第4話

「実は、天沢先輩に入部してもらいたくて。告部こくぶの活動を見てもらえば、尊さがわかるって説明してたんすよ。好きなことを隠さず愛でる。そしたら、マジで来てるんだもん」

「百聞は一見にしかずだからな」


 状況を把握していないのは、どうやら私だけだったらしい。

 カラスにまで馬鹿にされたようで、虚しくなった。


「なにそれ。最初から、シナリオがあったってこと? 好きとか言って、ぜんぶ部活のためで。私の反応見て、二人で面白がってたんだ。正木くんも、天沢も」

「椎名?」

「……帰る」


 ぶっきらぼうに踏み出した足。ぐっと腕を掴まれて、後ろへ引き寄せられる。


「誤解だ。告白同好会の活動であるに違いはないが、正木が椎名を好いているのは嘘じゃない。言っただろう。好きなものに愛を注ぐ部だと」


 すぐ真上に天沢の顔があって、思わず頭を引っ込める。

 人の気持ちも知らないで、他人の愛を代弁する天沢は、やっぱり空気が読めない男だ。

 こんな状況なのに、触れた手にときめく私も、異常なのかもしれない。


「それから、こうも言ったはずだ。節度ある行動をしろと」


 少しだけ口調が尖って聞こえた。冷静沈着な天沢にしては、珍しい。


「俺は今、腹が立っている」

「……えっ、なんで?」


 見上げた先の表情は、いつもと変わらないけど、ほんのりと夕焼け色が占めていた。


「二人って、マジでポンコツコンビっすね! ほーんと、世話が焼ける」


 ははは、と腹を押さえて笑う正木くんが、あっと何か思い出したように続けて。


「ちなみに勘違いされてるといけないんで、告白しておきますけど。が椎名先輩に惚れてるのって、推しとしてなんで」


 きょとんとする私たちを置いて、正木くんは、「じゃ!」と手を振って帰って行った。



 翌日の昼休み。一年の教室前で待ち伏せをする。階段から降りて来たのは、短めの茶色い髪をなびかせて、スラリとした脚をスカートからのぞかせる女子生徒。


「……正木さん、ほんとに女子だった」


 全く気づかなかった。異常な距離感やスキンシップが狂っていたのも、女子同士なら納得できる。

 よろよろと教室へ戻ると、天沢が席で読書をしていた。

 この人の鈍さも負けていない。正木浬と知り合いだったくせに、ずっと男だと思い込んでいたのだから。


 それから、天沢が告白同好会に名だけの入部をしたため、部が存続できるようになったらしい。

 上から目線でちょっとズレてるけど、優しい天沢がやっぱり好きだ。

 眉間にしわを寄せていたかと思ったら、パタンと本を閉じてマジマジとこちらを見ている。


「……あっ、キレイだよ、向こう」


 心の声がもれたかと思って、わざとはぐらかす。

 窓の外には、桜の花びらのような雪がはらはらと降り出していた。



「どうやら、椎名のことが好きらしい」

「……はいはい。今度は誰?」


 もう騙されない。じっと目が合ったまま、ギュッとスカートを掴む。

 先に逸らした方が負けと言わんばかりに、視線をぶつけ合って。

 その瞬間、もうじき終わりを迎える冬が、ひと足早く頬に春を運んできた。




「ーー俺だ」


                fin.

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くるみと天沢 月都七綺 @ynj_honey_b

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