第21話 恐怖


 先程、人がこのアトリエの近くの廃校に来てからまた一段と私達の緊張感が高まりました。



ハク「・・・・・」



 私は暗闇の中をずっと窓から外を監視していました。




 私達が居た島・・・今ニュースではどのように取り上げられているのでしょうか・・・・。



 外部との情報を完全に遮断していますので、今あの島がどのようになっているのか全く分からない状況でした。



 私達は今回の騒動の首謀者として指名手配犯になっているのでしょうか・・。




 それとも生き残った島民達の話を聞き、ハイバラやその仲間達が捕まっているのでしょうか・・・・・・。



 絶対に私達3人が悪者扱いされている事が濃厚なのですが、どうしてもあの後どうなったのか・・・それを調べたかったです。




 私は目線の先の棚に父の物と思われる携帯用ラジオを見つけました。




ハク(ラジオ・・・・情報聴けるのかな・・・・・。)



 でもなんだか怖いです・・・・。それを聴くことで自分達の今の立場が確定されてしまう事が、とてつもなく怖いのです。




 私一人で聴いた所でどうしようもなく、ただただ怯えてしまって、受け入れる事が出来ず今までのように気丈にふるまう事が出来る自信が無いのです。




 やめよう・・・ラジオを聴くのをやめよう・・・・そうだ・・・大体こんな夜中にニュースなんかやってないじゃない・・・・。



 聴くのをやめる事にしました・・・・。



 かなり疲れていたのでしょう、先程迄起きていたノブハラとハネダは直ぐに寝息を立てています。




・・・・・・・・・・・・・





・・・・・・・・・・・・・





・・・・・・・・・・・・・





 朝になりました。





 よかった・・・・何もなかった・・・・。




 ・・・・・・・・・




 はははははははは!!



 外から大きな笑い声が聞こえました。



ハク「??!!」



 笑い声に気付いたのかノブハラとハネダが起きてきました。


ノブハラ「今度は何事??・・・・・」



ハク「わかんない・・・なんだろう・・・・。」



 元気の良さそうなおばあさん2人組が歩いていました・・・・。



ハネダ「もしかして・・・・朝の・・・散歩?・・・」



 ハネダの言う通り、この一帯は散歩コースになっているようでした。



 おばあさん達の明るい笑い声が聞こえています。




ノブハラ「・・・よかった・・びっくりさせんなよ・・・・。マジで心臓に悪いわ・・・・」



 ノブハラは頭の後ろに手をまわして寝転がりました。



・・・・ガシャアアアアーーーン!!!!!!




3人「・・・・・・!!!!」




 気を緩めた瞬間、金網を大きく揺らすような音が聞こえました。












ハク「え?・・・・・何??・・・・」






ノブハラ「・・・・・・・・」





 私とノブハラは恐る恐る、外を見ました。



・・・・・・




・・・・・・




・・・・・・





ノブハラ「う・・・・嘘だろ・・・・イツキだ・・・・・。」




 金網の入り口付近でスーツ姿の男性がタバコを吸っていました・・・・。



 あいつらです。間違いなくハイバラの部下です。



イツキ「どこに行きやがったんだ!!・・・・あいつら!!くっそ!!」




 金網を蹴り飛ばすイツキの姿がありました。




アカマツ「・・ここまで捜索範囲を広げても見つからないなんて・・・・・。」



イツキ「このままあいつらに逃げ切られるなんて許せねぇじゃねぇか、サキヅカはやられてテンは島で行方不明。」


アカマツ「テンもやられたとみて・・・良さそうですね。」




 イツキは煙草を吹かします・・・・。




イツキ「そもそもハイバラの兄貴がやろうと言った事だぜ?当然な、サイドの支援があったからに決まってんだけど、全責任を俺達に取らせるなんておかしな話だと思わねぇか?アカマツ・・・・。」



アカマツ「・・・兄貴、口を慎んでください。どこでハイバラの兄貴に聴かれているか分かりませんよ。・・・俺も一歩間違えれば死んでました。今では・・・女とあのデブは俺の手で海に沈めてやろうと思っています。」



 奴らが・・・ついにここまで来ました・・・。



ハネダ(・・・ひぃぃぃ・・・・あいつらだ・・・・・・・)



 ハネダは怯えています。



ノブハラ(どうやら・・・・この金網の中に小屋がある事に気付いてなさそうだな・・・・。)



ハク(中に・・・・入れないものだと、決めつけてるのかも・・・・・。)



 今回の一件でかなり私達に対してイラついているように見えましたが、それはこちらも同じです。こっちからしてみれば許せない相手です。こっちから出て行って一発くらい殴ってやりたいです。



 2人共ぶん殴ってやりたい・・・・。許せません・・・・・。




 暫くすると、イツキとアカマツは徒歩でゆっくりと坂を下りて行きました。



ノブハラ「ついにここまで来たか・・・・・。」




ハク「どこまでも・・・追いかけて来るね・・・・」



ハネダ「・・・・・・・・・・・」




ノブハラ「ん?・・・・おい、ハネダ??大丈夫か??・・・・」



ハネダ「・・う・・・うん・・・・・・」




 無理もありません。命を狙われた人間が目の前に居たのです。



 ハクがパイプで殴り、ハネダが体当たりを食らわせ海に落とした巨人のアカマツは今ではピンピンしており、生きていました。




 見張り番をノブハラと変わり、私は自分のリュックにあった乾パンを食べました。



ハク「ノベタン、ここって思ったより人が来る地域なんだね。」




ノブハラ「あぁ、・・・びっくりだよ。イツキも近くまで来てるし、近所の人の散歩コースになってる事に驚いたな。」



 ハネダは爪を噛みながら小屋の奥でジッとしていました。




ハク「・・・・・・・・・・・」




ノブハラ「・・・・・・・・・・・・」



 よほど怖かったのでしょう。



 私はリフレッシュする意味で近くにあったほうきを使い、小屋内を掃除しました。



 最近まで使用していたのかどうかわかりませんが、思ったより綺麗でした。



ハク「あれ?・・・ハネダ、ご飯食べないの?水もまだあるし飲みなよ。」



ハネダ「うん・・・・ありがと・・・・・。」



 食べる事に関してがめついハネダなのに、今日は珍しく食べ物に見向きもしません。



 夕方になり、ハネダが見張りにつきました。



 私は掃除の時に父の物と思われる小さな手帳を発見しました。せっかくなので日記をつけることにしました。






〇月×日




島から脱出して2日目。私達がいるこのアトリエ付近は近隣の方の散歩コースになっていました。




更に、追手が近くまで来ている事を確認しました。




まだ気を抜くことは出来ません。もう少しだけこのアトリエに隠れようと思います。





 私は日記を書き終えて、横で筋トレをしているノブハラを見ました。




ノブハラ「体が鈍らないようにしなくちゃ・・・・・。」



ハク「うん・・・・・。そうだ・・・・・ノベタン、私次の交代が終わったら、髪の毛の色変えようと思うんだけど、どうかな?」



ノブハラ「おっイメチェン??・・・いいんじゃないか。」



ハク「変装兼ねて、気分変えるわ。」



 先程掃除の時に気付いたのですが、私のリュックの中にヘアカラーが入っていたのです。黒髪から茶髪に変装できます。



 父が変装用で入れたものと思いますが、見つけたこのタイミングで私は直ぐに使用すべきだと思ったのです。



 ハネダは相変わらずぼーっと外を眺めていました。




・・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・



 気付くと真夜中でした。私はトイレに行こうと立ち上がりました。



ハク「・・・・ん?・・・」



 見張りをしている筈のハネダが居ません・・・・・。



 トイレかな・・・・・




 確認しましたが、トイレにも居ませんでした・・・。



 シャワールームも確認しましたが居ませんでした・・・。



ハク「ノベタン・・・・・」



ノブハラ「・・・ん?・・・どうした?・・・」



ハク「ハネダが居ない・・・・・。ちょっと私、外確認してくるね。」




ノブハラ「え?・・・あいつ・・・外出たのかな?・・・・俺も行くわ。」





 私達は恐る恐る小屋の外に出ました。月が綺麗な夜でした。動物や虫の鳴き声が色んな方向から聞こえてきます。




・・・・・・・・




・・・・・・・・



 南京錠が開いていました・・・・・・。鍵も南京錠に刺しっぱなしでした・・・・。



ハク・ノブハラ「・・・・・!!!!!」




ノブハラ「もしかして!!!」



 ノブハラは慌てて小屋に戻ります。




ハク「ノベタン、どうしたの?!」



 私は南京錠を閉めなおして、小屋に戻りました。




 タッタッタッタ!!



 ・・・ガバッ!!



 ノブハラはハクのリュックを勢いよく開けます。



ノブハラ「・・・・やっぱり!!・・・・あいつ!!」





 ハネダは・・・ペンちゃんから貰った札束を持って逃げてしまいました・・・・。当面の私達の生活費です・・・。




 頭を抱えているノブハラ・・・・・。



ハク「ハネダ・・・・・なんで?・・・・・どうしてなのよ?・・・。あんたまで・・・いなくなっちゃうの?・・・・」



 突然の事で驚き、ハネダが居なくなった事に対して私達は悲しみました。



 ・・・・裏切り・・・そう考える事も出来ましたが、ハネダだけでなく、私達自身ももう、まともな考え方が出来なくなっていたのです・・・・。



 お金が無くなり・・・あとは少量の食べ物と飲み物・・・・・追手が迫り来る恐怖、近隣からの通報、世間から私達への目・・・・・。


 私達には・・・・もう恐怖しか残っていませんでした・・・・。

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