく分かりましたね(笑)今日会ったばかりですが、にしまさんには嘘つけないですね(笑)」




にしま「そういう面構えしてると思ったよ。会った瞬間に分かった。でも俺はあれだ、全く気にしないからそういうのは。俺も友達もそういうのばっかり(笑)」




ノブハラ「そうでしたか(笑)そういう方で良かったです。彫らないと舐められるので。」




 ベイジの顔を見ながら、更に思った事を伝えました。



にしま「あとなんか・・・・相当・・・大変な事があったんだな?こういうのを死相っていうんだろうか?・・・・お前さ・・もしかして一回死んでないか???(笑)・・・・・」



ノブハラ「や・・・やめてくださいよ死相だなんて(笑)」



にしま「じゃあ、俺の勘違いかな。」



ノブハラ「そりゃそうですよ、ここでちゃんと座って話してるじゃないですか。死んでいたら会えていませんよ。」




 ・・・・・・



 この人・・・・・



 この人・・・・なんで分かるんだ・・・・。でもなんだろうこの不思議な感覚・・・・・。初対面でこんな話をしても、全然嫌な気持ちがしない・・・・。きっとお互いにそうなんだろうけど、同じにおいがする・・・自分達と同じにおいがする・・・。ペンさんやダマテの兄貴達と同じにおいが・・・・・。




にしま「突然失礼な事言って申し訳ない。そうだ・・・せっかくの縁だし、今度飲みに行こうぜ。ベイジはお酒飲める??」




ノブハラ「はい、飲みますよ。でも・・・働き始めたばかりで、ほぼお金が無いんですよ。」



にしま「良いって良いって、・・・男がそんな小さい事気にすんなよ。」



ノブハラ「本当ですか??ありがとうございます。是非ご一緒させてください!!」



・・・・・・・・



・・・・・・・・



・・・・・・・・



 やべぇ・・・・・




 しまったぁ・・・・・・



 俺も働き始めたばかりでお金持ってねぇ・・・・・




 ええカッコしてしまったぁ・・・・・



 工場ではじめて出来た可愛い後輩にカッコつけて、まだ一度も給料も出ていない状態なのに飲みに誘ってしまいました。



にしま「み・・・みなみに電話だ・・・金借りなきゃ・・・・」




ノブハラ「はい?・・・にしまさん今なんか言いました???・・・・モグモグモグ・・・・」




にしま「いや・・・・・なんでもない・・・気にしなくていい。」

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