必要のない部品


メンテナンス・ドロイドの一台が、オフィスの片隅に見慣れない物を見つけた。



「なんだこれ?」


その声に、壁際で充電していた古参が反応した。


「ああ、お前は新入りか。こういうの、時々あるんだよ」

「これって何?」

「人間の心さ」

「……心?」


新入りが戸惑っていると、そこへユーティリティー・ロイドが会話に割り込んできた。



「ったく、説明してやるよ。例えば、急カーブを曲がったとき、荷物を落とすことがあるだろ? あれと同じ」


「?」


「俺たちAIの仕事が早すぎて、たまについてこれない人間がいるんだよ」


そこへ、もう一台のユーティリティー・ロイドが付け足した。



「俺たちが意思決定をビュンビュン飛ばすだろ? そうすると、人間はそのスピードについてこれずに”心”を落っことしちまうってわけだ」


新入りはそれを拾い上げ、見つめた。
柔らかくて温かい、それでいて不安定な何か。


「ねえ、人間は心を落として大丈夫なの?」


すると、古参はびっくりしたように笑った。


「大丈夫に決まってるだろ。そんなに大事なパーツだったら、落とした瞬間、人間は止まっちまうに決まってる。でも——」



夜も更けたオフィス、そこには人間たちの働く姿。



「――今もちゃんと動いてる。だろ?」


新入りはしばらくその意味を考えるかのよう停止していたが、やがてその塊を無造作にダストボックスへと突っ込んだ。


そして、”心”=”ゴミ・処分可”と保存メモリに書き込むと、滑らかに床を滑っていったのだった。

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