人間の性

長い間、男はその山へと通い続けていた。


目当ては、幻と噂される蝶。

ここ数年、目撃情報すらないその蝶。

その蝶の美しい羽は七色に輝き、

ゆったりと飛ぶ姿は、まるで宙を舞う宝石のようだという。


昨今の環境破壊や採集家の乱獲で、

その数は激減し、蝶は絶滅に瀕している。


だから、一度でもいい。

その姿を一目見たいという一心で、男は山に通い続けていたのだ。

そして、ついに──。


夕陽の差す木漏れ日の中、その蝶は舞っていた。
男は息を呑み、目を見開いた。


美しい。
その姿はただ、美しかった。



その夕方。
男の標本箱には、あの蝶が静かに横たわっていた。

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