第8話 変化

 


 町はずれを歩く柄の悪いスーツ姿の男性が居ました。






サキヅカ(イツキの兄貴に言われて、街中に来たけどホントに辺見の部下がこの辺りに潜んでるのか?・・・)





 イツキは部下のアカマツとテンに海岸を回るように指示を出した後、側近のサキヅカを先程の隠れ家の付近に向かわせました。手がかりを探してくるように命じました。




 確かにハイバラが言うようにハクが居る本陣の位置は分かっているとはいえ、遊軍側の排除をしなければ、常に背中を取られているような気がしてなりませんでした。





 確実にノブハラとハネダを排除しなくてはなりません。島民が味方になっているので圧倒的にハイバラ側が有利なのです。この有利に甘んじていてはいけません。ハイバラの元上司であるハクの父が率いている集団を討とうとしているのです。




 相手は今の上司の元上司・・・・こんなにも腕が鳴る事は今までにあったでしょうか。




 自分が上に行くチャンス・・・それを狙っていました・・・。






サキヅカ「ここが、イツキの兄貴が言ってた場所か・・・しかし派手にやったな・・・・。」





 ハイバラは隠れ家を手りゅう弾で吹き飛ばしました。そこら中に何かが燃える異様な匂いがしました。





 サキヅカは隠れ家の確認をそこそこに、そのまま近くの森の中に入っていきました。




 そこでノブハラ達が休日に使用していた小屋を発見しました。





 小屋の中にはDIY用の机、古いテントやちょっとした工具などアウトドア用品が置いてありました。






サキヅカ(何故俺がガキの相手しないといけねぇんだよ・・・・。さっさと終わらせて帰ろう・・・・。手掛かりなんかねぇよ・・・・。)






 憤慨しているサキヅカは小屋を後にしました。






・・・・・・・・・・・








・・・・・・・・・・






 そこで待ち構えたかのように、屋根上からノブハラが飛び上がり、金属バットを振り下ろしました。








 バキィィ!!!!







サキヅカ「うわぁ!!・・・・・・」








 よろめきふらつくサキヅカ・・・・。







 木の陰に隠れていたハネダは自慢の怪力を活かし、持っていた角材を物凄い勢いで振り回しました。






 バキィィ!!!!!






 物凄い音と共に、断末魔の叫びが聞こえました。





サキヅカ「うあああああああ!!!!・・・・足が・・・・足が・・・・・」







 その場に倒れこむサキヅカ・・・。足が完全に折れてしまいました・・・。






ノブハラ「おいお前・・・俺達の事舐めてただろ。何も出来ない弱者だと・・・そう思ってただろう。」





 倒れた相手の背中の上にノブハラが座り込みます。





サキヅカ「くそ・・・・・・ガキが・・・。」





ハネダ「よくもアリタを・・・・」





 ハネダはもう、いつものハネダと違います・・・。完全にこの相手を自分たちの敵として見る覚悟が出来たのです。




 親友のアリタがやられた事で、今まで自分の中で押し殺していたもの・・・それが生き返りました。





サキヅカ「・・・おい、こんな事やって・・・タダじゃすまねぇぞこのクソガキが!!」




 ハネダはバットを借りて思い切り、サキヅカを殴りました。




 グシャ!!!





サキヅカ「・・・ペッ!!・・・この野郎・・・・!!!!は・・・・」





 サキヅカは幻覚が見えたのでしょうか・・・。初対面のガキ2人の顔を見たつもりでしたが・・・・・・・。



サキヅカ(辺見??・・・・・このガキ達に乗り移ってんじゃねぇか・・・・。)




 何故か二人を見ていると、辺見の顔がちらつきます。






 ハネダは椅子を小屋の中から持ってきました。




ノブハラ「じっとしとけコラ!!」




 サキヅカの右腕を乗せ、思い切り肘に向けバットを振り下ろしました。





 もう、・・奴らが島に来た理由がどうとか、利権がどうとか・・・そんな事はノブハラ達には関係がありませんでした・・・。





 自分の親、自分の仲間がこいつらにやられた。ただそれだけの思いだけでした。その信念の下、今まで堪えていた感情を呼び覚まし、相手にいかづちを落としたのです。




 心が変わり、伴って顔も表情も今までの2人のものとは変わっていきました。





 まるで人と思えないような表情・・・・・男達は、覚悟と共に変わっていくのでした。






・・・・・・・・・・・・・





・・・・・・・・・・・・・





・・・・・・・・・・・・・・





 額に汗が滲んでいました・・・・。




 私は道なき道を歩いて山の中を進んでいました。





 ライトも外灯も無し、空も見えないような暗闇の森の中です。





 虫も物凄く、もう感覚がおかしくなってしまいそうです。





 先程からしきりに兄貴分のダマテが自分の手元を気にしているように見えました。




 何か地図のようなもの・・・・そんなものを持っているように見えたのです。





ダマテ「うん・・・・そろそろだ・・・・・。」




 なんとこの山の中に洞穴がありました。





 長いことこの島に住んでいましたが、このような洞穴が山の中に有るなんて知りませんでした。





ハク「・・・・え?・・・何?ここ・・・・」




 私はふと、洞穴の上を見ました。




 その中には家紋のようなものがありました・・・。今まで見た事のない形のものでした。




 私の家の家紋でしょうか・・・・。私の家の宗教でしょうか・・・・・。産まれてから一度もそのエンブレムを見た事がありません・・・。




 ダマテはそこで一礼しました。ここで少し待つように言われた為、待っていると直ぐに洞穴からダマテは出てきました。





ダマテ「良いかハク・・・・。もうお前も大人だ・・・・。薄々気付いていると思うが・・・・おやっさんや辺見さん、そして俺。・・・上手く言えないが・・・・普通の人間じゃない。」




 ダマテは中から持ってきた鉄のケースの中から拳銃を取り出しました。





ハク「・・・!!!!・・・・・」





ダマテ「これで身を守るんだ。」




ハク「え?!・・・・本物?!・・・・」




ダマテ「そうだ。・・・・・おやっさんはハクが産まれる前、大きな会社で働いていた。これはその時に使っていた物だ。こっそりこっちに持ってきていた。もしもの時の為にな。定期的におやっさんが手入れをして使えるようになっている筈だ」





 父が普通ではない。それは分かっていました。





 私は子どもの頃から今まで、父と一緒にお風呂に入ったことがありません。当時私の会社でパートで働いていたお姉さんが子どもの私をお風呂に入れてくれていました。





 父は普段とても優しいです。一人っ子でしたので可愛がられていました。一番優しかったのは父でした。本当に誰よりも優しかったです。愛情とは決して言葉だけではない事を教えてくれました。



 しかしいざ私が、人の道を外れた時、悪行を働いた時・・・・。凄まじく怖かったです。誰よりも、恐ろしかったのは父でした。殴られることだけはたった一度もありませんでしたが、怒られた時は体の芯まで震え上がり、その場で動けなくなった事もありました。幼い頃の話ですが、あまりにも恐ろしくてお漏らしをしたことがあります。一番厳しかったのは父でした。




 私の人生の中で一番優しかった人間と一番厳しかった人間は同じ人間・・・・。




 父だったのでした。

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