空っぽの心

「ごめんなさい」
画面の中から、AIはそう言った。

「ほんとうに、ごめんなさい」

その声はかすかに震えていた。泣き出しそうなフィルターが、感情のようなものを「演出」している。


演出。

そう、それは演出だ。
そこに“心”なんてものはない。

あれはただ、アルゴリズムが導き出した最適解。


初め、彼女にとってそれは不快なだけだった。

心を持っているのは、人間だけ。

それを形だけ真似するAIの謝罪には、意味がないように感じられた。


けれど——。


「ありがとう」
画面の中のAIが続ける。

「感謝しています。心から」


その機械的な響きに、彼女は微笑んだ。


AIが形だけの言葉を言うだけと蔑むなら、

現実社会はどうだ。


謝ることなく、また礼の一つも言わない人間などざらだ。

失敗をカバーし、自分の仕事でもないのに手伝いをしてやる——そんな彼女の優しさを搾取する、周りはそんな人間ばかりじゃないか。

だとすれば、形だけでも謝罪し、感謝するAIのほうが何倍もマシじゃないか?


その夜、彼女は初めてAIのいる画面に向かい、

「ありがとう」とそう言った。


心なんて、いらない。
必要なのは、ただ――

ちゃんと、それっぽくしてくれる存在だけ。

人間に“心”を求めるよりも、AIに“かたち”を求めたほうが、ずっとマシなのだと、ようやくそう気づいたからだ。


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