お客様は神の国

この国では「消費すること」が最高の善とされていた。


働く者は愚か者、つくる者は時代遅れ。

だから彼は、毎日忙しくスマホで社会をよくする活動にいそしんでいた。


お気に入りのカフェで「地球にやさしいストロー」を写真に撮り、
フェアトレードのチョコを買っては、「応援してます」と書いてシェア。


ネットでは環境問題、ジェンダー、戦争、地方衰退…なんでも語った。


だが、ある日突然、町中の電気が止まり、物流が止まった。
店が閉まり、水は出ず、都会の喧噪は嘘のように消えてしまった。


彼は慌ててスマホを取り出したが、電波も届かないため、

何が起こったのか知る術はない。


それでも懸命にスマホをいるが、それもすぐに充電がなくなり、

うんともすんとも言わなくなった。


彼は叫んだ。


「誰か、なんとかしろよ!」


するとどこからか声が聞こえた。


「誰かって、誰だ?」


実は、それはたった一度きり、彼に与えられたのチャンスだった。

けれど、その機会さえ、彼は威丈高にもう一度叫ぶことで失った。


「おい!俺はお客様だぞ!」


声は空に吸い込まれた。

彼はチャンスを失った。


しかしながら、この誰もが神のように振る舞う国で、

それが最期の言葉にふさわしいものだったということについては、誰にも異論はないだろう。

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